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第46話
「…瑞樹様、怖いなら俺にくっついてもいいですよ!」
「あ、大丈夫です…ただの声だし気にしなければ平気です」
「…………そう、ですか」
誓司先輩の声がだんだんと小さくなっていく。
俺が後ろにくっついていたら誓司先輩が歩きにくいと思っていたんだけど…
もしかしたら誓司先輩、やっぱり寒いのか?
でもさっきああ言ったから言えなくなったのか。
歩く速度を少し上げて誓司先輩の横に並ぶ。
そして誓司先輩の肩を掴みそのまま引き寄せた。
「っ!?」
「…温かくなりましたか?」
「……瑞樹様の体温を感じます」
誓司先輩を抱き締めると胸の中に丁度よくおさまった。
周りにいる知り合いは皆、身長高かったり同じくらいの身長だからこんな事出来ない。
温める方法はこれしか知らないが誓司先輩が俺に腕を回して密着しているから温かい…誓司先輩も熱っぽく囁いた。
ほどよく温まってきたからそろそろ行った方が良いとは思うが誓司先輩は行く気配がない。
大丈夫なのか聞いても「…もうちょっとだけ」とギュッと力を強める。
風が強めに吹き荒れ、身震いした。
「…瑞樹様、大丈…」
「遅いと思ったら、こんなところで何やってるの?」
凛とした美しい低音の声が響いた。
なんで、こんなに悲しくなるような切ない気持ちになるのだろうか。
声のした方を見つめると、暗闇の中なのにその姿ははっきりと写し出されていた。
一つに束ねていた腰まで長い髪が揺れ、中性的な少年と青年の間くらいの年齢の人がいた。
架院さんと同じくらいの美しい人だ。
その美貌に見とれていたら誓司先輩が俺から離れた。
「もう少し待ってくれたら良かったのに」
「僕が来なかったらずっとここで抱き合ってたんじゃない?」
ニコニコと笑ってはいるが、威圧感がとても凄い。
この人は俺を学園に呼んだ人…だよな。
いったい何者なんだろう。
誓司先輩と親しいようだし、先輩だろう。
誓司先輩と一言二言話して俺の方を振り向き目があった。
なんで、そんな悲しい顔をして俺を見つめているのだろう。
「…初めまして、だね」
「初めまして…なんですか?」
「…………初めましてだよ」
初めましてと言われて、心の何処かで違和感を覚えた。
初めての筈なのに、なんでこんなに懐かしいんだ。
俺が一歩前に踏み出すと彼もまた少しずつ近付いてくる。
誓司先輩は何も言わずただ近くの木に寄りかかり俺達を見守っていた。
その人は俺に触れようと手を伸ばすが、寸前で手を止めて力なく下ろしてしまった。
…残念だと思うのは変なのだろうか。
「まずは自己紹介だね、僕の名前は黒川 櫻 」
「森高、瑞樹です」
「君をこの学園に呼んだ理由、知りたいんだよね」
「…はい、でもなんで今…なんですか?」
「誓司くんから君が力を覚醒させたと聞いたからそろそろだと思ったからだよ」
覚醒?誓司先輩と最後に会ったのは今朝食堂でだ。
あの時体が熱くなったが、あれが覚醒?俺の…力?
指輪に触れる、櫻さんも指輪を見て目を細める。
そして櫻さんは形の美しい唇を開き俺に教えてくれた。
俺がいったい何者か…
「魔界で代々伝わるおとぎ話があるんだよ」
「…おとぎ、話」
「一人の人間の女性と二人の魔物の話」
語られるその物語は魔界で伝わる最古のおとぎ話だと言う。
まだこの世界が人間界と魔界に別れていなかった頃の話。
純愛で悲恋な三人の話。
三人がどうなったかいいところで終わってしまった。
物語では場所は違うが証があったのは悪魔の御子と呼ばれた女性だった。
じゃあ俺は、悪魔の御子なのか?
「その娘の内股には生け贄の証が刻まれていたんだよ」
「……え」
「魔物にその身を捧げ、生涯を共にする…魔界の女王になる証だ…人間であり、最古の魔物に選ばれた者のみがその証を身に刻まれる、魔物が見つけやすいように」
「…内股なんて分からないと思いますよ、足を開かないと」
「うんそう、足を開けば見える…その人間を愛した魔物にしか見つけられないね」
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