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第79話

※瑞樹視点 いつの間に俺は眠っていたのだろうか。 架院さんに腕を引かれたら足元が光って、それで…それで… 目が覚めたら多くの薔薇で囲まれていた場所の真ん中で横になっていた。 染めたような綺麗な青い薔薇……此処まで色が綺麗だと作り物のようだ。 少し触れると、ちゃんとした植物だと分かる。 どのくらい寝ていたのか、玲音はどうなったのだろうか。 「……何処だ、ここ」 外のような気がするが、寒さはなく…暖かい。 真っ暗な空を眺めると、集中しなきゃ見えないような薄い魔法陣みたいなのが見える。 寮でも同じものを見た事があった。 此処は結界の中という事だろうか。 上半身を起こすと金属が擦れる音が聞こえた。 この空間で不釣り合いな音を不思議に思い、手元を見ると再びジャラと音が鳴った。 「…何だよ、これ」 見に覚えがないそれに触れるが、外せる気がしなかった。 手首には分厚い金属で出来た手錠があり、手錠は鎖に繋がれている。 鎖の先は薔薇の下にあり、何処に繋がっているのか分からない。 反対の手首も同じように繋がれていた。 そして念のためだろうか、両足にも同じものがあった。 いったい誰がこんな事をしたんだ? 俺を此処に連れてきたのは架院さんの筈だから、もしかしたら架院さんが…? 誰かにに電話をしようと思ったが、俺の携帯道具はカバンの中にあり…カバンはここにはないから置いてきてしまったのだろう。 鎖が邪魔をして此処から出る事が出来ない、大人しくしている事しか出来なかった。 「おいっ!!誰かいないのか!?」 俺の声は虚しく響いて風と共に消えていった。 どうしたものか……指輪さえあれば、あの怪力の力で鎖なんて外れそうなのに… 架院さんはなんで指輪を奪ったのだろうか、その理由も知りたい。 俺ってそんなに嫌われていたという事なのか? 俺は…どうして架院さんに嫌われているだけで苦しい気持ちになるんだ? 考えても答えが分からない事だが、何も出来ない今考え事をしていたらふと俺の視界が真っ暗に閉ざされた。 「……悲しい顔をしているね」 「!?」 いきなり背後から声がして振り返ろうとしたが、首が上手く回らなかった。 目が見えないのは目を両手で隠されているからだろうか。 …その人から周りのと同じ薔薇のニオイがした。 それだけで俺は誰か分かった。 俺を拘束した相手なのに、何故か安心していた。 恐る恐る目を隠している手に手を重ねて触れた、今度は拒絶される事がなかった。 「君を悲しませる相手は誰?誰だろうと僕が殺してきてあげる」 いきなり物騒な事を言うからバッと後ろを振り返った。 そこに居たのはいつもの魅惑的な微笑みではなく、冷えきった瞳で微笑む架院さんだった。 その瞳を見ると音楽室で拒まれた事を思い出してしまい、辛い気持ちになった。 架院さんは俺が見た事により、僅かだが柔らかい雰囲気になったがすぐにまた戻る。 その手には俺の指輪が握られていた。 指輪を壊すようにぎゅっと強く握られて手を開いた。 「…やっぱり契約の証はそう簡単に壊せない、か」 「架院さん、止めてください…それは」 「…大事な、もの?」 いきなりギリッと腕に痛みがしたと思ったら、勢いで俺の腕を引っ張り押し倒した。 頭を打ちクラクラする、腕も血が流れているのだろうか暖かなものが地面に流れている。 痛みに耐えるように顔を歪めて架院さんを見ると、架院さんは楽しそうに笑っていた。 俺は、殺されるのか?…さっきまで安心していたのが嘘のように恐怖が勝った。 でも、架院さんが持っている指輪をなんとか奪い返していても…俺はきっとこの人を殴る事が出来ない。 俺というより、その指輪を恨んでいるような架院さんが不思議だった。 「ねぇ、愛の証がそんなに大事?」 「…はい、俺にとって初めての大切な感情なんです」 「そう、じゃあ僕が壊してあげる」 架院さんの言ってる意味が分からず首を傾げると架院さんは悲しい顔をしていた。 俺に与えてくれた玲音と誓司先輩の愛を、壊される。 いくら架院さんであっても絶対にそんな事はさせない! 架院さんは突然俺の顎を掴んで口付けた。 一瞬なにが起きたのか分からず固まった。 架院さんは俺が嫌いだったのではないのか?それとも、これは嫌がらせ? 「瑞樹には僕がいればいい、アイツには渡さない」 うわ言のように架院さんがそういって、俺の太ももに手を這わせる。 そこでいつもと違う違和感を感じた。 いつも俺が誰かに求められる時、俺の体も意思とは関係なく相手を求めていた。 でも、今の俺は架院さんを求めていない…それはいったい何故か。 考えられる事はきっとたった一つだろう。 契約が愛に反応するなら、今の俺達の間に愛はないからだ。 架院さんは俺を見ていないように思えた、ずっと指輪を見ているようだった。 俺も玲音と誓司先輩の愛を踏みにじられたようで、架院さんに向けるのは愛ではなく…悲しみだった。 「……瑞樹、そんなに僕とするのが嫌?」 「…嫌とかそういうのではありません、悲しいんです」 「…っ」 架院さんは俺がそんな事を言うと思わなかったのか驚いた顔をしていた。

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