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桐生×皐月一 ※寝て醒め 皐月視点

※皐月と桐生の過去なのでご注意を……。  八年付き合っていた男と別れた。  結婚式にも出席し、花嫁の膨らんだお腹も屈託のない笑みを浮かばせながら確認した。あまつさえ、おめでとうと口にも出せた素晴らしい出来栄えに感謝したい。  ウェディングケーキが置かれた撫子色の小さなテーブルに視線を浮かせ、正装した招待客たちとともに拍手もして無事にやり過ごした今日も褒めたい。  連絡先も消して、引っ越しも終わり、新しい未来へ……と思ったが、二十五を過ぎた男へすぐに春はこない。なにごとも結果が全てというが、いつもどおり最悪である。最善を尽くしながらも、つねに道に逸れる。家族もいない、恋人もいない、結局自分一人が残った。 「まぁ、飛びっきり格好いい男紹介してやるから元気だしなって! ボストン帰りの外科医紹介してやるから!」  薄暗いバーで同業の小説家である弘前満(ひろさき みつる)は自分こと、倉本皐月(くらもと さつき)の肩を叩いて慰める。そんなに落ち込んでいない。いや、落ち込んでいるのか、ともかく二人で赤ワインのボトル一本は多すぎたかもしれない。  薄暗い照明の下、賑やかな話し声に交じって溜息とともに薄笑いをこぼした。 「期待しないでおくよ。付き合わせて悪かったな」 「全然! また話聞くから、あんまり気を落とすなよ」 「うん、ありがとう」  ぽつりと朴訥に礼を弘前の背中に投げると、軽く手を振って弘前は申し訳なさそうに帰ってしまう。  一人残された自分は水を飲んで、潤いきれない砂のような渇きを癒す。水滴で濡れたグラスが指に絡みついてくるように見えて笑いそうになった。  いつまでこんな気持ちでいればいいんだろう。  八年か。長い。ながいけど、なにもない。  どうせ、子供も残せないガラクタ。  しんどかった。  疲れを帯びてぼんやりとした目つきで向いのカウンターに視線を傾けると、栗色の髪をした長身の男に目がいく。切れ長の瞳は不機嫌そうに細められ、白ワインを傾けていた。  愛想もなく、憮然とした表情。次に付き合うならあんなタイプがいいなと、なんとなしに思った。  捨てられるのなら、あんな男がいい。  世渡りが巧妙で、要領がよく口が上手い。気づかれないように巧みに隠して浮気が絶えない、最終的に子供まで作って関係を続けようとした奴より断然よい。  男が好きなのに、極端に見る目のない自分に拍手を送りたいほど呆れてしまう。  だめだな、本当にだめだ。  穴があくほど見つめていたのか、カウンター越しに男と視線がかち合う。向こうが口元に笑みを浮かばせると、首の付け根から真っ赤になってしまう。  男が近づいてきて隣のスケールに腰掛けて、物憂げな表情で問いかけた。バーテンダーが氷をかき混ぜているのか、カラカラとした音が酔っている耳に響いて聞こえる。 「一人?」 「そう、ですけど……」 「さっき振られたんですけど、相手してくれませんか?」  鋭く冷淡な眼差しが注がれ、耳元に顔を寄せたのか熱い吐息がかかる。  あいつと違う。  一晩だけの話相手には丁度良いかもしれない。  俺は骨張った氷のように冷たい手に触れた。

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