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第99話
「あれは風紀委員長の鳳 理生 です」
貴斗さんが俺に教えてくれた、風紀委員長だったのか知らなかった。
貴斗さんの話によると生徒会長が吸血鬼、風紀委員長が魔法使いで学院を束ねているそうだ。
イベント行事などは生徒会長、風紀は風紀委員長と役割分担していた。
魔物全体では王達が権力者、学院では生徒会長と風紀委員長が権力を持っている。
でも風紀を乱したわけじゃないのに俺に何の用なんだ?
警戒されてもまだ楽しげに笑う風紀委員長に不思議な感じがした。
彼に殺気は感じられない、それに学兄さんの親衛隊の中にもいなかった。
「俺は人間ですけど、嫌じゃないんですか?」
「人間?…あっははは!!!!」
突然大笑いされて、全員目を丸くして固まった。
その隙にどんどん近付いてくるから、皆すぐに我に返り止めようと動き出した。
最後に貴斗さんが銃を向けて、その足を止めた。
風紀委員長は俺をまっすぐに見つめていた、やはり殺気はないように感じた。
まだ信用出来ないが、話を聞くだけならいいだろう。
貴斗さんの銃を持つ手に触れて下ろさせると風紀委員長は「ありがとうね」と笑った。
「俺に何の用なんですか?」
「君達の仲間に入れてほしいん、ダメ?」
仲間になるってどういう事なんだ?もしかしてこの人も俺が姫だと知っているって事か?
「貴方はこの方がどういう方なのかご存知なのですか?」と貴斗さんが聞くと「人間ちゃうの?」と当然のように言っていた。
俺が人間だという事以外知らないようだった、なら尚更何故俺の仲間になりたいのだろうか。
皆俺が姫だと分かっていて、守ってくれている人達ばかりだ。
仲間がどういう仲間なのかは分からないが、刃を向けられていない状態で話しているが変な動きをしていないから、本当に攻撃する気はなさそうだ。
風紀委員長は軽い感じだったけど、急に真剣な顔になり頭を下げてきた。
「な、何してるんですか!頭を上げてください!」
「…お願い、俺も仲間に入れてほしい」
「どうしてそこまで…」
「君達が、あの姫達と敵対してるから」
「……え?」
「姫の親衛隊になっている俺の親友を助けたいんだ」
必死な彼から嘘は感じられなかった、学兄さんの親衛隊…か。
玲音は「瑞樹が人間だってバレた今、誰も信用しない方がいいよ」と言っていた。
それは分かっているが、彼が嘘を付いていると決めつけるのもどうかと思う。
皆、反対なのか険しい顔をしていた…一人だけ…貴斗さんはいつもと変わらなかった。
「瑞樹様の考えに賛同致します」
「…貴斗さん」
「お、俺だって瑞樹の考えに従うよ!でも、危ないじゃん…」
玲音は複雑な顔をしていた、反対を押しきってまでやらないよ。
ただ、彼が皆に認めてもらうためには少し時間が必要だろう。
俺も彼を知るために…仲間になるかどうかはそれからだ。
とりあえず共にいる事は本人の自由だから俺は止めないが、心を許したわけじゃない事を伝えた。
それでも風紀委員長は満足そうに頷いて俺にウィンクしていた。
玲音は「瑞樹の事好きなんじゃないの?」と疑いの眼差しを向けていた。
「えー、違うよー…ここって姫の親衛隊みたいに彼を好きな人の集まりなん?」
「いやいや、違います!」
たまたま玲音達がそうなだけで、俺はただの友達でも嬉しい。
風紀委員長は「良かった良かった、別に君自身には興味ないからね~」とはっきりと言われた。
別にそれはいいけど、面と向かって言われるとちょっとへこむ。
俺達の仮仲間が変なカタチで出来た、本人は親友を取り戻したら仲間から抜けると宣言していた。
自己紹介をして彼は「鳳ちゃんって呼んでー!!」とテンション高く言っていたが、誰一人として呼んでいなかった。
彼の親友が誰なのか分からないと、俺も協力出来ない。
「鳳さん、親友って誰なんですか?」
「生徒会長」
その言葉にいち早く反応したのは飛鳥くんだった。
飛鳥くんは唯一生徒会長を目の前で見ていたから俺を見ていた。
確かローズ祭で飛鳥くんは生徒会長に関わるなと言っていた。
こんなすぐに関わるとは思っていなくて困った。
玲音も同じ吸血鬼だから生徒会長についてなにか知っている様子だった。
魔法使いである鳳さんが人間の俺に頼むほど仲がいいんだよな。
「確か生徒会長って、森高学と出会ったその日にキスした人だよね?」
玲音の言葉に俺達は驚いて、飛鳥くんもそういえばと思い出していたから騒ぎになったのだろう。
鳳さんも知らなかったのか驚いていて「…アイツ」と小さく呟きながら頭を抱えていた。
親衛隊の中で一番常識人に見えて、一番学兄さんに盲目のように玲音は見えたそうだ。
しかし鳳さんは必死に違う違うと否定していた。
二人の関係を知らない俺から見ても今日のローズ祭の二人は他の信者達と雰囲気が違った。
他の信者達は後ろにいたのに生徒会長は学兄さんの隣にいて、学兄さんも信頼しているような…そんな雰囲気だった。
「とにかく、アイツを姫と親衛隊達から救ってほしいんだよ…君が人間なのに魔物に立ち向かって勝利した…だから頼んでるんだよ…ただの守られるだけの人間になんて頼り無い」
学兄さんと敵対してるように見えて、俺があの男の鎖を壊したのを見て声を掛けてきたのか。
でも俺は別に学兄さんと争いたいわけではない、学兄さんには嫌われているが嫌ってはいないからだ。
ただ、いつ学兄さんの嘘がバレるのか分からず怖いんだ。
俺は学兄さんを…兄を守りたい、ただそれだけだから…
皆が集まる時に鳳さんは呼んでと俺に携帯道具のIDを教えてくれた。
寮の前まで着いてきたが、風紀の仕事があると思い出したみたいで俺達に手を振って学院に戻っていった。
俺達も寮の中に戻り、魔法使いは別フロアだから貴斗さんが足を止めた。
「貴斗さん、パーティーの準備が出来たら携帯道具で連絡します」
「…………はい」
貴斗さんは暗い顔をして返事をするからどうかしたのだろうかと不安だった。
もしかしたらローズ祭で動き過ぎて傷口が開いたのではないのか?
貴斗さんの傷口は見ていないからどのくらいなのか分からない。
でも包帯の量と範囲でだいたい分かる、こんなに包帯を巻いて軽傷なわけがない。
貴斗さんの包帯にそっと触れて「痛みますか?」と聞いたが首を横に振っていた。
そして包帯に触れていた俺の手を掴んで、手の甲に口付けて膝を曲げた。
「瑞樹様、私が瑞樹様をお世話するのは今日が最後なのです」
「そうだったんですか」
「指輪がない間だけ守ってほしいと櫻様に言われていました」
「ですが…」と続ける手が震えていて、もう片方の手で包み込む。
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