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第48話
これが俺の愛し方だ、俺を好きになってくれた人達と共に強くなりたい。
それが、俺の…姫としての正体…
愛の力はまだ分からない事だらけだが俺が姫だという事は分かった。
誓司先輩は「じゃあさっそく俺と…」とシャツのボタンを一つ外すと櫻さんに「こんな場所で何しようとしてるの?」と怒られていた。
誓司先輩は俺をそういう意味で好きだったのか、知らなかった。
スキンシップが好きな人くらいにしか思わなかった……少しだけ変態っぽいと思って申し訳ない。
「誓司先輩」
「…はい」
「俺はもっと誓司先輩を知りたいです、まずは先輩の事教えてくれますか?」
「何でも聞いてください!」
「それはまた今度にして、君をこの学園に呼んだ理由を教えようか」
誓司先輩は話を遮られてムスッとした顔になって木に寄りかかった。
俺の正体と関係しているのだろう、この学園に呼んだ理由。
俺が姫だから…それだけだったらわざわざ俺を呼んでまで話さないよな。
櫻さんは俺に学園に来る前日の話をした。
英次が変な奴に襲われて、誓司先輩に助けてもらった。
きっと誓司先輩に聞いたのだろう。
「誓司くんが殺したあの男は吸血鬼…君の姫の匂いに誘われて魔界から来てしまったみたいだね…姫の血と肉は魔物にとても強い力を授けると聞くからきっとそれ目当てだろう」
「…俺のせいで、英次が…」
「まぁ結果的に君をこの学院に呼ぶ口実が出来て良かったよ……君があのまま人間界にいたらあんな危ない奴らに喰われるところだったから呼んだんだよ、この学院も危険だけど魔物と戦える君の味方がいる学院の方が安全だって思ったんだ、僕も見守りやすいからね」
「俺…そんなに匂いますか?」
「大丈夫、匂いは一時的に消せる…担任の先生に消してもらったでしょ?それに人間の匂いを知らない魔物は姫の匂いはただの人間の匂いだって思い込むから人間だってバレても姫だってバレてないよ」
櫻さんは不思議だ、何でも知っているように話す。
本当に見守ってくれているのだろうかと安心出来た。
俺を守るためだったんだな、知れて良かった。
姫とは学兄さんの周りとは違い、決して華やかなものではないんだな。
常に魔物達に狙われていて、いつ殺されるか分からない死と背中合わせの毎日なのだろう。
玲音は俺の指輪の事を知っていた、きっと俺が姫だと知っているのだろう。
だったら玲音の心配ももっともだろう……信頼出来そうだからと俺は玲音の本当の気持ちも知らずに自分勝手な事を言ってしまった。
「なにか悩みでもあるの?」
「…あ、その…れお…友人と喧嘩してしまって」
さっきから玲音玲音言っていたから友人が玲音だというのはもう分かっているだろう。
会ったばかりなのに俺は櫻さんに悩みを打ち明けた。
櫻さんも俺にいろいろ教えてくれたからだろう、すっかり信用していた。
誓司先輩の知り合いというのもあるが、この人の隣はとても落ち着いた。
下を向くとさらりと前髪が影を作る。
櫻さんは前髪を撫でて俺の頬に触れた。
寒い夜の中、ずっと外で待っていた筈なのにとても暖かい。
「君は、どうしたい?」
「…俺?」
「彼がダメって言ったら行かないの?君に意思はないの?」
「………でも玲音に心配掛けてしまう」
「玲音は君の騎士なんだからわがまま言うくらいがちょうどいいよ」
「騎士?」
「契約で姫を守る盾となった騎士、瑞樹は騎士を好きに使っていいんだよ…主が従者のいいなりなんて可笑しいでしょ?」
俺は玲音を盾や従者なんて思わない、櫻さんが例え話を言っているとしても俺は玲音と対等でいたい。
そこで俺は気付いた。
……対等になりたいと思っているのに対等に接していなかったのは俺の方だ。
玲音は俺に自分の気持ちをぶつけてくれた、でも俺は紅葉さんは悪い人ではないと口にしていても玲音に反対されて迷ってしまった。
玲音と話し合いたいと思っていたがあの時玲音が部屋にいて話し合いをしていたら俺は玲音を説得出来ただろうか。
何も知らない俺が何を言ってもきっと玲音が何故そこまで俺を信用していないのか分からず、さらに関係が悪くなっていたかもしれない。
今なら分かる、俺は普通の人間ではなく姫だった…しかも魔界の女王なんて大層なものだ…なにかあったら俺だけではない、魔界全体になにか起こるかもしれないから玲音は心配していたんだ。
俺にその実感がまだないが、誰にも必要とされていなかった俺が大勢に必要とされる……それはとても怖かった。
女王はどんな役割があるかはまだ分からないが、俺を必要としてくれる人がいる…応えなくてはと思うと今から憂鬱の気分だ。
「姫は大切な存在だけど、さっきも言ったように殻に閉じ籠っていて生き延びられるほどこの世は甘くないんだよ」
「…じゃあ、俺は…どうしたら」
「そうだね、いきなり実戦は無謀だ…君は戦いとはどういうものか分からないみたいだし……そうだ、誓司くん…瑞樹くんを鍛えてあげてよ」
鍛える、そうか…それで強くなれば俺は怯えて過ごさなくていいんだ。
とても簡単な事なのに俺はなんで思い付かなかったんだ?きっと俺は今まで体を鍛えるのは自分の身を守るためだけで、立ち向かうために戦おうと思っていなかったからだろう。
俺は誓司先輩を見た。
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