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第5話
英次の家に入ると家族はいなくて先に部屋に行ってくれと言われたから二階に上がる。
そして英次の部屋のドアを開けて思わずため息が溢れた。
倉庫と言われたら納得してしまいそうなほど英次の部屋は散らかっていた。
それも来る度毎日だからもう慣れてしまった。
どうやったらこんなになるんだといっそ清々しいな。
これは座る場所の確保も大変そうだ、いつも何処に座っているんだ?
これだからスマホを踏んづけるんだと呆れながら、部屋から出て英次がいる一階に声を掛けた。
これなら床だけではなく全部片付けた方がいいだろう。
「英次!片付けるけどいいか?」
「おう!」
下から英次の元気な明るい声が響いて聞こえた。
…もしかして英次、俺に片付けをさせるために家に呼んでないよな?
裏表がない英次にかぎってあり得ないだろうが、この現場を見れば誰もがそう思いたくなる。
俺が毎回掃除するから甘やかしてるように見えるが、なんかゴミが散乱していると気になるから手をつけてしまう。
それで英次も喜ぶならまぁいいかと思っていた。
いつかは自力で出来るように教える必要はあるかもな。
二階のトイレの横の収納スペースにあるゴミ袋を取り出し掃除を始めた。
掃除は嫌いじゃないが、毎回この量は疲れる。
ゴミを分別したり読みかけの本は紙を挟み机に置いたりして綺麗にした。
そしてゴミ箱が目に入り、プライベートを覗くのは英次に悪いと一瞬ためらったがおれがやらないと英次は掃除しないと思い直した。
「ついでだし、中も綺麗にするか」
黒いゴミ箱を持ち、中身を分別する…素手で触れないほど汚いものは入っていないみたいで良かった。
ゴミ箱の中身も定期的に捨てないと溢れて床に散らかるのは当たり前だ。
やたら紙が多いなと不思議に思っていたら、あるものが目に入った。
何となくそれを手に取りそのマークを見て目を見開いた。
その時、ドアが開きタイミングよく英次が現れた。
英次はジュースとお菓子が乗ったトレイを持ってきていた。
「おぉー、綺麗になった!瑞樹ありがとうな!是非俺の嫁に来い!なーんてな!」
「……あ、英次」
「………あ」
英次は俺の持つものを見て顔を青くして固まっていた。
勝手にゴミ箱にあるものを見て悪かったと思うけど、でもそれは…
英次はトレイを机に置き、俺のところまで無言で来たかと思ったら俺の手にあるものを強引に取った。
やはり嫌だったかといくら親友でもやってはダメだったと反省する。
でもなんでそれを英次が持っているのか聞きたかった。
…なんで、言ってくれなかったのか…そこまで相談するほど仲良くはないのか?
「…英次、それ」
「瑞樹には関係ないよ」
その声は今まで聞いた事がないほど冷たい声だった。
俺が見つけたのは見た事がある、クロス学院の校章だった。
そしてあの黒い封筒はとても見覚えがあるものだった。
何故英次のところにあるのだろうか…英次はクロス学院に行きたかったのか?
だって、入試を受けてないとそれは送られてこないだろ?
俺は英次が何故俺と同じ少し離れた学校に通ってるのか聞いた事がなかった。
ぐしゃぐしゃにした黒い封筒は俺が掃除に使ってたゴミ袋に押し込んだ。
英次のその無表情からどういう気持ちか分からなかった。
「さーて、瑞樹!ゲームしない?俺結構ハマってるのがあってな!」
「…英次、一つ聞いていいか?」
「ん~?なに?」
英次はさっきまでの暗い感じではなくいつもの明るさに戻ってゲーム機を弄っていた。
…なんだろう、これ…聞いていい話なのか分からない。
ただなんでこの高校を選んだか聞くだけだろ?クロス学院の話ではない、それくらいなら聞いてもいいと思う。
…なのに、なんでこんな胸が苦しくなり不安になるんだ?
英次が俺の前から居なくなる、そんな不安があった。
俺の、初めてでたった一人の友達だからだろうか。
「英次はなんで今の学校を選んだんだ?」
「そーだなー、やっぱ高校生になったら悪い奴もいるから瑞樹を守るためだな!」
「…俺はもう守らなくても平気だよ」
「で、でも!瑞樹と一緒にいたいし!…それじゃあ、ダメか?」
英次は寂しそうに俺を見たから俺は首を横に振った。
ダメじゃない…むしろこんな俺でも一緒にいたいと思ってくれるなら嬉しい。
…でも、英次がもし俺のせいで行きたい高校に行けなかったら…
英次は正義感が強いし、また俺がイジメられたらって考えてしまったのだろう。
もう俺は子供じゃないし、二度とイジメられないように家で出来る簡単な筋トレもしている。
英次は安心して自分の好きな事をすればいい、英次が嫌というわけじゃない…ただ英次にはずっと笑ってほしいだけだ。
「ごめん、英次…本当にごめん」
「えっ!?どうした瑞樹…泣いてる!?」
英次はどうしようかと戸惑っていたが俺は手を額に当てて静かに泣き続けた。
もう、遅いかもしれないけど…俺のせいで、ごめんな。
俺は英次にいろいろ与えてもらっているのに俺は何も返せてない。
いつか…いつか…なにか英次に恩返しがしたい。
もう入学して経つし、今さらクロス学院に行きますなんて無理だよな。
叶うなら、過去をやり直したい…進路の時…自分の好きな高校生に行けと英次に言ってれば良かった。
…それでも英次は俺の高校を選んだ、そんな気がする。
「近所なんだから大丈夫だって!」
「いいだろ?俺がそうしたいんだから」
そう言われたらもう何も言えなくなるだろ。
散々泣いた俺はゲームとかする気分になれず、帰る事にした。
目が晴れて今の顔は不細工かもと笑うと英次は顔を赤くして首を横に振った。
英次のその反応はよく分からない、困らせてしまったか?
英次も心配だからと着いてきて一緒に歩く。
道はオレンジ色に染まりまるで今の俺の目元みたいだなと苦笑いする。
「あー、明日テストだー…俺絶対母ちゃんにしばかれるレベルの点数しか取れねー」
「分かってるなら徹夜漬けで勉強するんだな」
「うげー、もうしばかれる覚悟は出来てる」
英次、勉強する気がなくなったな、真面目にやれば頭はいいのにいつもいろんな事に気を取られすぎて点数を落とす。
俺は平均レベルの学力だから教えられるほどの余裕がない。
こんな時飛鳥くんがいれば良いのになー…三人の中でダントツで頭がいいから教え方も上手い。
あ、そうだ…今度飛鳥くんに荷物を送るつもりだから英次もなにかあるだろうか聞いてみよう。
仲が悪くても英次は飛鳥くんの友達だからな。
隣を歩く英次に声を掛けただけで英次は両手で耳を塞いだ。
「…英次、あのさ…」
「もう勉強の話は勘弁!」
苦い顔をした英次が眩しく夕陽に染まった。
そして、英次の横を素早くなにかが横切った。
よく見えなかった、なんだ?鳥か動物?…そう思う暇もなく…
俺の目の前が真っ赤に染まり、びちゃとなにかが飛び散った。
一瞬息をするのを忘れてその光景をボーッと見ていた。
耳障りな笑い声が耳に聞こえて我に返り一歩踏み出した。
「ウヒャ、アヒャヒャヒャ!!」
英次はそのまま倒れそうになったから抱きしめて支える。
背中に触れる手がぬるっとした感触があり、背中を切られたんだと理解した。
通り魔だとすぐに警察と救急車を呼ぼうとスマホがあるカバンを開けようとしたら、目の前に影が重なった。
…英次を襲った犯人はまだ俺達の前に立っていた。
さっきは早くて見えなかったが、赤い瞳に小汚い敗れたシャツとズボン。
爪が異常に長く赤い雫がポタポタと落ちる。
俺は今まで感じた事がない恐怖で動けなかった。
…指先一つでも動かしたら…切り刻まれて殺される。
「ウヒャアヒャ」
「…っ!!」
手を上げたから英次を守ろうと抱えて目を閉じた。
早く救急車を呼ばないと英次は助からなくなる。
友達を失う恐怖に体がガクガクと震えて焦る。
時間はいつもより遅く長く感じる、ドキドキと心臓がうるさい。
いくら待っても俺は痛みもなく、英次に触れてる感触がするから死んではいない筈だ。
頬に冷たい感触がして、まだいるんだと怯えていると声が聞こえた。
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