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第108話
「んっ、んんぁっ」
急に意識が引っ張られるように覚めて、まだボーッとする頭の中でなにが起きたか思い出す。
耳に届くのはぐちゅぐちゅと水の音だ、このニオイ…なんだっただろうか。
下半身に目線を向けて、今の状況の全てを思い出した。
そうだ俺、犬井さんの実験を手伝って…それでお香を嗅いで…
犬井さんが俺のを擦っていて、もう限界が近くてトロトロと亀頭から溢れていた。
一滴も溢さないようにフラスコに入れていて、微量の精液が溜まっていた。
意識を失う前、人間の精液がほしいって言ってたよな…だから俺のを搾り取ろうとしているのだろう。
明らかに興奮しているし、限界は近いのに刺激が弱くてイけない。
もっと強い快楽を求めてしまっていて、ずっと限界近くでぐるぐるしていて辛い。
「…い、ぬいさっ」
「あ、起きた?寝てると全然イかなくてどうしようか考えてたんだよ」
犬井さんは俺をチラッと見て、擦る手を止めずにそう言った。
寝てるからイかなかったというより、刺激が弱いからなんだけど…
でも犬井さんはわざと弱めているわけではなく、きっといろいろと研究して気持ちいい擦り方を編み出したのかもしれない。
だから気持ちはいい、ただ…俺にはその刺激ではイけない。
男として嫌だが、もしかしたら俺の性感帯はそこじゃなくなったのかもしれない。
犬井さんにそれを伝えるのは嫌で、いつまでも終わらない快楽が続いた。
頭が可笑しくなりそうだ、誰でもいい…俺の欲を解放してほしい。
これは姫の力でそう思っているのではなく、俺の欲望がそう求めている。
理性がないに近い姫の力ではないから、相手は興奮しないし抱かれたいとは思わない。
そもそも俺は誰でもいいから足を開くわけではない、俺にだって心がある。
俺が命を預けれる相手にしか、契約はしない…今日が初対面の犬井さんと契約する気はない。
犬井さんだってそんなつもりはない筈だ、研究材料で精液がほしいだけなんだから…
そう思っていたら、犬井さんが俺から離れて壁に掛かっている機械を弄り出した。
はぁはぁと息を切らせながら何をするのか見ていたら、犬井さんが振り返り両手に怪しい細長い棒を持っていた。
棒の間からバチバチと電流が流れてきて、一気に血の気が引いた。
「最終手段を取るしかない」
「…だ、大丈夫…なんですか?」
「大丈夫大丈夫、ちょっと2、3日性器がバカになって射精が止まらなくなると思うけど死にはしないから」
その言葉を聞いて、俺は「大丈夫」の意味が分からなくなった。
逃げ腰でベッドの上で後ずさるが、不気味な笑みを浮かべて犬井さんが歩いてくる。
もう俺の下半身は恐怖で萎えてしまっていて、快楽が吹き飛んだ。
バチバチと目の前で電流を流しながら寄ってきて、俺はベッドから転がり落ちた。
犬井さんが腕を伸ばして棒を近付けた時、棒と機械を繋ぐコードがピンと伸びた。
引っ張りすぎたのか、バチバチと棒から流れる電流ではなく機械から聞こえる嫌な音に犬井さんは機械の方を振り返った。
棒の先を見ると、機械に繋がっている筈のコードが切れていた。
「…あ」という犬井さんの声を最後に機械から煙が吹き出して爆発した。
俺と犬井さんは外に身を投げ出されて、とっさに俺に魔法を掛けてくれて地面に激突する事なく風のクッションでゆっくり下ろされた。
自分に魔法を掛けるのを忘れていた犬井さんは地面に直撃して潰れたカエルのような声を出していた。
「ふぎゃっ!!」
「犬井さん!大丈夫ですか!?」
「…ぅ、魔法使いは頑丈だから大丈…ぶ」
「犬井さん!」
「こんな夜更けに何を騒いでいる!」
犬井さんがピクリとも動かなくなったから慌てて抱き起こした。
俺の腕の中ですやすやと気持ち良さそうな寝息を立てていて、本当に何ともなさそうで良かった。
すると俺と犬井さんではない、別の誰かの声が聞こえて顔を上げる。
薄暗い夜の庭を外灯が明るく照らしていて、その人物の顔をはっきり映し出す。
綺麗な金髪が風に揺れて、普通にしていれば童話に出てくる王子様のようだが深く潜める眉が全てを台無しにしている。
これでは王子様ではなく、ガラの悪いヤンキーのようだ。
俺と犬井さんを見て舌打ちをして、犬井さんはふとパチリと目蓋を開けた。
「あっ、坊ちゃん久しぶり」
「坊ちゃん呼ぶな」
「いやぁ、委員長がいつも坊ちゃんって呼ぶからつい」
「そんな事より、そこにいる変態と外で何してた?」
変態って俺の事だろうか、そこで今の俺の姿を思い出して顔を赤くする。
そうだった、俺…今全裸だったんだ…犬井さんが起きたら見えてはいけないものが見えてしまうだろう。
とはいえ、犬井さんの背中にずっと当てているのもいたたまれない。
隠すものがないか周りを確認していても、部屋から飛び出したのは俺達だけで何も隠せるものがない。
とうとう犬井さんが起き上がってしまい、両腕を足の間に挟んで隠した。
俺、この人にただでさえ嫌われてるのに変態がプラスしたらどうなるんだろう。
まだ全裸な俺を紅野さんは腕を組んで威圧的な瞳で睨んでいた。
「あっ、そうだ…坊ちゃんも協力してよー」
「…えっ」
「だから坊ちゃんと呼ぶなと何度言ったら、ふがっ」
犬井さんは怖いもの知らずなのか、怒っている紅野さんの口をバシッと手で塞いだ。
今のちょっと痛かったのだろう、涙目になって犬井さんを睨んでいた。
犬井さんは紅野さんの顔を見ないで、何故か下半身に目線が行っていた。
なんか嫌な予感がするのは俺だけだろうか、協力も俺とは関係ないよな。
玲音に着替えを持ってきてもらいたいが、携帯道具はあの爆発で壊れてしまっただろうか。
今の時間なら寮の廊下を出歩いている人は少ないから、何とか走れば大丈夫だろう。
そう思って立ち上がると、一秒もせずに犬井さんに肩を掴まれた。
さっきまで紅野さんのところにいたのに、瞬間移動が速い。
「どこ行くの?」
「いや、着替えを取りに行こうかと」
「必要ないよ、まだ実験は終わってないんだから」
「……へ?」
「坊ちゃんと合体して精液ビュッビュしてよ!」
「………え?」
「はぁぁぁっ!?!?!?」
犬井さんはノリノリで歌うように言っているが、言われた俺達はそんな陽気になれない。
紅野さんと俺って…間違いなく俺が紅野さんに殺される展開しか思いつかない。
紅野さんも犬井さんの肩を強く揺さぶりながら「ふざけんじゃねぇ風紀の犬!」と、さっきよりも眉をピクピクさせて怒っている。
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