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第95話
※瑞樹視点
「瑞樹、本当に大丈夫なの?一日くらい休んでも」
「紅葉さん達に迷惑は掛けられない…それにもう大丈夫だよ」
「…う、そう?」
玲音はいつも以上に心配性だ、ただ倒れただけなのに…
でも、倒れた時の記憶が曖昧でほとんど覚えていない。
架院さんのところに来た事は覚えているが、それ以上の事は何も覚えていない。
倒れていたと教えてくれたのは玲音だし、本当かどうか分からない。
倒れて玲音が運んでくれたのは分かるが何故櫻さんの部屋だったのか…玲音が言うには外から櫻さんの部屋が一番近かったかららしい。
それになんで玲音は架院さんの名前に敏感に反応するのか分からない。
玲音にも、部屋に帰ってきた櫻さんにも架院さんには近付くなと釘を刺された。
昨日まで契約と言っていたのに玲音にまで言われたら近付かない方がいいだろう。
俺と玲音は自室に戻り、寝ている時に着替えさせられたのかラフな格好から予備の制服に着替えた。
シャツはあるが洗濯してるらしい上着がなくて、どうしようかと代わりのものを探す。
何故服を着替えさせる必要があったのかよく分からない。
「瑞樹ー、弟くんと名無しくんが来たよー」
「あ、いや…上着の代わりを探しててさ」
玲音に伝えると玲音は思い出したように自分のカバンを漁っている。
そして俺に袋を渡して「親父から代わりに着るもの用意されてた事すっかり忘れてたよ」と笑っていた。
袋には灰色のコートが入っていた、今の季節にコート…暑くないかな。
せっかく櫻さんが用意してくれたから、コートを袋から取り出して袖を通す。
すると不思議と暑さは感じなくて、ほどよい体温を保っていた。
これなら季節関係なく着れるかもしれない、玲音を見ると不満そうに俺を見ていた。
「他の男にもらったものをそんな嬉しそうに…ムカつく」
「玲音?」
「俺もなにか贈り物する!」
そう大声で宣言した玲音は、自分の自室に入ってしまった。
物を動かす音が忙しそうに聞こえていて、無理して贈り物しなくていいのにと思った。
その気持ちだけで俺は嬉しいんだから…廊下で玲音の事を待つ。
玲音が自室から出てきて驚いて慌てた、腕が流血していたからだ。
慌てて玲音の手当てをしようと自室から救急セットを持ってくる。
「切りすぎちゃった」とへらへら笑う玲音の腕に消毒液を付ける。
「痛い痛い!!」
「わ、悪い…でもなんでこんな事…」
「瑞樹に贈り物があるんだ!」
玲音はそう言ってオレの前になにかを見せた、チャリンと小さな金属音が聞こえた。
それはネックレスで、玲音から受け取りまじまじと見る。
銀色のネックレスに中心には小さな瓶があった。
瓶の中には真っ赤に色づいた液体がゆらゆらと揺れていた。
もしかして、これって…ガーゼを当てている腕を見つめる。
玲音はニコニコしている、言わなくてもそうだと分かった。
「玲音、俺にプレゼントするのに自分を傷付けるなよ」
「ち、違うよ!これにはちゃんと意味があるんだよ!吸血鬼の血には御守り効果があって…」
玲音の傷口に包帯を巻いて、玲音の気持ちは嬉しいが…俺が一番嬉しいのは元気で健康な玲音だけだ。
無駄には出来ないから首にネックレスを付けて「ありがとう」と包帯に口付けた。
玲音は俺を抱きしめてきて、頭をポンポンと叩いた。
加護より、玲音がいつも傍にいるような安心感がある。
するとドンドンとドアを叩く音が聞こえて、慌てて出た。
ずっと待っていたであろう飛鳥くんと英次がいた。
「弟くんと名無しくんだ!」
「…弟って言われるの嫌いなんだよ」
「名無しって、俺は初瀬英次だ!!」
「遅くなって悪かったな」
玲音を睨む二人に言うと二人は俺の方を見て、コートを着ているのが不思議なのか質問責めにあった。
玲音は言わなくていいと俺の腕を引いて歩いていた。
不満げに付いていく二人に、俺自身も説明出来るほど覚えていないから説明が出来なかった。
寮を出ると大きな音が聞こえて俺達は驚いて周りを見渡す。
玲音だけが上を見ていて釣られるように上を見ると、いくつもの花火が打ち上がっていた。
昼に花火、今日はローズ祭だからだろうか…なんか久々に見たな。
「今日は授業ないからそのまま会場に行こう!」
会場とは校舎の横にあるイベントホールで、入学式もそこで行われていた。
俺は入学式には出ていないから玲音達に付いていく。
ローズ祭は二人一組で行われるもの、くじで決まるらしいが…俺が仲間と当たるのは確率が低いだろう。
学兄さんの仲間が多いこの学院で、学兄さんの仲間に当たらない確率も低い。
玲音は誰と組んでも俺の横にいると言ってくれた、俺にも力が戻ったから何とか自己防衛出来る。
飛鳥くん達も俺を守ると言ってくれたが玲音がはっきりと「邪魔」と言っていた。
玲音達は喧嘩をしていて、俺がなだめるいつもの感じに戻った。
ーーー
最初はローズ祭までのタイムリミットが短すぎてどうなる事かと思ったが、ちゃんと綺麗な一つの音楽にまとめられて最後の音合わせが終わった。
ローズ祭開催一時間前、俺達は衣装を着て会場のステージ裏にいた。
全校生徒、教師が集まる会場はとても広かったが数人会場からはみ出るほど生徒の数が多かった。
ローズ祭は吸血鬼と魔法使いがランダムに選ばれて協力する競技…つまり闘技場のような祭りだからか力が強い魔法使いが集まって周りに被害がないように会場に結界を張っていた。
協力する競技なのに何人か喧嘩しているのが見える。
俺はステージの隙間から前にいる客を見ていた。
…紅葉さんが最初ネガティブな事を言っていたから心配していたが、良かった…皆楽しみにしてるみたいでガヤガヤと楽しみにしている声が聞こえる。
知り合いを探すと飛鳥くんと英次が見えて、玲音となにか話してるのが見えた。
今朝の続きだろうか、玲音も名前覚えてるだろうし意地悪しないで言ってあげればいいのな。
「緊張してきたぁー」
紅葉さんの声に玲音達から視線を外し後ろにいるメンバーを見た。
紅葉さんは久しぶりだからか緊張で手が震えていた。
俺は緊張を和らげるために紅葉さんの両手を包み込み、ギュッと握った。
昔飛鳥くんが緊張した時にしたおまじないだから効くか分からないが、気が紛れればいいな。
俺も人前での演奏に緊張していて、俺の緊張を解すためでもある。
少し冷たかった紅葉さんの手がだんだん温かくなる。
「紅葉さん、大丈夫だよ…練習であんなに綺麗な歌声を出せるんだから大丈夫」
「……別の意味で緊張してきた」
紅葉さんは顔を赤くしていたから熱でもあるのかと顔を近付けるとギリギリのところでギターが振り下ろされて間一髪で避けた。
一瞬また命を狙われているとひやっと背筋が冷たくなった。
横を見ると物凄い負のオーラを出す紅野さんがいた。
紅野さんは紫音さんに羽交い締めで押さえつけられていた。
それでも振り切ってやって来そうな雰囲気だった。
命を狙われているわけではないようで良かった……のか?
「……てめぇ、紅葉に変な事したらぶっ殺すぞ」
「え!?ちょ…誤解です!!」
「紅葉にキスしようとしながら誤解だと!!許さんぞクソガキ!!」
完全に誤解している紅野さんが襲い掛かってきた。
紅葉さんが紅野さんを必死に止めているが力がないのか紅野さんと俺の攻防は続いている。
指輪の力でほとんど互角で、それも紅野さんは気に入らないらしい。
後ろに機材があるのに気付かず倒れた俺に馬乗りになった紅野さんの足が俺の下半身に当たった。
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