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第107話

先に櫻さんが折れて苦笑いしていた、誓司先輩もそれ以上は何も言わずとりあえずその場では何事もなかった。 もう遅いからと櫻さんと誓司先輩に寮前まで送ってもらい別れた。 今日は他に行く予定があるから部屋には寄らない予定だ。 鳳さんの知り合いの何かを手伝うつもりだが、鳳さんをよく思っていない誓司先輩からしたら知り合いでも二人きりで会うのは止められそうだ。 でも今の俺には他に生徒会長を助ける方法がなかった。 どんな事でも俺に出来る事なら協力したいんだ。 櫻さんは何も言わなくても気付いているような顔で寮の中までついて行こうとしていた誓司先輩の腕を掴んでいた。 そこでまた争うような声が聞こえたが、櫻さんが「気にしないでいいよ」とニコニコ笑っていた。 これ以上ここにいても、せっかく櫻さんが行かせてくれた事が無駄になるから櫻さんに頭を下げて歩き出した。 犬井さんの部屋番号は教えてもらっているからその通りに歩き出す。 かなり遅い時間だからか、寮の廊下にはもう誰も残っていなかった。 「…ここ、だよな」 紙に書いてもらった部屋番号と目の前の部屋番号を何度も確認してから部屋のチャイムを鳴らす。 そういえば同室者はいるんだよな、大丈夫だろうか…犬井さんの事しか考えていなかった。 出てきたのが犬井さんの同室者ならどうしよう、とゆっくりと開くドアをドキドキしながら見つめた。 すると、出てきたのは見た事がない綺麗な顔だった。 いや、見た事はある…メガネを外した犬井さんだ。 部屋ではラフな感じなのか、犬井さんは俺がよく見えないのか胸ぐらを掴んで引き寄せられた。 「あ…あー、君か」 「は、はい…」 「いいよ、入って」 胸ぐらを掴まれたまま、部屋の中まで引っ張られるから苦しかった。 すぐに手を離してくれて、ごほごほっと噎せながら部屋を見渡す。 俺と玲音の部屋と変わらない部屋の筈なのに、別の部屋のようだった。 それは壁一面にぎっしりと機械が置かれているからだろう。 机には怪しい薬品が入ったフラスコが並んでいて、大量に紙が積み重なっていた。 独特な薬品のニオイに鼻を押さえて、壁の機械を弄っている犬井さんを見る。 「犬井さん、メガネしてなくても見えるんですか?」 「いーや、見えない…でもメガネすると電気がビリビリくるから外してるだけ、手探りでも出来るから何の問題もない」 犬井さんは言った通り、慣れた手付きで機械を動かして俺にベッドで全裸になってと言われた。 なんで全裸?俺、何されるんだ?今更不安になっていく。 でも、いきなり俺を攻撃はしてこないと信じて服を脱いだ。 ここってリビング、だよな…リビングに診察用のようなベッドを置いているのか? このベッドで寝るには硬そうだよな、と指で押した。 俺と玲音が寝室として使ってる部屋で寝てるんだろうなと扉に目を向けた。 二つの部屋から赤と青のコードが飛び出ていて、もしかして二つの部屋にも機械を置いているのかと驚いた。 「犬井さん、同室者って」 「あー、俺の実験動物になりたくないって出て行ったっきり行方不明…って、下着もだって」 「あっ、はい」 下着は許してくれると思ったが犬井さんに怒られてしまった。 同室者がいないから同室者の部屋も自分の部屋にしたという事か。 全裸になって、ベッドに上がり横になるとギシッと音がした。 犬井さんは何かを持って俺の前にやってきた。 何をするのか、当事者なら聞く権利はあるよな。 メガネを掛けて「やっと見えたー」と喜んでいる犬井さんに聞いた。 「犬井さん、今から何するんですか?」 「あれ?言ってなかったっけ?」 「全く聞いてません」 「人間の体を調べるんだよ」 「人間の?」 「吸血鬼や魔法使いのサンプルはいくらでも取れるんだけど、人間はなかなかいなくてね…姫のサンプルなんてもっと無理だし、君が人間で助かったよ」 そう言う事だったんだ、それなら俺にしか出来ないのかもしれない…学兄さんはこういうのは嫌がりそうだ。 少し大きめのフラスコをベッドの横に置いて、怪しい呪文のように「痛くないよー」と言う犬井さんが怖かった。 この顔の痛くないよーって言葉ほど信じられないものはない。 緊張で体を強張らせていると、犬井さんは「リラックスしてくれないとデータ摂取しにくいなぁ」と頭を抱えていた。 そこで何かを思いついたようで、部屋に向かって走っていった。 今度は何だと、ビクビクしながら犬井さんの帰りを待っていた。 すると部屋中にピンク色の煙がもくもくと現れて驚いた。 火事かと上半身を起こすと、つい煙を吸ってしまい動悸が激しくなる。 なんだ?緊張や恐怖でドキドキしているんじゃない、これは身に覚えがあった。 契約をする時のあの感じに似ていて、恐る恐る下半身を見つめた。 興奮するところではないのに、上を向いて反応していた。 「どう?これね、姫に近いニオイがして魔物にはリラックス効果があるお香なんだって…人間にはどう感じるのか実験も兼ねて持ってきたよ」 「…っ、はぁ…ぁ」 「姫と同じ人間だから、反応の仕方が違うのか…これはいい結果が見れそうだ」 ニヤリとなにか企む笑みを見せた犬井さんはベッドの上に置いていたフラスコを手にしていた。 そして、内緒話をするように耳に口を付けて囁いた。 ダイレクトに吐息が掛かり、体が震えた。 触れていないのに、イきそうになっていた。 契約の時のニオイと似てるのか、自分の意思とは無関係に誘発されていた。 「人間の精液、摂取させてね」という言葉を最後に俺の意識がプツリと途切れた。

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