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第62話
「ふっ、く…っ」
「瑞樹、アイツらにやられたわりには狭いな、それも瑞樹と契約するのの効果か?」
ぐちぐちと飛鳥くんの指が二本俺の中に埋まっている。
本能が「欲しい」と思う中、俺自身が拒否しているから今はそれで理性を保っている。
飛鳥くんが嫌いなんじゃない、けど…こんな事お互い望んでいない。
心が傷付くだけの行為に感じたくはない、唇を噛みしめて声を押さえる。
そう思っていても、完全に拒絶する事が出来ない。
飛鳥くんの腕を掴むとビクッと震えて「…拒まないで」と小さな声で言われたら俺に何も出来ない。
英次はと言うと、開きっぱなしだった教室のドアを閉めて何故か傍観していた。
最初は止めさせようとしてくれていたのに今は下半身を押さえて俺を見つめている。
何をしてるんだと呆れるが、ぐりっと奥に指を押し込まれてビックリした。
「あっ!!」
「なんで感じてるのに声出さねぇんだよ」
激しく擦られて自分の意思とは関係なくガクガクと腰が揺れてしまう。
なんで自分の体なのに分かってくれないんだ、飛鳥くんとちゃんと話したいのに…
情けない事に涙が出てきた、俺は…どうしたらいいんだ。
指が引き抜かれて、快楽がまだ少し残るが強い刺激はなくなり一息ついた。
飛鳥くんは俺を抱きしめた、そして「…ごめん」と小さく呟いた。
飛鳥くんに声を掛けようとしたが、その前に俺から離れていった。
英次が俺に近付くのと同時に飛鳥くんは教室を出ていった。
「飛鳥くん!!」
俺の声は虚しく響いただけで飛鳥くんは一度も振り返らなかった。
飛鳥くんは俺を兄だと思った事はない、じゃあ嫌がらせであんな事をしたのだろうか。
学兄さんがアレだから家では飛鳥くんが俺の唯一の味方だった。
……そう、思っていたのは俺だけだったのか…俺は何をすれば良かったんだ。
虚しさだけが広がり、ポタポタと床に涙が落ちる。
ずっと黙っていた英次が口を開いて教えてくれた。
「瑞樹、アイツ…飛鳥は瑞樹の事嫌いなんじゃないぞ」
「……え?」
「アイツとはライバルだからあまり言いたくないけど、瑞樹が知らないで傷付くのは嫌だからさ」
英次は苦笑いして俺の膝に自分の上着を掛けてくれた。
汚れてしまうと返そうとするが英次は笑って「瑞樹だからいいよ」とはにかんだ。
※英次視点
俺と飛鳥の出会いは瑞樹と友人になってからだった。
瑞樹は誰ともつるまないから友人がいないのだと思っていた。
初めて瑞樹を誘って一緒に帰ろうと、誘ったらもう一人瑞樹を誘う男がいた。
あれはやたら顔が整ってて女子がキャーキャーはしゃいでいる男だっけ?
名前はなんて言ったっけ、俺もそこそこだが俺よりモテてる奴は基本嫌いだから覚えていない。
俺が先に誘ったのにと男を睨むが男は俺なんて眼中にない様子で瑞樹だけを見ていた。
無表情でつまらない男だと思っていたが瑞樹を見る目線はとても柔らかかった。
「飛鳥くん、英次も一緒にいいかな」
「………英次?」
瑞樹は男…飛鳥に俺を紹介した、全然顔は似ていないから最初は瑞樹の友人だと思っていた。
しかし、俺を見る目はただの友人とは思えないほど敵意を向けていた。
何だよ、俺が瑞樹の友人でもいいだろと睨み返す。
本当は嫌なんだろうが瑞樹に「分かった」と言っていた。
そして俺に飛鳥を紹介されて分かった事がある。
飛鳥は瑞樹の弟なんだそうだ、全く似てなくて驚いた。
そしてあの敵意の瞳は兄を取られた嫉妬ではない事はすぐに分かった。
俺が瑞樹が好きだと自覚した時に飛鳥と話したくて裏庭に呼んだ。
面倒そうな飛鳥だったが瑞樹の話だと言うとすぐに着いてきた。
「……瑞樹の話ってなんだ」
「俺、瑞樹が好きなんだよ」
「あ?」
「だから応援してくれるだろ?弟として」
弟という言葉を強調して言うと飛鳥から舌打ちが聞こえた。
飛鳥の気持ちが駄々漏れで瑞樹しか気付いていない奴はいないのではないかと言うほど瑞樹と他人への態度が違った。
でも本人からは直接聞いていなかったから聞いてみたかった。
お前が瑞樹をどう思っているのか、聞かせろよ。
飛鳥は「だから何だよ」と妙に冷めた声で言っていて驚いた。
もしかして俺が思っている事は勘違いだったのか?
「…えっと、応援してくれるのか?」
「は?応援?なんでしなきゃなんねぇんだよ」
「………え?」
「俺はお前なんかよりずっと瑞樹を理解しているし、お前なんかに負けるわけねぇよ…俺の方が愛してる」
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