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第53話

※誓司視点 生まれてからずっと姫を守る騎士になれと言われて育ってきた。 期待されて押し潰されて、俺にはそれしか生きる意味がなかった。 物心がついた時は一度反抗心を抱いて姫騎士になんてなりたくないと思って家出をした事があった。 行き場なんてなかったが少し頭を冷やしたかったのかもしれない。 魔界の中でも危険で凶悪な魔物が住んでいると言われている森の奥深くの水辺で座り込み水面を覗いていた。 俺にとって森の中は子供の頃からの修行の場だったから怖いとか危険という感覚はなく、庭同然のように思っていた。 ただなにかをするわけじゃなくボーッとしている時、俺はあの人と出会った。 櫻と名乗ったその男は俺を知っていて、俺も知っていた…直接会うのはこれが初めてだったけど。 櫻さんは俺の隣に座ったから俺を連れ戻しに来たかなにかなのかと思って警戒心むき出しで睨んだ。 しかし櫻さんは穏やかに笑っているだけで俺になにかするようには思えなかった。 「……なんか用?」 「別に…」 その短い会話しかしていなかった、それ以上話す事もなかった。 櫻さんの手には少しだけ分厚い本が握られていた。 何の本なのか、タイトルなくも表紙も真っ暗な本に興味を抱いた。 最近字を書く勉強をしていたから覚えたての言葉を読みたくて本を読むのが好きだった。 この本は家になかったと思う、どんな本なのか気になった。 本に熱視線を送っていたら櫻さんは気付いて俺に本を手渡してくれた。 その本を受け取り、ペラペラとページを捲った。 難しい字が沢山あったが何とか読めると一文字一文字溢さず目で追いかける。 どうやらこの本は姫伝説の歴史が書かれている本だった。 姫伝説は児童書や小説になっていて、それは姫を守る一族の家だったから当然あって読んでいた。 だけどこの本に書かれているものは児童書にも小説にもなかった真実だった。 隣にいる櫻さんを見つめると櫻さんは湖の向こう側を眺めていた。 「…姫って、契約って…力ってなんだ?」 「それが二人の魔物に愛された姫が背負った呪いだよ」 「呪い」その言葉だけが俺に重く脳内で響いた。 姫はただ守られて愛されているだけではないのか? 俺はまだ知らない、姫とはいったい何なのか…紋様についても子供の俺は理解出来なかった。 こんな得体の知れないものを守らなくてはいけないのか。 そんな奴より俺は自分の守りたいと思った子を守りたいと主張した。 櫻さんに言っても俺の宿命がどうなるわけでもないだろうけど言いたくなった。 櫻さんはそんな俺をただ黙って聞いているだけだった。 「少し、外に出てみないかい?」 突然櫻さんはそんな事を言う、正直何を言っているんだという気持ちでいっぱいだった。 ここはどう見ても外だ、ここ以外の外って何の事だ。 眉を寄せて不審そうに櫻さんを見るが、手を差し伸ばされて好奇心に勝てなかった。 しっかりと櫻さんの手を握るとそのまま何処かに向かって歩かされた。 俺が行った事がない知らない道をどんどん進んでいき、年中薄暗い筈の魔界にだんだん光が差していく。 俺はその光景をただ見つめていてため息を吐いた。 「君が姫騎士にならないのならそれでもいいんじゃないか?…でも、外を知らないままで辞めるのはとても勿体ないよ」 「……」 「姫は、人間は…決して怖いものではない」 人間を怖いなんて思った事はない、むしろ下等生物だと思っている。 だから人間は本の中の姫しか知らないし、人間の事なんて知りたいと思った事もない。 ここは人間の世界の公園と呼ばれているところだ。 来たばかりの頃の俺はどういう場所か分からず小さい人間が沢山いるなぁと眉を寄せる。 俺が気になるのがジーッと見られるのが不快だ。 目を逸らそうとしたら、一人だけ変な子供がいた。 地面に倒れてピクリとも動かない、何をしているんだ?人間は分からない。 だけどなんでだろう、彼から一瞬も目が逸らせない。 「おい何してるんだよ!」 「早く来いよ!財布なんだから!」 「…も、もう…お小遣いなぃ」 「うるさい!また殴るぞ!」 涙で酷い顔をしている子供は後ろからやって来た悪ガキ三人組に服を掴まれて無理矢理立ち上がらせて引っ張っている。 弱々しい声だが必死に泣きながらお金がない事を言うが足を軽く蹴られた。

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