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第66話

「それで、約束を破った言い訳はどうした?」 「…ごめんなさい」 「俺は言い訳を聞いてやろうって言うんだ、聞いていたか?人間」 俺と英次は午後、体力測定をすると寿先生と約束していた。 だけど思ったよりブラッドクラスに長居してしまい、こうして寿先生に正座させられている。 言い訳が思い付かない、飛鳥くんの話をすれば飛鳥くんにもなにか罰があるかもしれないから言えない。 ただ昼飯を食べていただけでは30分も遅れるのは可笑しい。 具合悪かったとか?…ダメだ、そういう嘘はすぐに顔に出てしまうから苦手なんだ。 英次も何も言わないから、謝る事しか出来ずにいたら寿先生はため息を吐いた。 「もういい、お前らとずっとここにいたら時間の無駄だ」 「寿先生」 「今すぐ体力測定をやれ、時間がないから重要なやつだけでいい」 そう言われてすぐに着替えた。 体力測定はどんなのか身構えていたが意外と普通で驚いた。 軽く走ったり、不気味な人形のようなものを殴って腕力を測定したりしていた。 英次は魔法使いだから、それプラス頭にバンダナみたいなのを被り魔力測定されていた。 どんな数値が出たのかは分からないが、寿先生は英次を鼻で笑っていた。 一通り終わり、紙に結果を書き込んで俺達を見渡した。 「じゃあもう教室戻れ」 「はい」 「つっかれたぁー」 英次は大きなため息を吐いて、俺に寄りかかってきた。 お疲れ様と背中を撫でてやり、教室に向かって歩き出した。 放課後はバンドに行って、帰りが遅くなるから玲音に言っておかないとな。 教室に向かう途中の廊下で、ふと英次は足を止めて俺を見つめていた。 どうかしたのかと英次を見ると、さっきの疲れなんて感じさせないほど真剣に俺を見つめていた。 飛鳥くんの事で英次にもいろいろと心配掛けたな。 「瑞樹は夜、飛鳥に会いに行くのか?」 「約束したからな…玲音と一緒だと飛鳥くんも話しづらいだろうし」 「……俺も行っていい?」 英次も?確か飛鳥くんと同室者だし、俺に許可なんていらないんじゃないか? あ…でも、契約…飛鳥くんとの会話を聞いていたから何しに行くのか英次も分かっているだろう。 二人と同時に契約は出来るのだろうか、試してみてもいいかもしれない。 それに俺は英次のまっすぐな性格で救われていた。 友人がいなかった俺がここまで頑張れたのは英次のおかげでもあるんだ。 英次の手を握るとゆっくりと握り返した。 「いいよ、でも飛鳥くんにも聞かないとな」 「飛鳥なんていいよいいよ!」 英次はそう言うと腕をブンブンと振っていた。 俺から飛鳥に言っておこうと思いながら、時間は過ぎていった。 放課後になり、俺がカバンを持つと英次が机にやって来た。 英次はサッカー部に入っているらしく、一緒に帰れない事をわざわざ言ってきた。 俺も、バンドの練習に行く予定だからそのまま寮に帰らないから英次と教室前で別れた。 前だったら安全のために誰かと一緒に行動しようと思っていただろうが、今の俺なら防御くらいは出来るから大丈夫だろうと練習場に向かった。 何事もなく、紅葉さんに教えてもらった通りブラッドクラスとマギカクラスの渡り廊下の近くにある音楽室に到着すると先に壁に寄りかかっている人がいた。 「架院さん…」 「こんにちは」 架院さんがいるのは驚いた、バンドには参加しないと言っていたから… いつ見ても綺麗な人だな、とボーッと見つめていたらクスッと笑われてしまった。 顔を赤くして、目を逸らすと音楽室のドアが開いた。 顔を覗かせたのは紅葉さんで、あの女子生徒の制服みたいなのではなくヒラヒラのレースが沢山付いた可愛いゴスロリの服を着ていた。 頭の後ろのリボンがとてもよく似合っている。 架院さんと話していて俺には気付いていないようで、架院さんに俺の方を指差されてやっと気付いたみたいでこちらを振り返った。 「紅葉さん、可愛いですね」 「あ、ありがとう瑞樹くん…これ本番で着る服なんだよ!」 頬を赤くした紅葉さんは恥ずかしそうにスカートの裾を少し持ち上げる。 こうしてみるとやっぱり女の子みたいだ。 男だと思ってればドキドキしないのだが、紅葉さんは何処から見ても男には見えなくて困った。 紅葉さんに腕を掴まれて中に入るように導かれた。 あれ?架院さんは入らないのだろうか、それとも誰かを待っている?

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