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第106話
姫の力は時間を掛けて取得するとして、今は戦闘の基本知識を教えてもらった。
防御の仕方、反撃の仕方を中心にあくまでも己の身を守る格闘術だ。
櫻さんは軽く拳を突き出して、腕でそれをガードする。
衝撃を軽減させる方法をやると思ったより痛みはなかった。
それを何度か繰り返し、だんだん早くなっていく。
瞬発力が良くなっていくのが自分でも分かった。
「素質があるね、教えがいがある」
「…あ、ありがとうございます」
「さてと、今日はここまでにしようか」
櫻さんにタオルを渡されて、汗を拭うと腹が大きな音を立てた。
恥ずかしくなって、顔を赤くしていたら櫻さんに頭を撫でられた。
別の意味で顔が熱くなって櫻さんを直視出来ない。
後ろから誓司先輩に抱きしめられて、櫻さんから離された。
誓司先輩は俺の肩に顔を乗せて不機嫌そうに頬を膨らませていた。
それを見た櫻さんはクスクス楽しそうに笑っていた。
「誓司先輩どうしたんですか?」
「…いえ、櫻さんは俺なんかより大人なので嫉妬していただけです」
「素直だね」
櫻さんに言われて、誓司先輩は小さな舌打ちをしていた。
誓司先輩は誓司先輩の魅力があるんだから誰かと比べなくていい。
俺は初めて繋がった時と何も変わらず誓司先輩の事を愛している。
誓司先輩が抱きしめている腕に触れて、ゆっくりと外した。
そして後ろに振り返り誓司先輩をぎゅっと抱きしめた。
誓司先輩は一瞬驚いたようだったが、すぐに抱きしめ返してくれた。
「誓司先輩の男らしくて頼りになる魅力、俺は知ってますよ」
「俺も守りたいほどの愛らしい魅力、知ってますよ」
「…俺は守りたいって思ってますよ」
「えぇ、俺もですよ」
誓司先輩はニコッと笑い、俺の頬に触れて唇を合わせた。
小さく口を開くと舌が入ってきて、撫でて絡み合った。
誓司先輩に腰を触れられて、ゆっくりと撫でられた。
短く吐息を吐くと、誓司先輩が首筋に顔を埋めて撫でるように舐められた。
シャツの下に手が滑り込んできて、きゅっと目を瞑る。
櫻さんの咳払いで、櫻さんがいた事を思い出して誓司先輩から離れた。
「それ以上は二人っきりでしなよ」
「じゃあ櫻さん、どっか行ってくれません?」
「ん?」
「せっ、誓司先輩!?櫻さんごめんなさい!」
「…瑞樹は悪くないよ」
櫻さんは俺に笑いかけて、誓司先輩を無表情で見つめていた。
俺が謝っても櫻さんは怒っているようで、聞いてくれない。
やっぱり誓司先輩が謝らなくてはいけないのだが、誓司先輩は櫻さんを睨んでいる。
櫻さんの王様としての威圧を感じて動けなくなるが、誓司先輩は俺より長く櫻さんといたから平気なのかもしれない。
今にも喧嘩をしそうなピリピリした空気を肌に感じる。
誓司先輩に謝るように言えるが、それは心から望んだものではないから意味がない事に感じた。
「僕にこんな事言えるのは君くらいだよ」
「…俺は姫に忠誠を誓った姫騎士だ、俺の主はアンタじゃない」
「そりゃあそうだろうね」
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