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第47話
爽やかに櫻さんはそう言うが俺は玲音との行為を思い出し顔を赤く染めた。
……何を思い出しているんだ、俺は…
この内股にあるのは、魔界の女王の証?俺が?なんで?
誓司先輩は付け足すように「瑞樹様はまだ若いので姫なんですよ」と言った。
姫って、学兄さんじゃないのか?学兄さんの証は見た事はないが皆は学兄さんが姫だと言っている。
でも、俺に嘘をついてるようにはとてもじゃないが思えない。
「学兄さんは?皆、学兄さんが姫だって」
「僕は君を呼んだんだよ、君に入学案内の用紙を送ったのに手違いで森高学くんが来てしまった…人間嫌いの理事長には面倒になるから内緒にしていたんだけどね」
「じゃあ学兄さんは…」
「ただの人間、この学院に来る資格がない子なんだよ」
手違いで学兄さんは俺に巻き込まれて入学したのか?
学兄さんが来た経由は櫻さんもよく分かっていなくて「最初から直接誓司くんに渡した方が良かったかな」と誓司先輩に目線を向けた。
誓司先輩は当然と言いたげな顔をしていた。
櫻さんの話によれば俺より先に来たから姫だと思われているみたいだった。
じゃあ学兄さんには証がない?
だとしたら、俺なんかよりも状況は最悪なのではないのか?
「学兄さんが姫ではないただの人間だって知られたら…」
「…きっと今まで慕っていた魔物達は手のひらを返して彼を殺すだろう」
「じゃあ早く学兄さんを転校させなきゃ!」
「そう簡単なものじゃないんだよ、もし姫だと騙した事を知られたら彼が転校しても恨みが膨れ上がり彼を地の底まで追いかけて復讐を果たす者が出てきても不思議じゃないんだよ」
理事長は初めの頃、俺に秘密を知ったからには生きて帰すわけにはいかないような事を言っていた。
櫻さんの言うとおりになる危険が高い。
櫻さんの考えでは学兄さんはこのまま姫としていた方が安全だと言う。
俺もそれがいいと思った……正直学兄さんみたいなカリスマ性もない俺が姫だと言うだけで慕われるのは居心地が悪すぎる。
今までのように玲音と飛鳥くんと英次と楽しく過ごせてたらそれでいい。
俺は櫻さんの考えに賛同するように頷いた。
しかし誓司先輩は納得がいかないのか不満を口にした。
「なんであんなドブネズミを野放しにするんですか?あんなの死んだって誰も困りませんよ!」
「…誓司くん、彼が好きならもっと彼の気持ちを知った方がいい」
「っ!」
誓司先輩が俺の方を一瞬見て目を伏せた。
先輩が学兄さんの事を好きではない事は分かっている。
でも、学兄さんが死んで悲しむ人は俺なんかよりも多いんだ。
学兄さんがそんなに好きではなくたって死んでしまったらもう会えないんだ…何も伝える事が出来なくなってしまう。
俺は学兄さんに生きていてほしい、生きていれば…いつか和解できる時が…きっと…絶対来るって信じてるから…
誓司先輩は「…瑞樹様は優しすぎますよ」と小さく呟いた。
俺はそんな立派な人間じゃないよと苦笑いした。
「その優しさはこの学院では危険だね」
「…俺は優しくなんて」
「一度襲われたなら分かるよね、皆君に優しくはないんだよ…殺すか食料としか思われていない…君が姫だと知るのは片手で数えるほどしかいないんだよ」
「…………はい」
「君はこれから姫ではなく君自身を見てくれる仲間をどんどん増やし、生き延びなくてはならない…姫だからと言って絶対安全ではない、学くんの周りもいつ牙を向けるか……君は仲間にばかり頼らずに時には自分の手で困難を乗り越えなくてはならない、常に誰かに守られていれば生きられるほどこの世界は優しくない、それが姫として生まれてしまった宿命という名の呪いだ」
「…でも俺、弱くて…魔物に勝てるか」
「姫は魔物を引き寄せる見えない魅力を放っているんだよ、常に狙われるもの…仲間の隙を狙い君の血や命を奪うチャンスを伺っている…歴代の姫は吸血鬼、魔法使いの二人から力をもらっていた…その力は自分を守る殻になる……………瑞樹くん、君は歴代の姫とは明らかに違う部分がある」
「違い…ですか?」
「君は歴代の女性姫と違い、男だ…体の作りが違う…だからその力は殻だけではなく、身を守るための剣にもなるかもしれない…君が他人に迷惑掛けたくないと思うなら…授かった愛の力を使えばいい、この力は君のものだ」
愛の…力……俺は指輪に視線を落とす。
自分の身を自分で守れるなら玲音を安心出来るかもしれない。
まだ本当に魔物に通じる力を授かったのかは分からないが使える力なら使いたい、力があれば守られるだけじゃなく誰かを守れるかもしれない。
歴代の姫は二人の魔物から力をもらっていたという事はこの指輪を共有したって事なんだよな、多分。
俺は玲音の力をもらったから残りは魔法使いだけか。
魔法使いの知り合いといえば英次か、でも…してくれるだろうか…あんな、事…
「最初は取られてしまったが、二番目に瑞樹様の愛を受けるのは俺だ!」
「…誓司先輩って魔法使いなんですか?」
「え?俺があの貧弱魔法使いに見えますか?」
「だって吸血鬼はもう玲音がいるので…」
「別に二人だけとは決まっていないんだよ、たまたま歴代の女王達は縁がなかっただけで…数が多ければそれだけ強くなるし、君が無事に学院を卒業出来るし…もし学くんが人間だってバレても守る事が出来るよ」
そうなのか、恋人と言うから一人だと思っていた。
そういえば玲音もそんな事を言っていたなと思い出す。
俺が強くなるために、愛を与える…それじゃあまるで利用しているだけじゃないのか?
こんな俺でも愛してくれている人がいるのに…だったら俺は…
櫻さんと誓司先輩を見つめた。
二人は俺が答えるのを黙って聞いてくれていた。
「玲音は俺は誰のものにならず愛を与えてくれればいいと言いました、でもそれじゃあ俺を好いてくれる人達に何も返していない、だから俺は強くなるためではなく…好きになった人達にはちゃんと考えて愛を与えたいです…対等でいたいんです」
「……魔物と対等?不思議な事を言うね」
「変…ですか?」
「いや、そうだね…うん…いいんじゃないかな?瑞樹くんがしたいようにすればいいよ」
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