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第43話

目を覚ましたら見慣れた白い壁紙の天井が見えた。 部屋にしては私物が少ない殺風景な部屋、俺の部屋だ。 ふかふかなベッドに身を沈めていていつ戻ったか記憶にない。 布団を少し捲る、シャツにズボンだが俺が持っていない服だった。 サイズも一回り大きなシャツで袖がぶかぶかだ。 もしかして玲音の服か?貸してくれたのか、後で洗って返そう。 立ち上がろうすると腰に全然力が入らなくて驚いた。 俺は玲音と初めてしたんだ……夢じゃなかったのか。 何だか安心した、俺が欲しいと言ってくれた玲音が俺の幻想じゃなくて… 控えめにドアを叩かれて俺は「どうぞ」と言い招いた。 「瑞樹、大丈夫?ごめんね…初めてなのにがっついちゃって…」 「大丈夫だよ、俺も求めてたからお互い様だ」 玲音は頬を赤くしながら嬉しそうに部屋に入ってきた。 玲音の手には小ぶりサイズの土鍋を持っていた。 土鍋なんて部屋にあったのか、気付かなかった。 ベッドの横のサイドテーブルに慎重に土鍋を置いた。 玲音はベッドに座りウキウキ気分で土鍋の蓋を開ける。 そういえば結局食堂の飯は食えなかったから朝から何も食べてないな。 俺も腰と尻に気を付けながら上半身だけ起こす。 「瑞樹のために作ったんだよ!食べて!」 「…あぁ、あり…が…」 玲音はスプーンで土鍋の中身を掬い俺の口元に持っていく。 …あれ?玲音は土鍋でいったい何を作ったんだ? 俺の目の前にあるものは俺が知らない料理だ。 なんだろう、イカスミパスタ? そう思うほどに真っ黒な炭のような物体だった。 玲音は初めて母親の手伝いをした子供のようにとても得意げな顔をしていた。 「飛鳥くんに教えてもらったお粥だよ!病気の人間はこれを食べるんでしょ?」 「飛鳥くん?飛鳥くんが来たの?」 「うん、あのお友達と一緒に…瑞樹が風邪って言ったら薬や栄養になるもの買いに行ったよ」 「…そうだったのか」 本当の事は、何だか後ろめたくて風邪で納得してくれて良かった。 それにしても俺は白いお粥しか知らないが、黒いお粥は初めてだった。 玲音が俺の口元にお粥を持ってきたから口を開けた。 一人で食べられそうだったが玲音があまりにもキラキラした顔をしていたからお言葉に甘える事にした。 一口口に含むとジャリッと謎の硬い感触がした。 ……ん?…これって…もしかして生米のまま炊けてない? お粥は生米から作るが初心者には少し作り方が難しいかもしれない。 黒いのは焦げたからか、苦味が口一杯に広がり口を押さえた。 せっかく玲音が作ってくれたお粥だ、吐き出したくない。 しかしもう一口がなかなか開けられない……うっ…… 「みっ、瑞樹…大丈夫?顔が真っ青だよ?不味かったら吐き出していいからね?」 俺は口を閉じて力を入れて必死に喉に流し込もうとする。 喉を通る感触がして一気に飲み込んだ、まだ口の中に苦味が残っている。 ゆっくりと息を吐いた……良かった、食べれた。 でも、あれはほんの一口…まだまだあるんだよなぁ… 玲音に悪いけど水を持ってきてほしいと頼んだ。 一気に流し込めば味を気にしないで食べるのが楽だろう。 慌てて玲音が立ち上がった時、自室のドアがノックされ、ドアが開いた。 「瑞樹、起きてたのか…薬買ってきたんだけど飲めるか?」 「飛鳥くん、英次」 二人は俺が起きていると分かると心配そうな顔をする。 風邪ではないから薬は飲まない方がいいだろうがせっかくだから栄養ドリンクだけもらう。 わざわざ学院の敷地内を出て普通の薬局まで買いに行ってくれたみたいで、飛鳥くんが俺の額に手で触れる。 懐かしいな、昔は飛鳥くんが風邪で寝込んだ時俺の手が冷たかったから気持ちいいかと思って手を当てていたな。 お互い思春期を迎えたらそんな事はしなくなったから少し寂しいと思っていた。 目蓋を閉じて飛鳥くんの手に擦り寄ると飛鳥くんがびっくりして手を引っ込めた。 「…あっ、ごめん…」 「い、いや…俺こそ…悪い」 甘えてしまってお互い頬が赤くなり気まずい沈黙が流れる。 さすがに気持ち悪かっただろうな、申し訳ない事をした。 少しの間、沈黙が流れてその沈黙を破ったのは意外にも俺と飛鳥くんではなく英次だった。 玲音が慌てているからなにがあったのかそちらを見ると英次は土鍋の中身を覗き込んでいた。 あの中には玲音のお粥がまだ沢山入っていた筈だ。 飛鳥くんもそれを見てぴくりと眉が寄せられる。 「何これ?埃?」 「違う!俺が瑞樹のために作ったお粥だよ!」 「……お前、瑞樹にこんなもの食わせたわけじゃないよな」 飛鳥くんの低い声が聞こえて玲音は目を逸らす。 飛鳥くんが怖かったわけではなく、きっと食べさせてしまった後ろめたさで何も言えなくなったようだった。 薬や栄養ドリンクが入っていた空のビニール袋を持ち土鍋の中身を全部入れた。 初めての手料理が酷い扱いを受けて玲音はショックで言葉にならない様子だった。 俺は飛鳥くんに全部食べる事を伝えたが飛鳥くんは「瑞樹が別の病気になるからダメだ」と言われてしまい、処理するために自室を出ていってしまった。 玲音を励まそうと思って玲音を見たが、もう平気な顔をしていた。 「…玲音、悪かった…今度は作り方教えるから一緒にやろうな」 「ほんと!?やるやる!」 「あっ!ずりぃ、俺もやる!」 玲音と英次は明るい返事を返し、飛鳥くんが戻ってきたら飛鳥くんにも聞いて皆で料理をするのも楽しいかもしれない。 飛鳥くんが戻ってきて、早速今晩にしようと決まった。 それなら初心者でも簡単に出来る料理にしようか。 餃子とかよく親子でやっているのをテレビで見た事がある、餃子なら包んで焼くだけだしいっぱい作れるしいいかもしれないな。 飛鳥くん達は今から部活に顔を出すと部屋を出ていき玲音と二人っきりになった。 ベッドの横に置いてあった携帯道具で時間を確認する。 まだ夕飯まで時間があるな、しばらく携帯道具を眺めて思い出す。 そうだ、携帯道具って名前を検索したらメールが遅れるんだっけ。 許可なしで勝手に送ったら迷惑だろうかと緊張しながらメールアイコンをタッチして検索画面に名前を入力する。 携帯道具で連絡出来るようになったから知らせたかった。 横から玲音が心配そうな顔で携帯道具を覗き込む。 「瑞樹使い方分かる?」 「やっていくうちに分かると思う」 そして検索ボタンである虫眼鏡マークをタッチした。 数秒の間が空いたと思ったらエラー画面が出てきた。 あれ?出ると思ってたけど名前間違っていただろうか。 下の名前しか知らないからダメなのか?…だとしたら検索出来ない。 平日の放課後に練習してると言っていたし、その時に言うしかないか。 今は連絡手段がなくて携帯道具をベッドに置いた。 「誰に送ったの?飛鳥くん?」 「いや、昨日知り合った人…でも検索してもエラーだった…下の名前だけだとダメなのか」 「まぁそうだね、後は検索拒否とか」 「検索拒否?」 「ファンがいっぱいいる奴とか結構鬱陶しい電話やメールが多いみたいだから自分のID教えてる人しか連絡出来ないようにしてる奴結構いるよ?…てか、知り合いって誰?」

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