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第57話

「…ん、ん…」 寝返りを打って、布団を握りしめる。 顔に掛かった髪を優しく退かされて、うつらうつらの視界の中目を開けた。 少し薄暗い室内にカーテン越しから外の光が明るく見えた。 ベッドに座って俺を覗き込むのは下着姿の誓司先輩だった。 そこで昨日の事を思い出して誓司先輩に手を伸ばす。 手を握られ手の甲に唇を押し当てた。 「起こしてしまいましたか?」 「いえ、もう朝ですか?」 「まだお休みになってもいいですよ」 誓司先輩に頭を撫でられると眠たくなってきた。 優しい光に包まれて再び眠りについた。 ずっと握られた手は俺を安心させた。 ー二人目の契約者、仁科誓司ー 誰かがそう言ったような気がした。 よく分からなかったが、俺は安らぎの中眠り続けた。 ※視点なし 朝日が昇ったばかりの早朝、ここは学院の裏手の敷地内にある特別棟。 特別棟では吸血鬼魔法使いという区別がなく、基本的に自分の身は自分で守れるほど強い奴らしか入れない。 そこにあるのは生徒会室と風紀委員室、そして姫の謁見室があった。 本当は姫騎士の部屋もあったがガーディアンリーダーである仁科誓司は一度も利用せず他のメンバーもリーダーに賛同して今は誰も使っていない。 姫騎士が姫に無関心な今は生徒会と風紀委員を世話係として姫は守られていた。 婚約者の魔物の王子達を除き、力があり信頼出来ると他の生徒達からも認められている。 生徒会に三人の影がいた。 一人はパソコンを打ちながら顔をしかめていた。 後ろに控えている瓜二つの顔をした幼い顔立ちの少年達は邪魔にならない程度にパソコンを覗き込んだ。 「有栖(ありす)様どうしたの?」 「ローズ祭がどうしたの?」 「…いや、少し荒れそうだと思ってな」 チラッとパソコンの横に置かれたものを見つめた。 それはある生徒のプロフィールが書かれた紙だった。 重いため息を溢す。 姫の弟だと言うその男はどうやら人間らしい。 知ったのはついさっきで慌てて予定を組み直すためにこんなに朝早くから生徒会室で作業をしている。 吸血鬼にとって早朝に起こされるのは本当に苦痛だ。 理事長が言うにはローズ祭でこの森高瑞樹とか言う奴が人間だと全校生徒に言うらしい。 そうなれば何の力もない人間なんてすぐに死ぬだろうな。 人間がどうなろうとどうでもいいが、荒れる奴らは誰でもいいから殺したい衝動になるだろう。 ……出来ればあの力は使いたくない。 「…副会長は…まぁ吸血鬼だから起こすのは可哀想だけど、書記と会計は?アイツら魔法使いだろ…なんで仕事しに来ない?まだアイツらは昨日の仕事もろくに終わらせてないだろ」 「あーあの二人は」 「昨晩お姫様とお楽しみだったみたいだよ」 「……は?」 何の話だ?昨日はアイツら具合悪いとかで帰ってなかったか? …ずる休みか、しかも姫と何をしてたって? 頭を抱えて重いため息を吐いた。 最近姫は少し節操がなさすぎる。 顔がいい奴なら誰でも誘いを受けているらしく、風紀からも苦情が来ている。 とはいえ風紀委員長の理生(りお)以外、皆姫と体の関係があるらしく苦情を言っているのは理生だけだ。 結構有名な話で架院様だって知っている筈なのに野放しだ。 俺は姫を愛している。 姫に体を求められたら応える。 でも、何故だろうか…姫に触ると…触られると…心の底から不快になるのは… 「あ…そうだったそうだった…有栖様、理生様から伝言」 「『いつまで過去に囚われているつもりだ?バカ有栖』」 俺は頭を抱えた。

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