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第83話
「瑞樹、なにが聞きたい?」
元気に溢れた顔をした玲音はニコニコ笑いながら勉強椅子に座っている。
俺はベッドに横になって玲音を見つめていた。
体がだるくて動けないわけではない、あんなに激しい運動したが終わった瞬間嘘のように痛みと共に引いていた。
これも受け入れる側の力だと、もう三回目だから慣れていた。
しかし痛みが引いたのは腰の痛みだけで、腕の痛みはそのままズキズキと痛い。
もう夜が遅いから明日の朝、医務室に連れていってくれると玲音と約束した。
腕の痛みも治してくれたらいいのにと腕に目線を向ける。
「玲音、俺の下半身以外の傷は力が発動しないんだな」
「え…最初に聞きたい質問ってそこ?…指輪があれば普通の人間よりは治りが早かったんだけどね」
「やっぱり指輪か、架院さん返してくれないかな」
「………架院が指輪を?」
そういえば玲音になくした指輪のありかを言うの忘れていた。
玲音に架院さんが持ってた事を伝えるとしばらく考えていた。
そうだ、傷の話を聞きたかったわけではなかった。
玲音が何者でも玲音は俺の大切な玲音だ、だけど大切だからこそ玲音の事を知りたい。
玲音に櫻さんの言った事は本当か聞いてみた。
やっと聞いたかと玲音は微笑んでいた。
「うん、俺は吸血鬼の次期王だよ」
「じゃあ学兄さんと一緒にいた人は?」
「アイツは俺の従者、今は身代わりになってもらっている」
従者…そうだったのか、だから玲音と仲が良さそうだったのか。
でもなんでそんな事をするんだろう、魔法使いの次期王は学兄さんと…
そこで俺は遅いが、思い出した…学兄さんの婚約者が「架院」という名前だった事を…
学兄さんの婚約者についてあまり興味がなかったからだろうか。
でも、俺の指輪を取る理由はやはり分からない。
玲音は前髪を指先で弄りながら教えてくれた。
学兄さんが入学してきた最初の頃から吸血鬼の次期王を探していたそうだ。
でも少ない人数で探したって根暗演技は完璧だと見つかる筈がないと玲音は放置していた。
確かに玲音の自信の通り見つかる事はなかった。
しかし最近学兄さんは信者を増やしていて、見つかるのも時間の問題となった。
玲音が次期王だとバレる前に身代わりを学兄さんのところに向かわせて、次期王を探すのを止めさせた。
玲音がそこまでして次期王だと隠す理由があると言った。
「俺も親父も、ある奴から身を隠している…だから目立つ事はしたくないんだよ」
「……ある奴って、俺が知ってもいい話なのか?」
「いいよ、瑞樹にも関係あるから」
俺にも関係がある人、いったい誰なんだろう。
そして玲音の口から聞かされた人は俺の想像していなかった人だった。
「架院の父親、魔法使いの現王だよ」と玲音は言った。
なんで架院さんの父親が玲音と櫻さんを探しているのだろうか。
それに俺にも関係があるってなんでだろう。
「櫻さんって若いね」と言ったら「魔物と人間の寿命を一緒にしちゃだめだよ!」と笑われた。
確かにそうか、寿命が違うからな…俺は人間と呼べるか分からないから微妙なところだけど…
「でも架院さん、玲音の事知ってたみたいだけど」
「まぁね、アイツ昔から勘だけはいいから」
「玲音はそれでいいのか?」
「大丈夫大丈夫、架院と父親ってあまり上手くいってないから父親に俺の事を言われても今まで言わなかったのが答えだよ」
確かに学兄さんが気付く前に架院さんが気付いていたような気がする、父親に話していたら櫻さんはともかく玲音はバレていた筈だよな。
反抗心でそうしているのか、次期王繋がりで玲音と知り合いっぽかったから庇ったのかは分からない。
玲音は「でもアイツは父親の人形だからな、いつバラすか分からないから…いずれまた決着を付けなきゃな」と物騒な事を言っていた。
まさかまた二人は戦うつもりなのか?
それが吸血鬼と魔法使いにとって大切な事だと言われても俺は頷けない。
二人共、俺の大切な人だから…
その時、頭がズキッと痛くなった。
「瑞樹?」
「戦わないでほしい」
「…そんなに心配?俺達の場合力に差がありすぎるから本気を出せばすぐに決着付くよ」
「………え?」
「瑞樹の弟と少し違うけど……俺、吸血鬼と人間のハーフなんだよ」
玲音が負けるとかそういう話ではなかったか、そう言った玲音はとても優しい顔で微笑んでいた。
知らなかった、玲音がハーフだったなんて…飛鳥くんは吸血鬼に噛まれて吸血鬼になったから少し違うのか?
櫻さんは数十年前、まだ次期王だった時の話。
この学院に通っていた…その時の学院は姫を探すために人間と魔物が共存して暮らしていた。
今より殺伐としていたみたいだったと櫻さんから聞かされたのだろう事を思い出しながら話していた。
そこで櫻さんは人間の少女と恋に落ちて、結婚して玲音は産まれた。
「俺の母親は瑞樹の前の姫だった人なんだよ」
「そうだったんだ」
「そう、吸血鬼と瑞樹ほどの力はなかったが特殊な力を持つ人間から産まれたから俺は強い、強い魔法使い同士から産まれた純血の架院よりね」
「といっても力で押しきる俺と魔法を使う架院はタイプが違うから比べてもしょうがないけどね」と玲音は笑っていた。
玲音の母親は俺の先輩となる人なのか、だから玲音は契約についてあんなに詳しかったんだろうな。
一度会って話してみたいと思った、どんな人なんだろう…玲音のように優しい人なのかな。
玲音に一度会ってみたいと伝えたら一瞬驚いて、困ったような顔をしていた。
そして「架院の父親に殺された、俺がまだ赤ん坊の頃に」と小さく呟いた。
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