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第80話
こういう行為は気持ちが強かった繋がって初めて意味があるというものではないのか?
俺は、架院さんの事を好きだけど…今はするべきじゃない。
架院さんは「…やっぱりアイツじゃないと嫌なのか?」と呟いてきた。
さっきから架院さんは特定の一人だけを言っているが指輪の愛をくれたのは二人だからどちらなのか分からない。
架院さんに腕を掴まれて、架院さんの頬に触れさせられる。
そして不自然なほど穏やかに微笑んだ。
「……この手でアイツに触れるというなら、切り取ろうか」
「え……」
「大丈夫だよ、片手がなくなったぐらいで死なないし…利き手だけど平気だよ」
物騒な事を言っているのに楽しそうな架院さんが、何だか怖かった。
心の何処かで、架院さんは優しい人だって決めつけていた。
玲音達以外の他の魔物とは違う態度で俺に接してきたから…
…でも俺の腕に触れるこの人も架院さんだ。
手が動こうとしていたが架院さんは人間状態の俺より当然力は上だから簡単に身動き取れない状態になった。
両腕を縫い付けるように地面に押さえつけられて、視界には架院さんと真っ暗な空だけが見えた。
「……か、いんさん」
「痛みは一瞬だから」
架院さんは本気なのだろう、でも拘束されている俺にはどうする事も出来なかった。
俺の腕を持ち上げて軽くキスをして、架院さんは人差し指で円を描いた。
架院さんがなぞった部分が黒い線となり浮かび上がっていた。
俺の腕に描いた線は段々近付いてきて、ぐるぐると回っている。
線が腕に到着すると、頬に血が少量飛び散った。
すぐに神経が可笑しくなるほどの激痛が体中に走った。
「あぁ、ぐっ…あぁぁっ!!!!!!」
「切断していくから痛いだろうね」
架院さんは俺をなだめるように頭を撫でていた。
一瞬なんてものじゃない、この痛みがずっと続くのではないかという恐怖が襲う。
架院さんは何に怒っているのか分からない、何も…考えられない。
架院さんが小さく「森高学には絶対に渡さない」と聞こえた気がするが、それは幻聴だったのだろうか。
制服の布は破けて、血が止まらず大量に流れていた。
痛みで気を失ないそうになり、視界が霞んだ時に空からなにかが迫ってくるのが見えた。
……あれはなんだろうか。
「架院っ!!!!!!!」
「…っ」
突然架院さんが俺から離れて早業で光の剣を出してそれを受け止める。
気が逸れたからか、俺の腕を切断しようとしていた腕は消えた。
傷は治らないから痛む腕を庇いながら声の正体を探るように声がした方を見る。
巨大な真っ黒い剣を持ち架院さんと至近距離で睨む玲音がいた。
……あそこまで怒ってる玲音は初めて見た。
いつも笑ってくれたり心配してくれたりする優しい玲音が明らかに敵意を抱いて架院さんを見ていた。
…でもなんか変だ、走ってきたとして息を乱してとても苦しげに眉を寄せていた…具合でも悪いのだろうか。
俺は拘束されているから玲音のところに行く事も出来ず、ただ玲音と架院さんを見てる事しか出来なかった。
架院さんより玲音の力の方が上なのか、押され気味だったが余裕そうだった。
「…何?邪魔しないでよ」
「………殺す」
「へぇ、やってみれば?口先だけじゃないだろ?」
「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺すっ!!!!!」
玲音が架院さんに向かって剣を振り下ろすと架院さんはとっさに避けると地面に大きなひび割れの傷が出来ていた。
軽い地震が起きて、青い薔薇の花びらが散った。
玲音は我を忘れたように次々と地面を割っていく。
今はまだ俺のところに来ていないがいつ当たるか分からないから鎖を引っ張って逃げようとしてもびくともしない。
しかし、玲音の攻撃が偶然鎖に当たり、千切れた。
架院さんは玲音の攻撃を避けながらも反撃するために風や炎の魔法を使っていた。
しかし全て玲音に弾かれてイラついてるのが見て分かる。
既に青い薔薇に囲まれたこの空間は使い物にならないほどめちゃくちゃになっていた。
俺はどうにか玲音の正気を取り戻そうと腕をのばそうとしたら痛みはあるが腕が動かない。
まだかろうじてくっついてはいるがもしかして、もう使えなくなったのか?
攻撃しあっている二人の間に入るのはとても危険だ。
架院さんの水の魔法のようなシャボン玉のような球体が玲音に当たり弾かれた。
水で出来ている筈なのに重いもので当たったような衝撃音が聞こえて玲音はそのまま床に倒れた。
「玲音っ!!」
倒れた玲音に駆け寄り片手で抱き起こすと痛むのか顔を歪めながらこちらを見つめていた。
頭から血を流していて、自分も怪我をしている事を忘れて止血しようと制服の袖で傷口らしき部分に当てる。
玲音に会えたのに、こんな事になるなんて…指輪さえあれば玲音を連れて逃げられるのに…
痛みで顔を歪めながら玲音は俺の傷口に触れていた。
まだ息は荒いが、少しだけ正気に戻ってくれて良かった。
しかしすぐに玲音に引っ張られてよろける。
そのすぐ後になにかが頭の上を通るのが見えた。
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