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第102話

「変なとこ見られてしまったなぁ」 「…あの人が、助けたい親友ですか?」 「友人でも何でもないんやって、あんな奴…もう知らん」 知らんと言いつつ、彼が去った方向を見つめているから本当は気になって気になって仕方ないのだろう。 鳳さんは櫻さんに気付いて「なんで櫻さんと?」と不思議そうにしていた。 櫻さんと知り合いなら櫻さんが吸血鬼の王だと知っているだろう。 櫻さんはまだ仲間でもないのに俺との関係を話したらダメだと思ったのか「玲音の同室者だから知り合いなんだよ」と答えた。 玲音は鳳さんの事知らなかったけど、鳳さんは玲音が櫻さんの息子だって知っていたのかな。 鳳さんの拳から血がポタポタと流れていて手を取った。 「鳳さん!血がっ…」 「いいって、こんなもん唾つけとけば治る」 「ダメです、櫻さんお部屋お借りしていいですか?」 「えっ、ちょっと!!」 「救急セットもあるよ」 鳳さんの怪我をしていない方の手を掴んで、櫻さんの部屋に戻ってきた。 玲音に心配掛けないように携帯道具でメッセージを送る。 リビングのソファーに鳳さんを座らせて、櫻さんから借りた救急セットを開いた。 まずは傷口を綺麗にして、綿に染み込ませた消毒液を傷に当てると眉を寄せて我慢していた。 鳳さんは生徒会長の事どうするんだろう、知らんって言っていたけど…まさかあのままほっておくのだろうか。 鳳さんと話していた生徒会長は、ローズ祭の時と違って危うい感じがした。 俺から見たら、なにかに対してヤケになっているように見えた。 「鳳さん、生徒会長の事…どうするんですか?」 「……」 「俺も、あの生徒会長はほっとけない気がしました…鳳さんを拒んだのもやけくそに見えました」 「…分かるん?」 俺じゃなくても分かる人には分かるよ、櫻さんを見たら「そうだね」と頷いていた。 生徒会長は学兄さんの親衛隊、もし学兄さんのせいで生徒会長がヤケになっているならどうにかしたい。 鳳さんは考えて「まぁ、隠す話でもないからいいか」と呟いた。 そして手当てをしながら話してくれた、鳳さんと生徒会長の出会いの話を… 鳳さんは一人で暮らしていた、両親はいたようないないような…もう思い出せないらしい。 人間は好きでも嫌いでもなかった、ただ魔物に怯える可哀想な奴らとしか思わなかったそうだ。 森の中で野生児のように暮らしていて、同じ事で退屈な毎日を過ごしていた時の事だった。 小さな小川を眺めている男が一人ポツンといた。 ここは滅多に人が通らない事もあり、不審そうに警戒して近付いていた。 その男は近付く気配に気付いて慌てて振り返り、その衝撃でなにかが手から滑り落ちた。 ポチャンという音が聞こえて慌てて小川を見たが、小川とはいえ流れが早いからもう何も見えなくなった。 男は物凄く怒ったような顔で鳳さんの胸ぐらを掴んでいた。 『どうしてくれるんだ!!あれは俺の大事な…』 『そんな事より、探しに行かなくていいのか?』 鳳さんがそう言うと我に返ったように鳳さんを突き飛ばして、小川の流れる方向に向かって走っていった。 鳳さんは最初、面倒だと思っていたが自分が近付いて驚かせてしまったから落としたと罪悪感を抱いて男に付いていった。 男は先に行ってしまったが、鳳さんは小川を見て軽く探していた。 そしたら光に合わせてキラキラと光るものが見えた。 冷たい小川の中に足を踏み入れてそれを手に持った。 それは金色の懐中時計で、カチカチと針が時間を刻んでいた。 綺麗なものだ、あんな必死になって探す価値はあるな。 先にいる男の方に向かうと、男も小川の中に入って探していた。 『おーい、見つかったぞ!』 『っ!?』 男に向かって大声で声を掛けたら驚いて小川の中で転んだ。 頭から水を被り、それがあまりにも可笑しくて大笑いした。 男からしたら出会いは最悪だっただろうが、鳳さんにとっては最高の始まりだった。 それから男は行く場所がないと言うから家に泊めてあげた。 それからどのくらい過ごしていただろう、二人きりでいる事にも飽きてきた時だった。 二人しかいないと思っていた森を歩いていた時、彼女と出会った。 「…それがお姫様だったんだよ」 「お姫様って櫻さんの…」 「いや、違うよ」 「そうそう、俺達が出会ったお姫様はだいぶ前…初代のお姫様だよ」 「えっ!?」 「鳳理生くんと鈴鹿(すずか)有栖(ありす)くんは、初めて姫と出会った神話に出てくる魔法使いと吸血鬼なんだよ」 まさか二人が神話の二人だったなんて想像すらしていなかった。 櫻さんから聞いた神話の話を思い出す、姫を愛した二人の男…か。 じゃあ学生に見えるけど、櫻さんより年上なのか? 櫻さんは「僕より上の立場なのに敬語止めてくれないよね」とにこやかに言っていて鳳さんは「今の王は櫻さんだからねぇ」と笑っていた。 それからは神話で記されている、何の面白みもない話だと苦笑いしていた。 この話を知っているのは櫻さんと当事者の生徒会長と生徒会長の従者だけだと言う。 理由は単純で「聞かれなかったから」という理由らしい。 「恋に溺れた哀れな魔物の末路は彼女が死んでからも続いたんだ」 人間の寿命はとても短い、姫は病に倒れてしまった。 自分より長い年月を過ごす魔物達を自分という愛で縛ってはいけないと考えた。 だから『どうか、私が死んでも…貴方達は私を忘れて…幸せになって』と言葉を言い残してその瞳を閉じた。 それから鳳さんも生徒会長もバラバラになり、それぞれの時間を過ごしていた。 鳳さんは姫を忘れる事はなかったし、誰かと新しい恋は考えていなかった。 そんなある日の事、新しく出来たという魔物の学院に当時の吸血鬼の次期王である櫻さんがいるという情報を聞いた。 暇潰しになるかもしれないと、好奇心だけで学院に入った。 優秀な成績に質のいい魔力で一年という短い時間で、学院の権力者の一人である風紀委員長になる事になった。 その時初めて生徒会長もこの学院にいる事に気付いた。 彼はいつか彼女の生まれ変わりの姫が学院に来るか分からないから学院が出来てから卒業する事もなくずっと待っていたそうだ。 彼女にここまで執着しているなんて驚いていた。 自分もまだ好きだが、正直ここまでストーカーにはなれなかった。 早々に学生時代の櫻さんと出会って恋をした姫は学院を卒業した。 姫は姫でも違う姫だったから生徒会長は興味がないようだった。 ずっとこの学院で姫を待ち続けている生徒会長を心配した鳳さんも学院に残る事を決めたそうだ。 そして今年、学兄さんが入学してきて生徒会長は変わった。 ある日の朝、生徒会長が鳳さんのところにやってきたそうだ。 『姫が、姫と同じ魂を持つ子が現れたんだ!』 そう嬉しそうに生徒会長が言うから、入学式をサボっていて姫の存在を知らなかった鳳さんは姫を見に行ったそうだ。 姫とずっと過ごしていて魂が同じ生まれ変わりなのだとすぐに分かった。 でも、あの時のような恋心は不思議と抱かなかった。 分かっているからだ、彼女と学兄さんは全然違うと… 自分と何処か似ている生徒会長もそう思っていると思っていた。

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