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第70話
「瑞樹くんのカバンを間違えて持ってきちゃったから瑞樹くん戻ってきてるかもと思って来てみたら、何してんだよ!!架院のバカ!!変態!!」
「…スカート穿いてる君に言われたくないよ、瑞樹くんの前なのに男言葉に戻ってるよ」
「っ!?」
まだまだ架院さんに言い足りなかった紅葉さんだったが、ハッと我に返り俺の方を向いた。
俺は左手を見てボーッとしてたからか紅葉さんが何を言ってたのか正直分からなかった。
……払われた手が熱を持ちジンジンと疼き熱くなる。
どう考えてもそれは完全に拒絶された事を物語っていた。
俺はこの学院に来て、俺を受け入れてくれる人達が出来て…俺を敵視する人は多いから拒絶だって初めてではない。
……でも、なんでだろう。
架院さんに拒絶されて、こんなに胸が苦しくなるのは…
「…瑞樹くん?」
「紅葉、これ…瑞樹くんから」
そう言って架院さんはしゃがみ、床に落としてしまったカバンを紅葉さんに渡した。
まるで何事もなかったかのような態度の架院さんに紅葉さんも戸惑っていた。
音楽室を出る直前に俺の方を振り返った。
架院さんの瞳に俺はどう写っているのだろうか。
架院さんは俺の目の前にしゃがんで、手を握って離した。
「……君は彼とは違うんだね」
「…………え」
それだけ言い残して架院さんは出ていった。
俺は何も言えず、ただ黙って架院さんを見る事しか出来なかった。
架院さんの言う彼とはいったい誰の事なんだ?
※架院視点
最初にそうなんじゃないかと思ったのは食堂で彼と別れた後だった。
彼の後ろ姿が何故か昔会った初恋の彼に似ていた。
しかし彼は人間だ……魔法使いである瑞樹くんである筈はない。
そう言い聞かせていたが、どうしても希望が捨てられず僕は確かめるように紅葉のところに訪れた。
…確かローズ祭の準備で音楽室を使ってる筈だからもしかしたら彼もいるかもしれない。
結果は行き違いだった。
しかし、このまま帰るのは嫌で少しだけ音楽室にいた。
すると、一つの気配がした。
今まで気にした事がなかったが、これは魔法使いでも吸血鬼でもない変な気配を感じた。
人間の独特な嫌な臭いでもない、でも人間の臭いは消せるからあまり人間の臭いは当てに出来ないけど…
この学院の人間といえば嫌な記憶しかない。
出来れば今は会いたくない、あのうるさい声を聞くだけで目眩がする。
殺気は最小限に抑えて気付かれないように警戒していたら、そこに現れたのは意外にも瑞樹くんだった。
驚いて固まってしまった。
何故、彼だったのに吸血鬼と魔法使いの気配がしなかったんだ?
人間かと言われればそうだとは言い切れない。人間にしては瑞樹くんのニオイはなにかに邪魔されていて、気配に敏感な僕と同じ敏感な奴にしか分からないほど若干薄い……もしかしたら違うのかもしれない。
でももし人間だったのなら、彼の可能性が高くなる。
でも僕は見てしまったんだ。
瑞樹くんの指に光る忌々しい指輪を…
あれは魔界の王家なら誰もが知っている姫と騎士を結ぶ誓いの指輪だ。
どうして彼がそれを持っている?あの姫が瑞樹と契約したのか?じゃあ瑞樹は人間ではなく魔法使い?
瑞樹はあの姫に汚されたのか?僕の…瑞樹を…
瑞樹の手ではなく、払いのけたのは指輪だった。
姫に偽物がいるなんて今までの歴史で見た事はないからあのうるさい姫は本物なんだと思う。
でも、僕の感情はとてもどす黒く汚いもののように変色していった。
学院を出ると入り口に従者が待っていた。
護衛は頼んだ覚えないんだけどな。
「…何しに来たの?」
「架院様が何も言わず行かれたので…」
「はぁ….僕はそこまで護衛が必要なほど弱く見えるのか?」
従者のお前より魔力も実力も上だが、僕の幼少期を知っているからか子供扱いしている。
今、とても苛立っているんだ…あまり怒らせないでくれ。
手の中にあるものをぎゅっと踏みにじるように握りしめる。
あの子が瑞樹かなんて、今はもうどうでもいい。
この感情は紛れもない本物だから…
瑞樹…….…瑞樹瑞樹瑞樹瑞樹瑞樹瑞樹瑞樹瑞樹瑞樹瑞樹瑞樹瑞樹瑞樹瑞樹瑞樹…
「……架院様、例の件如何しますか?」
「何の事…?」
「森高学の弟である人間の事です」
「………あぁ、それはお前に任せる」
そういえばそんな話をしたっけ……正直アレの弟とかどうでもいい。
今は瑞樹が汚された事実で頭がいっぱいになっていた。
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