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第88話
もう少し休む事を提案したが、白石さんは大丈夫だと言い教室に向かって歩いた。
白石さんって年上だからクラスが違うから、昼にまた会う事にした。
些細な事でもなにかあったら連絡してほしいと食い気味に言われて約束した。
教室に着いたら、すぐに英次がやって来て俺が遅いから心配してしまったそうだ。
英次にも白石さんの話をして、席に向かった。
その時誰かと肩がぶつかって振り向くとすぐに胸ぐらを掴まれた。
二メートルくらいの身長の大男だろう、首が苦しくなり足も付かなくてブラブラと揺れていた。
「うっ、ぐ…」
「おい何やってんだ!瑞樹を離せよ!!」
「………」
「離してやれよ」
聞き覚えがある声がしたと思ったら、大男は手を離し床に尻をぶつけた。
痛みで顔を歪ませていたら、大男は歩き出して止めた人物の隣に向かった。
入学してから会話らしい会話をしていなかったな……俺も相手も関わる事を避けていたから…
学兄さんは何が面白いのか、ニヤニヤと笑っていた。
英次に手伝ってもらい、起き上がる。
だんだん学兄さんの周りにいる人が増えてきたな、あんな大男いただろうか。
「明日、ローズ祭だな」
「…そうだな」
「楽しみだな、せいぜい死なないようにな」
学兄さん達は下品な笑い声を上げて俺達を見下ろしていた。
英次がなにか言おうと前に出たから俺は肩を掴んで止めた。
ここで喧嘩をしても仕方ない、あまり関わらない方が安全だ。
俺が席に着いたら英次も自分の席に向かった。
肌に突き刺さる視線を感じながら昼まで頭に入らない授業を受けた。
明日、俺は紅葉さん達と演奏する…それ以外になにかあるのか?
確かにローズ祭は鎖に繋がれながら戦う祭らしいし危険なのは分かっている、でも死ぬような事があるのか?
初めてで何も分からないから想像するしかない。
ーーー
「姫様、お迎えに上がりました」
「白石さん」
昼に教室を出ると白石さんが待っていた。
曲がらない美しい姿勢の白石さんに、初対面の英次は目を丸くしていた。
お昼はお弁当を作ってきたから玲音と飛鳥くんも来れるように裏庭で食べる事になっている。
歩き出そうとしたら後ろから大きな声が聞こえて俺達は後ろを振り返った。
白石さんは俺達よりも警戒して俺を背に庇っている。
後ろにいたのはまた学兄さん達で、今朝よりも学兄さんは怒っているようだった。
「お前!姫騎士だろ!なんで俺のところに来ないんだ!?」
「……何故、とは?」
「俺は姫だからだ!!」
学兄さんはそうはっきりと言いきった。
白石さんは本当に分からないというような感じで首を傾げていた。
白石さんは学兄さんが姫だと名乗っている事を知っている筈だ。
なのに学兄さんが一ミリも姫だと思っていないのか「…私はずっと姫をお守りしております」と当然のように言っていた。
俺が姫だって学兄さんに言わない方がいいのではないか?
学兄さんはただの人間で、学兄さんは姫という肩書きに守られているんだ。
白石さんに「行きましょう」と言って歩き出した。
本当の事とはいえこれ以上は何も言わない方がいい。
「お前!!もしかして姫だって嘘付いてるんじゃないのか!?」
「……」
「そんな事絶対に許さないからな!!俺が姫だ!!」
そう叫ぶ学兄さんに一度も振り返らなかった。
今日は英次だけではなく白石さんもムスッとして「姫様を愚弄するなんて…」と言っていた。
その気持ちは嬉しいが、白石さんに俺が姫だという事を内緒にしてほしいと説明した。
英次はなんでなんで言っていたが、白石さんは俺の意思を尊重して頷いてくれた。
少し足止めをくらったが、裏庭に行くと先に玲音と飛鳥くんがベンチに座っていた。
離れたベンチに座っていたが、空気がとても気まずそうだった。
「遅くなって悪かった」
「あっ!瑞樹!!」
俺が近付くと玲音と飛鳥くんがやって来た。
飛鳥くんにも白石さんを紹介すると、やっぱり玲音と英次と同じ態度だった。
皆で昼飯を食べようとベンチに座り、沢山お弁当を作ってきた。
手を合わせていただきますをして、それぞれ好きなおかずに箸を伸ばしていた。
俺も食べようと思ったら、世話係だからと俺の隣に座った白石さんは戸惑っていた。
もしかして好きなおかずがなかったのか?オーソドックスなおかずを作ったつもりだったけど…
「白石さん、好きなおかずがなかったですか?」
「…いえ!そういうわけではありません!!…ただ、人間の食べ物は食べた事がなくて…」
「そうだったんですね、じゃあこれなんてどうですか?」
タコさんウインナーを箸でつまみ、白石さんの口元に運ぶ。
玲音と飛鳥くんと英次がすぐに反応して俺達を見つめていた。
変な事をした覚えはないんだが、なんでそんなに驚いているんだ?
白石さんは「姫様にこんな事してもらうなんて…」とまた不穏な事を考えているようだった。
俺がしたいからだから気にしないで下さいと言った。
迷っていたが、口を開いてパクっとタコさんウインナーを口に運んだ。
「どうですか?」
「おいひぃです…」
何故か白石さんは泣きながら食べていた。
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