85 / 110
第85話
架院さんを落とす、意識してやった事がないからどうすればいいか分からない。
それに架院さんは好きな人がいるんだろ?俺に靡くだろうか。
玲音はとてもやる気で架院さんの落とし方を考えていた。
そこで俺は大変な事に気付いた。
今の姫は学兄さんではないのか?架院さんが俺が姫だと気付いても周りは学兄さんが姫だと思っている。
だったら学兄さんも危なくなるのではないのか?
「玲音、学兄さんは大丈夫なのか…学兄さんが今の姫だから」
「ん?ほっとけばいいんじゃない?」
「…玲音」
「分かったよ、その時になったら周りが騒がしくなりそうだからその時になったら何とかするよ」
玲音が何とかしてくれるなら信じよう、俺も出来る事はする。
そんな事より架院だと玲音は考えていたら、玲音の携帯道具が鳴った。
玲音は画面を見て、ちょっと嫌な顔をしつつ電話に出た。
玲音が「親父」と呼んでいたから櫻さんなのだろう。
何を話しているのか分からないけど、玲音が俺に携帯道具を渡してきた。
耳に当てると櫻さんの声が聞こえた。
『瑞樹くん、怪我は大丈夫?』
「あ、はい…まだ少し痛いですが…」
『そう、架院には君が姫という事を隠して話を付けたからもう大丈夫だよ』
「ありがとうございます」
櫻さんと架院さんが何を話したのかは分からない。
でも架院さんの父親は櫻さんを探していたのではないのか。
櫻さんを見た架院さんはとても驚いた顔をしていたから櫻さんがこの学院にいた事を知らなかったのかもしれない。
だとしたら俺のせいでバレたのかもしれない。
玲音の話はどうでもよくて、架院さんの父親の本命は櫻さんだろう。
玲音の話から分かるように櫻さんに異常な執着を見せているように思えて不安だった。
「櫻さん、その…架院さんにバレたらまずいですよね…ごめんなさい」
『玲音から聞いたんだね、大丈夫…瑞樹は気にしなくていいよ』
「でも…」
『君は自分の身を守る事だけを考えていればいい、いいね』
その言葉はとても強いもので、俺は「…はい」としか言えなくなった。
俺が弱いからと強くなる契約の事を教えてくれた。
俺を鍛えてくれるとも言ってくれた、俺の事を心配しての言葉だろう。
櫻さんは俺に心配されるような事はないと言った。
吸血鬼の王様だし、俺よりもずっとずっと強いからなんだろうな。
俺ももっと強くなればきっと櫻さんも頼ってくれるかもしれない。
『とりあえず、瑞樹は架院に近付かないで…瑞樹は今別の部活で忙しいみたいだから鍛えるのはそれが終わってからがいいよね』
「架院さんに近付いちゃダメなんですか?」
『…君、彼に何されそうになったか忘れたの?』
「……」
『もしかして、契約しようとしてる?』
鋭い櫻さんは勘づいてしまった。
しかも櫻さんの声色から櫻さんは反対のように感じた。
架院さんが与えた傷がズキズキと熱を持つ。
櫻さんにとって架院さんは父親と同じように危険な存在なのだろう。
「ダメだよ」と静かに言われた言葉には冷たさとは別に子供に言い聞かせるような感じに聞こえた。
……懐かしい感じがした、前にもこんな事があったような…
「瑞樹、君はいろんな人と契約した方がいいと言ったが彼はダメだよ…その理由、分かるよね」
『…架院さんの父親の事ですか?』
「アレは関係ない、架院は君に執着している…それはアレに似てるものがある…君に僕みたいになってほしくない…それだけだよ」
櫻さんとの通話を切り、携帯道具をジッと見つめる。
架院さんが俺に執着……何故だろう、指輪にも嫌悪していた。
もしかしたら姫が嫌いなのかもしれない、嫌いだから執着しているのかもしれない…架院さんの父親とは違う。
玲音に伝えると、玲音は「親父はちょっと過保護なんだよ、気にしなくていいよ」と言っていた。
架院さんの事をもう少し知るために、慌てずにゆっくり歩み寄ろうと思った。
架院さんが俺の事を嫌いでも、俺は貴方に触れられた感触が忘れられないんだ。
ーーー
※櫻視点
瑞樹との通話を切り、振り返ると縄でしばられた架院がいた。
怒りというより、この状況に困惑していた。
「……なんですか、これは」
「君が暴れて襲いかかってくるかもしれないでしょ?」
「……しませんよそんな事、だって貴方に傷を付けたら父に怒られてしまう」
やはりあの男に探すよう言われていたのか、架院自身はあまり真剣に探していなかったようだけど…
僕よりも瑞樹の方が危険だろう、架院の執着する姿はどっかの誰かの面影と被っていた。
何処にいても何をしても絶対に逃がさないという嫌な瞳だ。
瑞樹には架院に近付くなと言ったが、一応護衛を用意させた方がいいだろう。
架院にも近付かないように言っておこう。
当然言う事を聞くとは思えないが、一応ね。
「瑞樹にはもう近付かないでくれるかな」
「…それは出来ません」
「どうしても?」
「………貴方の事を父に話すか、もう瑞樹との間の邪魔をしないか…どちらがいいですか?」
「そんなに話したいのなら話せばいいよ」
「今まで父から逃げていたくせに……貴方にとって瑞樹っていったい…」
「知らない君に教えてあげる、瑞樹は僕達魔物にとっての大切な宝だ…誰にも傷付ける事は許されない……誰のものにもなってはいけない」
そう、僕にとっても…皆にとっても瑞樹は必要な存在だ。
瑞樹の事を姫だと気付いていないのか、架院は首を傾げていた。
だとしたらわざわざ言う事でもない、手のひらで架院から取り返した指輪を弄りながらそう思った。
ともだちにシェアしよう!