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第64話

※瑞樹視点 英次の告白に正直嬉しかったが、戸惑いもあった。 俺にとって英次は大切な友人で、そんな事を考えた事がなかった。 でも英次の真剣な言葉には真剣に考えて答えを出したい。 英次は俺となにがあっても運命を共にしてくれるのか? でもその言葉は後ろにいた飛鳥くんに遮られた。 俺の体スレスレにナイフが通り英次に襲いかかる。 英次を助けようと足を前に出すが、飛鳥くんに腕を掴まれて止められる。 英次が避けたからいいが、もし避けられなかったと思うと… 後ろを少し向くと飛鳥くんの表情が見えないが口を開いた。 「飛鳥くん、なんでこんな事を…」 「瑞樹こそ、なんで俺より英次を選ぶんだ?」 「…俺は英次だけを選んでいるわけじゃ」 「俺が触ったら嫌がっていたくせに」 「飛鳥くっ…んぅっ!!」 飛鳥くんに顎を掴まれて噛みつくような口付けをされた。 苦しい体勢で息が出来なくて飛鳥くんの腕を掴む。 酸素がほしくて口を開くと舌が入ってきて、絡まり吸われる。 飛鳥くんにも向き合いたいのに、なんで分かってくれないんだ。 兄弟だから…もし、俺達が兄弟ではなかったらもっと簡単だったのだろうか。 飛鳥くんが向き合ってくれるには、俺が向き合わなくてはいけない。 飛鳥くんの本音を無理矢理こじ開ける必要がある。 そういえば俺は一度も本音を飛鳥くんにぶつかっていなかった。 飛鳥くんはいつも優しくて、俺はそれに甘えていた。 …だからきっと、大きくなっても俺達は… あの時は抵抗しなかったがそれは飛鳥くんにとって何も残らない事だったんだ。 俺は飛鳥くんの腕を掴んで振り払った。 俺が拒むとは思っていなかったのか、驚いた顔をしてこちらを見ていた。 「俺は、飛鳥くんのそういうところ…昔から好きじゃなかった」 「…っ」 「瑞樹…」 飛鳥くんはショックを受けた顔をして下を向いた。 英次もさっきまで顔を青くしていたのに、俺と飛鳥くんを交互に見ていた。 俺は振り返り飛鳥くんを見つめた。 飛鳥くんの顔色をうかがうのはもう止めよう。 言いたい事も言えなくなってしまう。 俺達が対等になれないから… 「飛鳥くんはいつも俺に何も言ってくれなかった、一人で何でも抱え込んで…吸血鬼になった事だって何も言ってくれなくて…飛鳥くんにとって俺は相談するに値しないんじゃないか?」 「違うっ!!」 「じゃあ飛鳥くんの口で、本音を話してくれ!何を言われても俺は受け入れるから」 飛鳥くんが抱えているものを知りたい、英次から飛鳥くんの気持ちを聞いたがやはり本人から聞きたい。 まだ飛鳥くんは戸惑っている、ずっとなにかを隠していたんだ…すぐに話せと言っても簡単には話せないだろう。 だから俺から飛鳥くんに話す事にした。 ずっと俺が飛鳥くんに抱いていた思い… 三つ子だが、小さい頃の飛鳥くんは今と違い俺の腕を握り後ろを着いてきていた。 幼稚園卒業までだったが、飛鳥くんを守らなきゃ…と子供ながらに思っていた。 「俺は飛鳥くんの事を大切で守りたい存在だって思っているんだ」 「……瑞樹に守られるほど、俺は弱くない」 「今はそうだけど、俺にとってはずっと飛鳥くんは守りたい存在だったんだよ」 小学校に上がった頃から飛鳥くんは俺から離れて、俺を守ろうとしてくれていた。 そこで俺は気付いた、飛鳥くんはずっと守られるのが嫌だったのではないかと… 男なら当然だ、でも俺は飛鳥くんの気持ちに気付いてあげられなかった。 飛鳥くんに守ってもらわなくてもいいように俺は鍛えた。 自己流でそれなりに強くなった。 そして俺は今、人を超えた力を手に入れて…この非現実的な世界でも守れる力を手に入れた。 「好きな人を守りたいと思うのは当然だろ?」 「……好き?」 「飛鳥くんが弟だからって思っていたのは事実だ、でも守りたいって純粋な気持ちは飛鳥くんも英次も玲音も誓司先輩も同じなんだ」 「……」 「飛鳥くんも俺を守りたいって思ってくれているのは分かるが、俺だって男なんだから大切な人を守りたいって思うのは当たり前だろ?」 俺が玲音と誓司先輩と契約したのは、受け入れていいと思っていたからなのは当たり前で…それだけじゃない。 大切な人を守るために、俺は強くならなきゃならない。 この決意は軽いものではない。 俺を受け入れてくれた人達と共に生きていく覚悟でもあるんだ。

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