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第45話

『貴方はいったい誰ですか?』 そう打ち込む指が微かに震えていた。 怖いのかもしれない…知るのが…でも、知りたい…俺の事だから… そしたら何故玲音が俺に隠しているのか分かるように感じた。 無機質な明るい音が静かな部屋に短く響き返信が来た事を知らせてくれた。 緊張で唾を飲み込みながらメールを開いた。 宛名はその人で内容は『知るのが怖い?』という一言が添えられていた。 まるで俺が怯えている事を見透かしたような一言に言葉が出なかった。 するともう一件メールが届いた。 また同じ人からのメールだと思っていた。 その宛名を見るまでは… 『お迎えに上がりました、俺の姫』 そうメールが届いた。 宛名は、俺を姫と呼ぶ人なんて一人だけだ。 誓司先輩からのメールだ。 迎えに来たと書いてあるが、もしかしたらもう部屋の前にいるという事なのだろうか。 俺は携帯道具を持ちながら自室を出た。 真っ暗な室内を携帯道具の明かりだけで進む。 電気をつける時間がもったいないと思った。 暖かくなった季節とはいえ夜中は寒い、いつから待っていたのかは分からないが誓司先輩なら何時間もそこにいるような気がした。 ドアを開くと壁に寄りかかりこちらに微笑む誓司先輩がいた。 「俺のメールで出てきてくれて嬉しいな、姫」 「…先輩」 慌てていたからか少し息を切らした俺の頬を愛おしげに触れる。 手が冷たい、元々体温が低くても今さっき来たんじゃない事ぐらい分かる。 誓司先輩が迎えに来た、ならあのメールは本当なのか。 誓司先輩の冷たい手に手を重ねて少しでも暖かくなるように握る。 少しだけ、冷たさが和らいだ気がした。 誓司先輩は下を向いて肩を震わせていた。 そういえば飛鳥くんにも嫌がられたっけ、つい甘えてしまってどうしようか戸惑う。 「ご、ごめんなさい誓司先輩!今、手を離っ」 「もう無理、もう我慢出来ねぇ」 「……え?」 誓司先輩は小さくそう呟き、俺の腕を掴み引っ張った。 背中から部屋のドアが閉まる音が聞こえた。 誓司先輩とは身長差があるからバランスを崩し、誓司先輩に覆い被さる体勢になった。 それだけだとすぐに退けば終わる話だが、誓司先輩は俺の腕を離さなかった。 それだけではなく、唇が合わさっていた。 これはキス?…いや、倒れた衝撃の事故ならキスではないのかもしれない。 しかし誓司先輩は舌を入れてきた。 俺の舌を撫でて吸い付き、誓司先輩の牙が舌に当たりくすぐったかった。 足の間に誓司先輩の足を割り込ませて、広げられる。 下半身をスリスリと擦り合わされて驚いて逃げようとするが逃げられない。 やっと唇が解放されて俺は顔を赤くして誓司先輩に言った。 「だ、ダメです先輩!俺には玲音がっ!」 玲音と恋人になったのかは分からないが、曖昧なまま他の人とこんな事をするべきではない…そう思った。 誓司先輩はさっきまで嬉しそうに俺を見つめていたのに表情をなくした。 え…?あれ?誓司先輩、眉を寄せている? もしかして俺の勘違い…とか? だから誓司先輩は「勘違いしてんじゃねーよ」と怒ってるのか? 誓司先輩は俺の手を掴み眺めた、俺の指輪を… 「…ッチ、瑞樹様のはじめての愛は俺のものにしようとしてたのに」 「…先輩?」 「そろそろ行きましょうか、待たせるといろいろとうるさい人が待っているので」 そう言った誓司先輩はいつものにこやかな顔で俺の腕を引っ張り立たせてくれた。 指輪の事、誓司先輩は知っていた…魔物なら皆知ってる事なのか? 飛鳥くん達にも料理している時にみられたがお洒落くらいにしか思われてなかったから元々の魔物にしか知らないなにかがあるのかもしれないな。 誰に会うのか、結局メールの人物に聞いても答えてくれず誓司先輩に聞いても「会えば本人から言いますよ」と言われるだけで教えてくれなかった。 『櫻』それがその人の名前だった。 誓司先輩の知り合いなら悪い人ではなさそうだが、玲音に一言メールを送った。 携帯道具を寝間着のズボンのポケットに入れていつもは誰かしらいるのに寝静まった寮を後にした。 「姫、寒くありませんか?俺の上着で良ければ」 「大丈夫です、誓司先輩こそずっと廊下にいたんですよね…寒くありませんか?」 「俺は瑞樹様の口付けて身も心もポカポカですよ」 そう言って誓司先輩は笑った。 キスってそんな力があるのか、知らなかった。 寮の裏庭、初めて行く場所で緊張した。 普段も薄暗く不気味な外は昼間だからあまり怖くなかったんだと気付いた。 真夜中の、しかも2時過ぎ…ぞくりと背筋が冷たくなった。 揺れる風の音も人の悲鳴のように聞こえた。 助けて、怖い、恨んでやる、死ね死ね死ね… 「瑞樹様、耳を傾けなくていいですよ…瑞樹様の耳が腐ってしまいます」 「……え」 「この土地はいろんな人間、魔物がその血を流し生き絶えた場所だから夜になるとこうして誘い込んで呪い殺したりするんですよ」 じゃあこの声は幽霊の声なのか? 姿は見えないが初めて幽霊の声を聞いた。 この場に英次がいたら発狂していただろうなと苦笑いする。 魔物がいるなら幽霊は当たり前かと対して怖くはなく、正体も分かったしもう釣られる事はなく不安もなくなった。 誓司先輩は後ろをチラチラと振り返る。 まだ何かいるのかと思い俺も後ろを振り返る。

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