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第87話

「しっ、白石さん!頭から血がっ」 「こんな怪我、姫様が与えられた屈辱に比べればなんていう事はありません」 「……屈辱?」 「私ごときの虫けらなんかと姫様か一瞬でも近付いてしまった事、死んで詫びます!」 白石さんはよく分からない事を叫んだかと思ったら突然頭を近くにあった木に打ち付けていた。 俺は白石さんの体を羽交い締めして木から離す。 俺は驚いただけで嫌じゃなかった事を説明した、魔物は人間よりも力持ちだからなんだけどちょっと華奢に見えるから嫌だった。 だけど本当の事を言った途端にまた白石さんが思い詰めるかもしれないから絶対に本音は言えない。 とりあえず白石さんの頭の傷を治そうと、白石さんの手を引いた。 医務室に行けば何とかしてくれるだろう。 後ろにいる白石さんは「お離し下さい!姫様の手が、手が汚れる!!」と叫んでいた…白石さんって俺よりも自己評価低いよな。 急に重くなり、どうかしたのかと白石さんを見るとぐったりと地面に横たわっていた。 「白石さん!どうしたんですか!?」 「うるさいから殴って気絶させた」 「……玲音ダメだろ」 玲音は全く悪びれる様子もなく、白石さんの腕を掴んで引きずっている。 慌てて俺は白石さんの腕を肩に掛けて、運んだ。 玲音は気絶させたのは自分だからと医務室まで白石さんを運んでくれる事になった。 医務室は外からでも入れるから、玲音がマギカクラスに行く必要はない。 ーーー 真っ白なカーテンを通り、涼しい風が室内に舞い込んでくる。 棚を開けると、薬品の独特なにおいがして我慢しながらそこから傷薬とラベルが書かれたビンを取り出す。 ふわふわで干したてだろうベッドで横になっている白石さんから呻き声が聞こえた。 包帯など使う道具を取り出して、ベッドの横に置かれた椅子に座った。 「……うっ、ここは…」 「医務室ですよ、白石さん気絶してて」 「申し訳ございません!!姫様を守る命を受けていたのに気絶なんて!」 「朝は玲音がいるのでそんなに気にしないで下さい、それより手当てするのでジッとしていてください」 「……あ、あの…先生は?」 「今は外出してるみたいで、怪我人は適当に薬を使っていいと貼り紙があったので」 「………あ、う…その」 「俺じゃあ知識も簡単なものしかないし、不安なのは分かります…今日一日我慢して下さい」 「我慢なんて……」 白石さんは落ち着いたのか、ジッとしてくれてやっと手当てが出来るなと前髪を上げた。 傷口はちょっと切れているだけだな、消毒して包帯を巻けば応急処置にはなるだろう。 「ちょっと痛いかもしれませんが我慢して下さい」と白石さんの顔を覗き込んで言った。 白石さんの顔は真っ赤になっていて、そういえばまた至近距離だなと何でもない事のように思う。 そんな事より白石さんの手が震えていて、手に傷薬が握られていた事の方が気になる。 自分で手当てするのだろうか、いいけど頭だから傷口が見えないと思うけど… 「姫様に触られた、ジョーカー様の大切な方にこんな事をさせてしまった…これを飲んで死んで詫びるしか…」 「これは飲み物じゃないのでダメです!!」 ブツブツと無意識に呟いていて慌てて白石さんから傷薬を取り上げる。 なんですぐに思い詰めるんだ、俺が触ったからどうという事でもないのにな。 ビンの蓋を開けて、綿に消毒液を染み込ませて白石さんの額にある傷に優しく触れた。 痛かったのか少し体が揺れていた。 よし、次は傷薬を塗って終わりだ。 そう思って消毒液を片しながら手探りで傷薬を探していた。 手になにかが当たり、傷薬かとそれを掴んだ。 「ひ、姫様」 「…えっ、あ…」 か細い白石さんの声に手元を見ると、俺の手にあったのは傷薬ではなかった。 手に感じる柔らかい感触にさっきよりも顔に赤みが増している白石さん。 俺は白石さんの股間を鷲掴みしていた。 ちょっと固くなったそこからすぐに手を離した。 謝ろうと口を開いたが、それよりも先に白石さんは包帯に手を伸ばした。 すぐに何をするのか気付いて包帯と腕を掴んで止める。 「姫様に汚いものを触らせてしまったんです!もうジョーカー様に会わせる顔がありません!」 「ごめんなさいごめんなさい!俺が勝手に触っただけなので死なないで下さい!」 首に巻かれた包帯を外して今度こそ手当てをしようと傷薬のビンを掴んだ。 そして包帯を頭に巻いて、やっと出来た。 白石さんはずっと謝っていたが、俺は大丈夫だと笑った。 医務室を後にした俺達は廊下を歩いていた。 いつもは注目される事はないのだが、今日は白石さんがいるからか皆振り返っていた。 白石さんは誓司先輩みたいに有名なのかもしれない。 「俺のせいで姫様が注目されて…申し訳…」 「白石さん」 「は、はい」 「俺といる時、謝らないで下さい…もし謝ったらお仕置きですからね」 白石さんには悪いけど、悪い事をしているわけじゃないのに謝るのは変だと思う。 お仕置きと言えば止めてくれるだろうと思って言ったが、白石さんは顔を赤くしたり青くしたり忙しそうだった。 そして、少し考えてからコクンと頷いた。

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