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第86話

※瑞樹視点 翌朝、いつものように玲音と朝食を食べていた時…控えめにドアを叩く音が聞こえた。 今日、飛鳥くんと英次は部活で来れないと聞いていたから誰だろう。 昨日の今日だからもしかしたら櫻さんなのかもしれない。 玲音は食パンを食べながらこちらを振り返り、俺が見に行くと玄関に向かった。 そしてドアを開けて現れた人物は俺の思ってもみなかった人物だった。 その人は俺を見て、深々と綺麗な角度で頭を下げた。 「お迎えに上がりました、姫様」 「白石さん?」 誓司先輩に姫騎士の一人だと紹介された白石さんがいた。 周りを見渡しても誓司先輩はいなかった。 一人でやってきた白石さんは俺を迎えにきたと言っていた。 後ろから朝食を食べ終えた玲音が玄関を覗いて不思議そうな顔をしていた。 そうか、玲音は姫騎士全員知らないのか。 玲音に白石さんの事を話すと、壁に寄りかかり白石さんを見た。 「…で、その白石さんは何の用?」 「本日から姫様の身の回りの全てをお世話させていたたきます」 「えっ…」 「はぁ!?」 俺と玲音は同時に声を合わせて驚いていた。 全てをお世話っていったいどういう事なんだ? 白石さんは「申し訳ございません、姫様の意思とは関係なくやらなければならないと櫻様から直接言われておりますので」と本当に申し訳なさそうに言っていた。 櫻さんに言われたとなると玲音は何も言えなくなった。 玲音でも身内には弱いんだな、玲音じゃなくても櫻さんに逆らおうなんて思わないけど… でもこういうのは誓司先輩がやりそうなのに以外だ。 「白石さん、誓司先輩じゃないんですね」 「ジョーカー様は吸血鬼なので学院内で守る事は難しいです、なので姫騎士唯一の魔法使いである私が命を受けました」 なるほど、確かに誓司先輩は吸血鬼だからマギカクラスに入れないよな。 玲音は「…じゃあもっと早く瑞樹を守ってよ」と棘のある言葉を白石さんに言っていた。 白石さんにもなにか理由があると思うし、せっかく来てくれたのに喧嘩は良くないと玲音をなだめようとした。 しかしそれより先に白石さんは小さく咳払いして玲音をまっすぐ見つめた。 とても綺麗にピンと背筋を伸ばしていて、玲音はつられて背筋をまっすぐにした。 今までこういうタイプはいなかったから玲音もどうすればいいのか分からないのだろう。 「今までは姫様に直接害を加える人物が現れなかったので目立つ行動は避けていましたが、架院様に目をつけられたという話を聞き…目立つと言っている場合ではなくなった…ただそれだけです」 「………そ、そう…瑞樹の事絶対に守ってくれるんだよね」 「この命を犠牲にしてでも必ず…」 「ぎ、犠牲にはしないでください」 玲音は白石さんの真面目な姿に少しだけ信じていた。 少しだけというのは世話は許すがなにかあったらすぐに連絡橋口する事だと玲音は念押していた。 俺も頷いて、すぐに玲音に連絡出来るように携帯道具で設定した。 玲音と白石さんと俺という珍しい組み合わせの三人で学院に向かった。 白石さんはあまり雑談をせず、ただ周りに気を付けて歩いていた。 目の前をハエが飛んできた。 「姫様危ない!!」 「へ?…わっ!!」 突然体が浮いて驚いていたら、白石さんに姫抱きされていた。 さすがの玲音も白石さんの行動に驚いて口を開けていた。 白石さんは片手を前に出し、風を切るように動かしたら米粒サイズのハエが真っ二つになった。 息を吐いて、まるでとんでもなく強い強敵を倒したように安堵していた。 俺達はまだ白石さんの行動に付いていけなかった。 そして姫抱きをされているから至近距離で俺達は見つめあっていた。 「ひっ、姫様!!もっ、申し訳ございません!!姫様に近付く黒い物体はもう排除しましたから安心して下さい!」 「…あ、ありがとう」 「ハエだけどね」 玲音が冷静なツッコミをしているが、白石さんは聞いていないのかあたふたしていた。 下ろされて、白石さんは勢いよく地面に頭をつけて土下座をしていた。 しかも硬い場所に頭を思いっきり打っていたから心配だ。 俺がそんな事しないでいいと白石さんの肩を掴むと顔を上げた。 白石さんの顔を見てビックリして今度は俺があたふたした。 つっ…と額から血を流していたら誰でも慌てるだろう。

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