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第49話
誓司先輩はとても強い人だ、まだ弱い俺にはそれくらいスパルタの方が身に付きそうだと思った。
誓司先輩に期待の眼差しを向けると誓司先輩は眉を寄せて腕を組んでいた。
不満そうに櫻さんを睨んでいる。
誓司先輩は忙しいだろうから押し付けられたのが嫌だったのだろうか。
誓司先輩に教えてほしかったが無理強いは出来ないと思った。
ため息と共に誓司先輩は口を開いた。
「俺に瑞樹様を殴れると思うのか?」
「…彼のためなら何でもするんじゃないの?」
「俺達は姫騎士ガーディアンだ、契約なんてなくても瑞樹様を守る使命がある…そんな俺が瑞樹様に危害を加えるなんてあり得ない!!」
「そう?ガーディアンって面倒くさいね、じゃあどうするか…玲音は…誓司くんみたいな答えになりそうだから、僕がやろうか?」
「櫻さんが?」
「僕は、嫌?」
俺は首を思いっきり横に振り、ちょっと頭がくらくらした。
櫻さんが俺の修行に付き合ってもらえるならとても嬉しい。
「よろしくお願いします!」と頭を下げると櫻さんは笑って「こちらこそよろしく」と握手を交わした。
誓司先輩はやりたくないと言っていたのに櫻さんがやる事になり、荷が下りたとホッとするどころかさらに不機嫌になっていた。
俺と櫻さんが握手をしている手をずっと睨んでいた。
櫻さんは小さく息を吐き誓司先輩を見た。
「今度はどうしたの?瑞樹くんじゃなく君がわがままになってどうするの?」
「…瑞樹様を独り占めしたいのは騎士なら当然の事だ」
「………瑞樹くんに契約断られたのに?」
「断られたんじゃない!まだその時ではないだけだ!」
誓司先輩がムキになるところを初めて見た。
いつも誰に対しても余裕そうな口調なのに声を荒げていた。
しかも櫻さんの方が余裕で誓司先輩をからかっているように見える。
俺はそんな二人を呆然と見つめていた。
誓司先輩は監視するために修行に付き添うと言った。
俺の監視ではなく櫻さんの監視らしい。
「瑞樹様に教えるのが下手で傷一つ付けたら俺が全力で止める!」
「鍛えるんだから傷の一つや二つ、男の子の勲章でしょ?」
「瑞樹様をそこら辺のクソガキと一緒にするな」
「まぁいいけどね、だったら他のガーディアンも呼んできてよ…部活として申請出しとくから」
「それなら玲音も変な心配しないでしょ?」と俺に向かって綺麗で完璧なウインクをした。
不覚にもドキッとした。
部活なら帰りが遅くなっても心配掛けないだろうが、玲音に相談………いや、ダメだ…俺はもう迷わない…報告だけしよう。
自分で決めた事は自分で決める。
紅葉さんの件と一緒に相談ではなく報告をしよう。
櫻さんは俺の頭を撫でた。
あれ……なんか……
「良かった…君の前に現れて」
「………え?」
「ん?眩しいと思ったらもう夜明けか」
櫻さんの言葉の意味が気になり問おうとしたら誓司先輩が呟いた。
よく見たら何も見えなかった外は僅かだが光が差し、夜が明けた事を知らせていた。
そうだ、早く帰らないと玲音が心配するな。
櫻さんとは部活で会えるし、今感じた疑問はもう少し親しくなったら聞いてみようとそう思った。
あの頭を撫でられた感触、俺は知っていると感じた。
櫻さんと誓司先輩とアドレスID交換をして、二人と別れた。
櫻さんと会う前の俺とは違い、晴れやかな気持ちだった。
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