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第67話
「架院さんは入らないんですか?」
「僕はここで待ち合わせしてるだけだから」
「その人が来るまで中で待っていればいいのに」
紅葉さんがそう提案するが架院さんは「行き違いになりたくないから」と断っていた。
架院さんとはここでお別れか、少し寂しいな。
架院さんにお辞儀して音楽室の中に入った。
音楽室は普通の学校のように何も変わらない内装になっていた。
そこで壁に寄りかかっている二人の生徒がドアの音に気付いてこちらを振り向いた。
学ランとブレザーの制服で吸血鬼と魔法使いのようだった。
学ランの生徒は俺より少し身長が低くて、前髪で片目が覆われている黒髪の少年だった。
少し目が大きいが女っぽくなく、少年的な可愛さだ。
ブレザーの生徒は、今この場にいる四人の中で一番身長が高くて短い金髪碧眼の見た目的に王子様のようだった。
しかし何故か俺は睨まれている。
…初対面だと思うんだけど、なんでこんなに敵意を向けられているんだ?
「紅葉、そいつか?珠樹 の代わりは…」
「うん、瑞樹くんだよ!」
紅葉さんが俺の肩に触れて紹介してくれて俺も頭を下げた。
すると金髪の生徒は眉を寄せて舌打ちをしていた。
仲良くしたいが敵意がある相手と仲良くなった事がなくてどうすればいいか分からない。
金髪の生徒は俺を睨むだけで動く気がないみたいで、黒髪の生徒が俺に近付いてきた。
この人は敵意は感じられないが、何だか不思議な雰囲気を感じた。
俺ではなく、ずっと俺の後ろを見つめている。
振り返るがもう紅葉さんは後ろにいないからそこには壁とドアしかない。
「えっと、初めまして…瑞樹です」
「……姫?」
ぼそりと呟いたその言葉は聞き間違えだったのだろうか。
でも確かに聞いた、姫だって…俺の目を見つめてはっきりと…
あまりにも小さかったからか近くにいる俺にしか聞こえなかったようで、他の二人は姫発言に何も言っていない。
黒髪の生徒は突然顔を青くしたと思ったらすぐに周りを見渡してなにかを探していた。
目当てのものを見つけたのか、そこに走っていったかと思ったらしゃがんでなにかをしていた。
何をしているのか見守っていたら、戻ってきた。
そして俺の目の前に見せてきた。
『宝生 紫音 、よろしく』と真っ白な紙で書かれていた。
「しーちゃん人見知りだから私達にもあまり喋らなくてね、ごめんね」
「いえ、よろしくお願いします…宝生さん」
俺がそう言って手を差し伸ばすとまた紙になにかを書いていた。
『紫音でいい』と書かれた紙を持って握手した。
表情が変わらない人みたいだけど優しい人だという事が分かる。
紫音さんとは仲良くなれそうだけど、チラッと紫音さんの後ろに目を向ける。
壁に寄りかかり、俺と紫音さんを面白くなさそうに見つめている。
俺から挨拶しに行こうと歩き出したら、その前に俺の横を紅葉さんが通りすぎて金髪の生徒のところに向かった。
「お兄様!瑞樹くんは私達を助けてくれるって言ってくれたんだから仲良くしてよ!」
「こんな何処の誰だが知らない奴となんてごめんだ」
お兄様って、もしかして紅葉さんの兄なのか?顔は全く正反対だが、金髪は同じだ。
服の袖を引っ張られて隣を見たら『アイツは紅葉に対してかなりのブラコンだから心配なんだよ』と書かれた紙を持っている紫音さんがいた。
心配?何を心配しているのだろうか、俺が紅葉さんに危害を加えると思われてるのか?
普通なら考えすぎとか言われるだろうが、この血生臭い学院ならあり得ない事もないか。
しかし、どうやったら無害だってわかってもらえるのだろうか。
俺を知ってもらうには時間を共にするのが一番いいだろう。
「俺の事信用しなくても構いません、俺は俺が頼まれたギターを頑張ります…紅葉さんには近付きません…これではだめですか?」
「…フン、少しでも可笑しな事したら殺すからな」
俺はやましい事などないから、ただギターを練習していれば殺される事はないだろうと頷いた。
紅葉さんは少し寂しそうに俺に謝っていた。
本人は俺に自己紹介するつもりがないのか紅葉さんに彼は「紅野 」さんだと教えてもらった。
元メンバーが愛用していたらしいギターを借りて、音を確かめる。
借り物だから大切に扱わないとな。
そして、ギターの基礎を思い出しながら…キーボードの紅野さん、ドラムの紫音さん、ボーカルの紅葉さんについていくのでやっとだった。
しばらく弾いてなかったし、一時的しか使ってなかったから感覚を掴むのに苦労したが、紅葉さんから楽譜を貰い、皆の音に合わせてセッションしたらだんだん弾けるようになった。
紅葉さんの歌は暖かくて元気になれる不思議な力があった。
だからこそ彼の歌を批判するような奴らは許せなかった。
これで紅葉さん達をバカにする奴らを一人でも見返せたらいいな。
窓から覗く外が真っ黒に染まる頃に紅葉さんは歌を止めた。
さっきのノリノリな歌のおかげで、まだ興奮しているのか顔が赤い紅葉さんは隣で弾く俺の方を向いた。
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