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たぬきの凡太 その一※ヤンデレ×平凡
たぬきが里にでて、学校に通う。
前代未聞のことに村全体が驚いた。やめろ、ふざけるな、馬鹿なことを抜かすな、など老若男女問わず声が上がった。だが、度重なる野犬の出没、少子高齢化社会、減っていく作物。
時代は智を欲するようになった。
とにかく、村山凡太 は頑として揺るがない村長の意思で、東北にある山里近い高校に通学することになってしまう。
「む、村山凡太です。よ、よろしくお願いします」
上擦った声と、すこし褐色肌な凡太は恥ずかしそうに俯く。人間を見るのは初めてだった。目立たないように容姿は月並み程度で、あり触れた青少年にみえるはずだ。
「じゃあ、伊集院 司 くんの隣に座ってね」
担任教師がぽん太に優しい声をかけ、窓近くの空席を手で指示す。顔を上げてみると、ぽつんと空いた席が晴れた青空をまえに浮かんでみえた。
こわいこわいこわい。
魂が抜けそうに怖い。ここで大きな物音がでたら、気絶してしまう。
「ぽん太くん、よろしく」
ふと横に視線を向けると、銀縁のフレームをかけた青年がぽん太に優しく微笑みかけていた。
「よ、よろしく……」
人間だ。なんだか、優しそう。
ぽん太はほっと胸を撫で下ろし、初めて座る椅子に腰掛ける。
擬態もバレてない。よかった……。
発情期を前にしたぽん太は隣で銀縁のフレームがきらりと光ったのに気づかなかった。
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