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第98話

「なるほど、俺の作戦が裏目に出たか」 「………申し訳ございません、玲音様」 男のパートナーである吸血鬼の次期王は玲音に聞こえる程度の小さな声でつぶやいた。 本当は玲音の従者である彼は、今玲音のふりをして学兄さんのところにいる。 学兄さんの親衛隊は親衛隊同士でパートナーになるように学兄さんが調整しているのだろう。 そして最悪な事に彼らがパートナーになってしまった。 玲音は自分の代わりに学兄さんの相手をさせた事を後悔していた。 男は玲音の従者の首を掴み、爪を立てると少量の血が滴り落ちた。 「おい!!」 「玲音様の傍にいられるのは僕だけなのに、コイツも……お前も!!」 突然俺の方に顔をぐりっと向けたと思ったら針を投げつけてきた。 すぐに玲音の剣で叩き落とされて床に転がる針を踏みつけて壊した。 俺を狙ったのは玲音の傍にいたからだったのか。 「玲音様の婚約者を名乗るあの姫は気に入らないけど、アイツがその人間を殺せって命令するからちょうどいいと思ったんだよ」と片手で持っているぬいぐるみを抱き締めながらそう言った。 学兄さんの傍にいるけど、盲目なわけではなさそうだ。 玲音は俺達に手を出すなと言っていた、きっとこの男は玲音の従者を盾にするだろう。 だとしたら銃より剣より、判断力が高い拳の方がいいだろう。 「来なよ、玲音様以外串刺しにしてあげる」 「…ちっ」 「俺が行く」 「瑞樹!?何言ってんの!ダメだよ!!」 当然玲音に止められるが、あの鎖を切れば終わる…鎖は不死身ではないからな。 俺は玲音に大丈夫だと微笑んで貴斗さんの銃を下ろさせる。 不安そうに見守る三人に微笑み、貴斗さんに俺が自由に動けるようにサポートをお願いした。 大丈夫、貴斗さんにも当たらないように計算をするつもりだ。 男は玲音の従者を縦にして、片手に持てる限りの針を持っていた。 俺は貴斗さんに耳打ちで今から動く順番を教えた。 それを見て男は心底可笑しそうにバカにした感じで笑っていた。 「あっはは!!何それ!僕に勝てるとか思ってんの!?」 「…やってみなきゃ分からないだろ」 「じゃあ分からせてあげる、人間ごときが僕を怒らせた事…後悔させてあげる」 皆を下がらせて、俺と貴斗さんは男と玲音の従者に向かって走った。 なにかあったらすぐに戦えるように玲音達は構えていた。 針を俺達に向かって飛ばして、まずは右に避けた。 右に玲音の従者がいるから邪魔で右には針が飛ばないと思った。 それにイラついて、玲音の従者を押し退けて右投げつける。 やはり俺の思った通りの動きをしている、単純で良かった。 頭に血が上りやすいタイプなのだろう、動きを読むのは簡単だ。 これが知能タイプなら、裏を狙われていたかもしれない。 針を投げる前に左に寄ったから針は当たらなかった。 そして問題は次だ、また左に投げる事はしないだろう…もう避けられると分かっているだろうし…さすがにそこまでバカじゃないと信じたい。 次は全体を狙って針を投げてくるだろう、隣をチラッと見ると貴斗さんが力を込めていた。 針を投げたタイミングで男達に向かって風を巻き起こした。 針は威力を失い何処かに飛んで行き、男は風によって前が見えなくなりつつもぬいぐるみから針を取り出そうと手を伸ばした。 しかし、その手は針に届く事はなく俺は腕を掴んで止めた。 「俺の勝ちだ」 「いや、いやぁぁぁ!!!!!!!」 パキンと鎖を掴むと壊れて男は顔を青くして絶叫していた。 俺に針を向ける前に貴斗さんにより後ろに引っ張られ、針は当たる事がなく敗北した男と玲音の従者は鎖で拘束された。 はぁはぁと荒い息を整えていたら玲音達がやってきて、抱きしめられた。 「凄いよ瑞樹!」 「まさか二人に一度も攻撃する事なく鎖を切るなんて」 「本当は一発殴りたかったんですけど、ぬいぐるみを持っていたので」 ぬいぐるみには針が刺さっていた、近付くのは危険だと判断した結果だ。 そして大きな金の音が聞こえてローズ祭の終了を宣言していた。 あんなに会場にいたのに残っていたのはほんの数人だけだった。 男を倒す作戦中に人間嫌いの誰かが襲撃してきたらと思っていたが、男の異常さが怖かったのか誰も来なかったのが幸いした。 そして敗北者は会場の天井に吊るされていて、そこには飛鳥くんと英次がいた。 二人は別々のパートナーと一緒だったようで不満げな顔をしていたが、俺が近付くといつもの顔に戻った。 「瑞樹!何処に行ってたんだよ探したんだぞ!」 「悪い、英次…怪我ないか?」 「ない…パートナーのドジで敵に狙われていないのに鎖が切れたんだよ」 どうやら英次のパートナーはかなりのドジっ子で何もないところで転んだりして、鎖が足に絡まり壊れたそうだ。 怪我がなくて良かったけど、災難だったなと苦笑いする。 飛鳥くんのところに行くと、飛鳥くんも見た目怪我をしていなかった。 「瑞樹が生き残って良かった」と自分より俺の無事を喜んでくれた。 飛鳥くんのパートナーは飛鳥くんの事が好きな男の子に当たってしまったみたいで、ずっとくっつかれていたそうだ。 もしかしてあそこで飛鳥くんに熱い視線を送ってる彼なのかな。 「飛鳥くん、誰にやられたの?」 「……自分でもよく分かんねぇけど、ヤバい奴なのは分かる」 そう言って飛鳥くんはある方向に視線を向けていた。 そこにいたのは、誓司先輩よりも小さい小柄な少年とあの生徒会長だった。 飛鳥くんは生徒会長と小柄な少年が前に現れてくっつくパートナーを押し退けながら戦おうとしたらしい、記憶はそこで途切れたと話していた。 気付いたら吊るされていたという奇妙な事を言っていた。 二人が鎖を切ったの、見ていないって事なのか? 生き残った生徒会長と小柄な少年はすぐに学兄さんのところに向かっていた。 「もしアイツらと戦う事になったら、何も考えず逃げろよ…絶対に」 「……わ、分かった」 どちらが鎖を切ったか分からないが、戦いたくはない。 ローズ祭の優勝者は生徒会長と小柄な少年に決まった。 今日はそのまま帰宅が許されていて、皆で帰ってお疲れパーティーでもしようと話していた。 鎖から解放された飛鳥くんと英次は肩を回してストレッチをしていた。 貴斗さんに「ありがとうございました」と言うと「素晴らしい瑞樹様の戦い方を見れたので私の方こそありがとうございます」と笑っていた。 貴斗さんが居てくれたから俺は自由に動けたんだ、この勝利は貴斗さんのおかげでもあるんだ。 誓司先輩は櫻さんに呼び出されたと会場前で別れた。 「ねぇねぇ、ちょっと待ってくれん?」 後ろから聞き覚えがない声が聞こえて、全員後ろを振り返った。 眼鏡を掛けたマギカクラスの生徒がニコニコ微笑みながらこちらに来ていた。 俺を囲むように皆殺気立ち警戒しながら男を見ていた。

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