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第54話
※誓司視点
人間が何されようとどうなろうと俺の知った事ではない。
俺に優しさなんて求めている方がどうかしている。
そうだった筈だ、なのに…なんでこんなに心がイライラするのか分からない。
今すぐにでも全速力で走っていきあの悪ガキ共を…
でも行く事は出来ない、櫻さんに肩を掴まれていて身動きが取れない。
まるで俺がこうなると分かっていたかのようだ。
「彼を守りたい?」
「…は?なんで…」
「心がざわついているみたいだから」
全て見透かしてるってわけか、姫なんかよりこの男の方が不気味に思える。
櫻さんは前を向いていた、その目線にはあの子供がいた。
自分の力ではなく引きずられるように引っ張られているからまた転けている。
助けなくていいのかと櫻さんを見ると、不思議な表情をしていた。
冷たいように見えてその瞳の奥には愛情のような暖かさが見えていた。
櫻さんと彼はいったいどういう関係なのだろうか。
「彼とは会ってはならないよ」
「は?意味わかんねぇ、何でだよ!」
「君は姫騎士を辞めるのだろ?」
意味が分からない、この事と姫騎士は関係ないだろ。
櫻さんを睨むが俺と櫻さんは倍くらいの身長がある。
俺が櫻さんの言葉を無視して行こうとする前に櫻さんに荷物を担ぐように脇で担がれた。
もうあの子供は公園からいなくなっていて、櫻さんに下ろされた。
暴れてみるが全く効果がなくて疲れるから止めた。
まずはなんで姫騎士じゃないと彼を助けられないのか聞いてやろうじゃないか。
「なんで姫騎士じゃないとダメなんだよ」
「…彼は姫だからだよ」
「……な、に?」
まさかそんな事があるのか、さっきまで少年達がいた場所を見つめる。
姫って、だってあれはどう見ても男ではなかったか?
え…俺が守る筈の姫は男で、彼がその姫で……えぇ…
戸惑いが隠せない俺を可笑しそうに笑う櫻さんにムスッと不機嫌になる。
俺はあんなに嫌だった姫に一目で心を奪われたというのか。
信じられないと思う自分がいて、胸の鼓動が早まるのもまた自分だった。
「俺が姫騎士になったら、彼に会える?」
「…そうだね、会えるだけじゃなくてお話も出来るよ」
話も出来るのか、とても魅力的に感じて目を輝かす。
でもその機会も姫騎士を辞めれば全てなくなってしまう。
俺は姫だからではなく、彼自身にとても興味が湧いた。
名前はなんと言うのだろうか、好きな食べ物は?何でも知りたい…知ってほしい。
…俺の名を呼んでほしい、その気持ちは初めての感情だった。
魔界に帰ってから俺は再び姫に書かれた本を読んでいった。
全て神話の姫ではなく、彼に置き換えて日が経つほど憧れていてそれが恋心だと自覚するには時間は掛からなかった。
姫には生まれる前から魔界の王子二人と結ばれなくてはいけないというクソな掟がある。
でもそんな事はどうでもいいし、知った事ではない。
他の誰でもない、ガーディアンであるこの俺が守ります……俺のお姫様。
この気持ち初恋だ、初めて出会った時から一ミリも気持ちは変わらない。
一目惚れなんて不透明なものを信じていなかったが、これがきっと一目惚れ。
「俺の気持ちは気の迷いでも姫だからでもありません、貴方だったから俺は傍に居るんです」
「誓司先輩」
「一目惚れって本当にあるんですよ」
瑞樹様に俺の気持ち、全て届けばいいのにと思わずにはいられない。
こんなに愛しているのに言葉じゃ伝わりにくい。
だとしたら、貴方自身の心で俺を分かってもらいます。
俺の話が終わると瑞樹様は恥ずかしかったのか頬を赤く染めていて可愛らしい。
今すぐ押し倒したいが瑞樹様を怯えさせるわけにはいかないからぐっと我慢する。
「あんなところ見られていたのか」と小さく呟く。
そりゃあ瑞樹様の事ならいつだって見ていたいですね、あの時はたまたま目に入っただけだけど)
「それが俺が瑞樹様に惚れている理由です」
「…ほ、惚れ…」
あれから何度も何度も瑞樹様に遠目から眺めていた。
弟や友人に自分のパンを分けていた優しさ、何を言われても泣かなくなった強さにますます惚れ込んだ。
初めて会話をした時、正直かなりムカついたが友人を守る瑞樹様はこういう方だと分かっていた。
だからちょっと条件なんて出していじめてしまったが、それは許して下さい。
姫なんてそんな肩書きがなくても俺の瞳にはただ一人しか写りませんよ。
俺が惚れた理由だけではなくもっともっと瑞樹様に知ってもらいたい。
「後はそうですね、好きな食べ物は魔界にしかないリズルの果実が好きです…あ、瑞樹様も美味しそうですよ」
「……俺は美味しくないですよ」
「そんな事ありませんよ、こことか…美味しそう」
「…んっ」
シャツの隙間に指を入れて首筋に触れると瑞樹様が目蓋を閉じて可愛らしい反応をする。
俺がこの時をどれだけ待ち望んだと思うんですか?
さっきの話では言わなかったけど、俺…何回も瑞樹様を思って自身を慰めたと思うんですか。
貴方が俺を性に目覚めさせたんですから責任取ってもらいたいですね。
この服のもっともっと奥の果実に噛みつきたい。
きっとそこはとても甘い蜜が溢れてくるのだろうな。
「瑞樹様、俺を貴方の夫にしていただけますか?」
「…誓司先輩を?」
「二人きりの時だけで構いません、貴方を独り占めにしたい」
「俺がこの部屋に来た、それが俺の答えです」
そう言った瑞樹様は俺に触れるだけのキスをした。
瑞樹様から与えられる初めてのキス、ファーストキスはもらったがやはり瑞樹様からのというのが一番意味がある。
舌を瑞樹様の口内に入れると慣れていないからかたどたどしく舌を撫でていた。
瑞樹様は姫、俺が気にしなくてもそれは変わらない。
だから本当の意味で独り占めは出来ないがこの時くらいは構わないだろう。
本当は瑞樹様の初めてもほしかったが…まぁいい。
あんな奴より俺の方が満足させればいいんだし、その自信もある。
キスをしながら瑞樹様の体をベッドに寝かせると甘く俺の脳内を痺れさせる声と共に吐息が漏れる。
制服越しに体を撫でるとピクンと震えた。
瑞樹様の手を取り、華奢な指にぴったりと嵌まる指輪に口付けた。
ギュッと強く手を離さないように強く重ねて握った。
「瑞樹様、これが俺の愛です」
「あっ、うくっ…」
瑞樹様の顔が歪んでいる、今どういう気持ちなんだろう…そんな瑞樹様に興奮してしまってごめんなさい。
俺は瑞樹様が楽になるように何度も何度も唇を重ねた。
キスをする度に繋いでいる指に力が入っている。
俺の愛はこんなものじゃない、もっともっと貴方に…
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