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第84話

吸血鬼と魔法使いがまだ争っていなかった時代の話。 櫻さんと架院さんの父親はとても仲が良い親友だった。 櫻さんはそう思っていた。 でも架院さんの父親が櫻さんに向けるのは友情のそれとは少し違っていた。 櫻さんは誰にでも優しく友人も多かったが、架院さんの父親は櫻さん以外に興味がないという人だった。 櫻さんの友人、近付く人までも嫌悪して櫻さんの視線を独り占めしたい…そういう人だった。 それは友情というより、行きすぎた歪んだ愛だった。 櫻さんは架院さんの父親をそういう風に見ていなかったからいつしか避けるようになった。 これ以上彼に関わり、周りの人に危害が及ばないように… そして櫻さんは結婚して、玲音という息子が出来た。 櫻さんと同じタイミングで相手も結婚して架院さんが産まれた。 だから櫻さんも彼はもう自分を諦めたんだと思った。 しかし事件はある日突然前触れもなくやって来た。 あの日は櫻さんが王族としての仕事のため、いなかった。 城の一室には玲音の母親と幼い玲音だけがいた。 従者を部屋の前で待機させていたらしい。 しかし、城の中はすぐに真っ赤な血の海で染まっていた。 魔法使いの上級者は、ワープの魔法なんて簡単に使えた。 架院さんの父親もそうやって入ったのだろう、だか城の入り口を守っていた門番は全く気付いていなかった。 暗殺者のように、誰にも気付かれず殺していった男はとうとうある部屋の前で足を止めた。 探していたのだろう、いくつか扉を開けた痕跡があった。 玲音を守りながら死んでいった母親を見つめていた玲音。 架院さんの父親は玲音には手を出さなかった。 「俺が親父に似ていたんだろうな、それで生かされた」 「……玲音」 「それから親父は魔法使いである架院の父親を代表に、魔法使いと戦う事に決めたんだ」 それが玲音が櫻さんから聞いて話してくれた、何故架院さんの父親が玲音と櫻さんを探している理由だった。 架院さんの父親は手段を選ばない男で、自分の息子も利用する男だと言っていた。 玲音と架院さんも昔仲が良かったらしいが、今は敵対関係だという。 だから戦う事に心を痛めなくていいと玲音は笑った。 お互いの父親が敵対しているから玲音達もしているのだろうか。 それとももしかして、架院さんは玲音を…… 「ん?どうしたの瑞樹、そんなに見つめて」 「…悪い、ただ架院さんって玲音の事好きなのかと思って」 「はぁ!?ちょっとやめてよ!凄い鳥肌立った!!」 「……ご、ごめん」 「俺達が敵対しているのは親父とか関係なくて、恋敵だからだよ」 玲音は真剣な顔をしてそう言う。 恋敵って二人は同じ人を好きだったって事? でも今の玲音の愛は俺に向かってるよな。 自分の指輪の力を信じたいのに複雑な思いで玲音の手を握った。 するとすぐに握り返してくれて微笑んでくれた。 今はもう恋敵じゃないけど、架院さんの父親にバレそうになるかもしれないから戦う……そういう事なんだよな…多分。 「架院の父親は俺の母親の事があるから人間…特に姫を恨んでいる…まだ姫を探している動きはないから瑞樹の事がバレたら殺されるだろうね」 「…だから俺にも関わりがあるのか」 「瑞樹は俺が守る、架院は昔から父親のいいなりだから瑞樹の事を絶対に話さないとは限らない…指輪の件もあるからね」 「……悪い、俺がちゃんと嵌めていれば」 「瑞樹は悪くないよ!全部架院が悪い!だから架院に詫びを入れてもらわないと…」 「…詫び?」 俺が聞き返すと玲音はいたずらっ子のような顔になった。 そして内緒話をするように俺の耳に唇を近付けた。 ちょっと耳にいたずらされて舌を入れられたらゾクッと変な感じがして慌てて玲音の方を向いた。 玲音は「ごめんごめん」と笑っていた。 そして今度こそ内緒話を始めた。 この部屋には二人しかいないのにと不思議に思いながら聞いていて驚いた。 「架院が瑞樹に害ある存在になる前に…架院を仲間にすればいい」 「…どうやって?」 「瑞樹にしか出来ない事だよ」 そう言った玲音は俺の顎に触れて玲音の方に顔を向けたと思ったら、唇が合わさった。 すぐに舌が入ってきて絡ませて吸われて全身が痺れていく。 つまり架院さんと契約すれば父親の味方はしないだろうという玲音の考えだった。 架院さんには反応がなかった、だから俺に気持ちがないんだと思う。 …そんな架院さんをどうやって契約まで持ってこれるのだろうか。 玲音に言うと玲音は不思議そうな顔をして首を傾げていた。 …いや、架院さんが俺に興味がないのは別に不思議な事ではないと思う。 「可笑しいなぁ、だってアイツ…瑞樹の事…」 「玲音?」 「まぁいいや、愛がないなら愛を芽生えさせればいいんだ!だってそれが愛でしょ?」 「……それはそうだけど、そう簡単にはいかないぞ」 「相手は架院だからね、大丈夫だよ……昔は架院に取られるって焦った事があったけど…今は瑞樹が生き残るために力を付けなきゃいけないからね」 最後玲音は聞き取れないほど小さな声で呟いていた。

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