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第104話

※瑞樹視点 「やっほー、みずっちゃん」 「鳳さん」 授業中はいつもより陰口や目線が痛かったが、直接なにかされたわけではない。 昼休みになった途端に、数人が俺の方を見て席を立ったからなにか仕掛けてくると思っていた。 しかしその前に鳳さんが教室にやってきて、騒がしかった教室が一気に静かになった。 鳳さんはそんな事は気にせず、まっすぐ俺の方に向かって歩いてきた。 授業中よりも目線がチクチクと肌に突き刺さった。 学兄さんは鳳さんが俺といるのが気にくわないのか鳳さんの腕を掴んで引き止めていた。 「理生!なんでソイツと一緒にいるんだ!?ソイツは人間なんだぞ!!」 「だから?俺が知らないと思ってたんか?…というか君も人間やん」 「ち、違う!俺はただの人間なんかじゃ…」 「そうかそうか、良かったなぁ~」 学兄さんの言葉を軽くあしらい、鳳さんの腕に絡み付いていた学兄さんの手を自然な手つきで外していた。 そして俺の腕を掴んで、引きずるように連れ出された。 後ろから英次も付いてきて、いったい何処に向かっているのか分からないまま歩いていく。 校舎を出て、本気で何処に向かっているのか分からなくなった。 裏庭に近付き、昼飯を裏庭で食べていた吸血鬼達が俺達の方に注目していた。 でも鳳さんがいるからか、なにかしてくる気配はなかった。 裏庭から校舎に入るわけではなく、もっと奥に向かった。 そこには大きな建物が二つあり、どちらも行った事がなかった。 「こっちだよー」 「鳳さん、ここは?」 「特別棟、生徒会室と風紀委員室と姫の謁見室があるんよ」 「…こっちは?」 「そこは図書館、魔法使いと吸血鬼のいろいろな情報が詰まっているから入ったら目を回すほどの本の数があるんよー」 ぷにっと頬に指を突き立てられて、摘まんだりされた。 ステンドグラスがキラキラ光り、見た目教会のようなところが特別棟なのか。 さすがに吸血鬼もいるからか十字架は装飾されていなかった。 鳳さんは特別棟に用があるのか、特別棟の大きな扉を開けた。 一般生徒が入っていいのだろうか、特別棟と呼ばれるくらいだし… 英次は怖がりだからか、俺の腕にぴったりとくっついていた。 「鳳さん、何処に行くんですか?」 「風紀委員室に決まってるやん、大丈夫…残ってる奴らは皆いい奴だから」 残ってるってどういう事なのだろう、もしかして風紀委員の人達のほとんどは学兄さんの親衛隊なのかもしれない。 二階の階段を上り、一番手前のドアを開けて俺と英次を先に入れてくれた。 すると中には一人だけ、机に向かってパソコンを打っている人がいた。 瓶底のメガネを掛けている人で、俺達に気付いていないのかパソコンに集中していた。 鳳さんはメガネの人に近付いて笑いながらメガネを奪っていた。 鳳さんって風紀委員の人に対しても俺達と態度は変わらないのか。 「かっ、返せよ!委員長ー!」 「せっかくお客さん連れてきたんのに、気付かないのが悪いんや」 「……お客ぅ~?」 メガネを鳳さんから奪い返し、メガネを掛けて俺達を見つめていた。 首を傾げて、鳳さんに説明を求めていたが鳳さんは説明する気がないようだった。 風紀委員室の真ん中に置いてあるソファーに座るように誘導した。 メガネの人にお茶を持ってくるように言っていたが、メガネの人は無視をして自分の机に戻っていった。 鳳さんは唇を尖らせて、備え付けのキッチンに向かった。 俺と英次は並んでソファーに座ると、一度は机に戻っていたメガネの人が俺達の向かいのソファーに向かった。 「君達って誰?あの人とどういう関係?まさか友達とか言わないよね?…あんな誰彼構わずバカにした態度の人に友達なんていないよね?」 早口で言っていて、内容は聞こえたが突然だったからびっくりした。 誰って、もしかして俺の事知らないのか?自意識過剰とかではなく純粋にそう思った。 英次は一言だけ「…友達じゃない」と小さな声で言っていた。 俺は皆が知ってる事だし、人間だと最初に伝えた。 人間がこの学院にいる事は知っていたようで驚いた顔をしていた。 メガネの人がなにか言う前に、後ろから再びメガネを取られた。 「あっ!?」 「なーにしてんの?ワンコ」 「犬井(いぬい)だ!返せったら!前がぼやけてよく見えねぇんだって!!」 メガネの人は鳳さんに向かって腕を伸ばしてメガネを返してもらおうとしていた。 メガネの人は身長は低くはないが、若干鳳さんの方が身長が高くて届いていなかった。 メガネを持っている腕を振って翻弄していて、前が見えづらくなっていても鳳さんが何をしているのかは分かるみたいだ。 ムキになって背伸びしているが全く届いていない。 鳳さんはメガネを投げつけて、メガネの人が短い悲鳴を上げていた。 膝の上にメガネが落ちて拾って返そうと手を伸ばす。 「あの…これ…」 「めっ、めがねぇ…」 メガネの人はメガネを追いかけていたらソファーに足を取られて、俺の肩を掴まれて覆い被さられた。 俺の膝の上に座っている状態で、至近距離で見つめ合った。 メガネでよく分からなかったが、彼もかなりの美形だ…この学院の顔面偏差値が高いな。 ……俺も美形だったら、と思った事はなくはないが考えても無駄だから考えるのを止めた。 俺の顔がよく見えないのか、輪郭を確かめるように頬に触れていた。 頬、顎、そして唇に指先が触れて何をしているのか分からなかった。 「…あ、あの…っんっ、ふ、はっ」 「……」 口を開いたら、突然唇を塞がれて驚くまもなく舌をねじ込まれた。 舌をからめられて吸われて、ピクッと反応する。 下半身同士を緩く擦り合わせて、口の間から吐息が漏れる。 肩を押して抵抗してみたが、姫の力は働かず全くびくともしなかった。 何故だろうか、俺が心から拒絶する相手以外だと力が抜けていく。 これも姫の力なのか、俺は初対面の相手とこんな事したくないのに… 隣にいた英次は呆然としていたが、止めようと英次も肩を掴んでいた。 メガネの人は眉を寄せて、俺から唇を離して英次の方を見つめた。 妖艶に微笑む彼は、俺から英次の膝の上に乗った。 英次にも俺と同じように頬に触れていて、英次はびっくりして固まっていた。 きっと人生でこんな風に迫られた経験がなかったのだろう。 しかも美形だからどうしたらいいのか分からないようだ。 他人のこういう場面は見た事がないからか、何だがドキドキした気分になってきた。 英次に顔を近付けて、ニコリと微笑んで足を擦り合わせた。 「いっっってぇぇぇ!!!!!!」 急に英次が叫び出してびっくりしていたら、横から鳳さんにメガネを取られた。 どうやら英次はメガネの人の膝で大事な部分が踏まれていた。 しかも偶然ではなく、ぐりぐりと潰すようにやっていて……俺の下半身も寒くなってきた。 止めようとメガネの人の肩を掴むが、通常時でも英次がやった時のようにびくともしなかった。 鳳さんがメガネの人にメガネを掛けると、ピタリと動きを止めた。 英次は涙目で、下半身を押さえてうずくまっていた。 「全く、ワンコをからかうのは楽しいけど駄犬になっちゃいけない」 「……ぅ、あれ?君誰?」 またふりだしに戻った会話を始めて、さっきの妖艶な雰囲気はなくなった。 首を傾げて英次から離れて、再び机に戻っていった。 鳳さんは淹れてくれたお茶をテーブルに並べた。 何事もなかったかのように向かいのソファーに座ってくつろいでいた。 あれはいったいなんだったんだろう、聞いてもいい事…だよな…英次は痛い思いしたんだし… まだ英次は痛みに悶えていて苦しそうにしていた。

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