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第60話
※瑞樹視点
教室に入り真っ先に飛んで来たのは英次で質問責めにあった。
まずは瑞樹は男が好きなのかとデリケートな話だからすこし小声で話していて、俺はそういう事ではないと言った。
確かに男に抵抗はなかったが性別で好き嫌いを選んでいるわけではない。
最初は自分でこの人になら体を捧げてもいいと思い体を許した。
その後に自分ではまだよく分からないが、玲音の時も誓司先輩の時も俺の心の中にある本能が相手を求めていると感じた。
あれが何なのか、姫だからなのかそうではないのかはまだ知らないが恋に理由なんてないのだろうなと思う。
自分でも分からないものは英次に行っても分からないだろうから「好きだからだよ」と言った。
二人同時に愛すなんて変な事だけど、それ以外の言葉が思い付かない。
「…お、俺も瑞樹が好きだ!」
「え…そうなのか?ありがとう、英次」
「瑞樹が何処の野郎と寝たって俺は瑞樹が好きだからな!」
英次の気持ちはとても嬉しいが、少し声が大きいと思う。
周りがなんだなんだと俺達の方に注目している。
幸いまだ学兄さんは来ていないようで良かった、何言われるか分からない。
とりあえず英次を落ち着かせてから自分の席に座った。
ふと隣に目線を向ける、転校してからずっと空席だけど本当に誰かの席なのだろうか。
俺的には関わりたくはないが、初めてこの席に座った時の周りの態度が気になっていた。
怖い人でもいるのだろうか、今日の授業はその事ばかり考えてしまい全く身にならなかった。
「それじゃあ転校生二人はまだ体力測定受けてないから午後は着替えて体育館に来いよ」
それだけ言い寿先生は教室から出ていき、昼休みになった。
体力測定、普通のじゃなさそうだけど何をするんだ?
俺が人間だって教師は知っているから魔法を使えとは言われないと思うけど…
少し離れた席にいる英次を見ると英次も俺を見ていてお互い首を傾げていた。
今日は昼から飛鳥くんと会う予定だ、来てくれたらいいんだけどな。
席を立つのと同時に英次も立ち上がり俺のところに来る。
「瑞樹!一緒に飯食おうぜ!」
「英次、ごめん…飛鳥くんと約束があるんだ」
「…約束?」
「ちゃんと話さないといけないからさ」
英次は不満そうだったが俺の真剣な眼差しを見つめて渋々頷いてくれた。
明日は一緒に食べようと英次と約束して教室を出た。
そういえば学兄さん、今日は学院に来なかったな…風邪でも引いたのだろうか。
学兄さんには看病しに来てくれる人が多いから心配はいらないだろう。
それより待ち合わせは裏庭だ、来てくれるだろうか。
ブラッドクラスとマギカクラスの真ん中にある裏庭は共有スペースだが、マギカクラスはわざわざブラッドクラスと関わりたくないからかほとんどブラッドクラスの生徒がいる。
なんで俺が行きづらいところを選んだかというと飛鳥くんは吸血鬼だから行く場所が限定されている。
そこで一番近くて吸血鬼と魔法使いが来ても可笑しくないところは裏庭しかなかった。
他の共有施設は少し遠い、飛鳥くんを呼んだのは俺なのにそこまでさせられない。
バレないように少し離れながら飛鳥くんを探す、まだ来ていないようだ。
奥にも何人かいるから目では分からないなと飛鳥くんに電話しようと携帯道具を取り出した。
また無視されるかと思ったが電話口から電子音ではない音が聞こえた。
がさがさと少しノイズのようなものが聞こえる。
…飛鳥くんに掛けたよな?もしかして間違い電話してしまった?
しかしアドレス帳からコールしたから間違い電話でも英次と玲音しか載っていない。
電話番号自体が間違っているかもしれない、俺は恐る恐る確かめるように「飛鳥くん?」と声を掛ける。
するとガタンと大きな音が響いた、まるで携帯道具を落としたような音だ。
よく耳をすますと遠くから誰かの息遣いが聞こえる。
苦しげに唸る声に驚いて飛鳥くんになにかあったのではないかと背筋が冷たくなる。
今すぐ飛鳥くんを助けないと、でも何処にいるのか分からないのにどうやって探せばいいんだ?
そうだ、玲音に電話! もしかしたら飛鳥くんになにかあったか分かるかもしれない。
しかし今飛鳥くんとの通話を切ったらもう電話に出られなくなるかもしれない、そうなったらこの場所のヒントや今飛鳥くんはどうなっているのか分からなくなる。
通話を切る事は出来なくて自力で玲音をと思っても何処にいるか分からない。
「瑞樹ー、あのさー」
「うわっ!!」
早くしないとと考えていたら、後ろから声が聞こえて驚いて振り返る。
一瞬止まり掛けていた胸を掴んで英次を見つめる。
まさか俺がこんなに驚くと思っていなかったのか英次も驚いていた。
英次は俺の事が心配で後ろを着いてきていたらしい。
飛鳥くんとの会話は聞かず遠くから見て終わったら一緒にご飯を食べるつもりだったらしいが俺が飛鳥くんとなかなか会わないから声を掛けたと言っていた。
英次が来てくれて助かった、俺は状況を説明するより飛鳥くんの今を流す携帯道具を英次の耳元に当てる。
「…は?なんだこれ、どうなってんの?」
「飛鳥くんに電話したらずっとこれで、なにかあったかもしれない」
「つまり探しに行きたいのか?」
俺は頷き英次に玲音に電話してくれと頼むと急いで電話する。
数コールの間、とても緊張が走り…英次が声を上げた。
玲音に繋がった様子で英次は飛鳥くんが何処にいるかだけを聞いていた。
俺は飛鳥くんになにか変化はないかとずっと耳を当てて聞いていた。
すると聞き逃してしまうほど小さな声で「…みず…き…」と俺を呼んでいるのが聞こえた。
声を掛けるが、俺の声は全く聞こえていないようだった。
英次が「教室を出た事以外分からないけどフラフラしてたみたいだってよ」と言っていて俺は上着とネクタイを外した。
下も変えたいがズボンの色が変なんて周りはパッと見気にしないだろうし、着替える時間が惜しい。
「瑞樹、何やってんだ?」
「制服でマギカクラスだって判断してるならシャツ一枚ならブラッドクラスかマギカクラスか分からないだろ」
俺は自分の手で飛鳥くんを助けるんだと意気込んで歩こうとしたら英次が腕を掴んだ。
止めるな英次と言おうと英次も上着とネクタイを外していた。
「瑞樹一人で行かせるわけないだろ!」と逞しくウインクする英次に微笑んだ。
一人だと心細いが二人ならこんなに頼もしいんだな。
あまりズボンをじろじろ見られないように走って探す事にした。
脱いだ上着とネクタイは綺麗に畳んで脇に抱えている。
校舎の中に入ってもチラ見程度であまり他人に興味がないのだろう。
「アイツのいる場所に心当たりがあるのか!?」
「…ない、けど…何となく分かるような気がするんだ」
「勘か、まぁそれしかないよな」
飛鳥くんとは兄弟でよく一緒にいたが学院での過ごし方は分からない。
そこで携帯道具を見つめて、電源を切ってもう一度掛けた。
やはり二回目は飛鳥くんは出なかった、でもそれでいい。
これで何処かで着信音が鳴り続けていたらそこに飛鳥くんがいる筈だ。
耳をすませて周りを見渡すと、隣にいる英次が俺のところに少しよろけた。
どうしたのかと英次をみると顔を青くして謝っていた。
こんな時に、本当にタイミングが悪いと思いながら英次を庇うように前に立つ。
俺達の前には二メートルくらい身長がありそうな大男がいた。
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