6 / 8

たぬきの凡太 その一※ヤンデレ×平凡

 たぬきが里にでて、学校に通う。  前代未聞のことに村全体が驚いた。やめろ、ふざけるな、馬鹿なことを抜かすな、など老若男女問わず声が上がった。だが、度重なる野犬の出没、少子高齢化社会、減っていく作物。  時代は智を欲するようになった。  とにかく、村山凡太(むらやま ぽんた)は頑として揺るがない村長の意思で、東北にある山里近い高校に通学することになってしまう。 「む、村山凡太です。よ、よろしくお願いします」  上擦った声と、すこし褐色肌な凡太は恥ずかしそうに俯く。人間を見るのは初めてだった。目立たないように容姿は月並み程度で、あり触れた青少年にみえるはずだ。 「じゃあ、伊集院 司(いじゅいん つかさ)くんの隣に座ってね」  担任教師がぽん太に優しい声をかけ、窓近くの空席を手で指示す。顔を上げてみると、ぽつんと空いた席が晴れた青空をまえに浮かんでみえた。  こわいこわいこわい。  魂が抜けそうに怖い。ここで大きな物音がでたら、気絶してしまう。 「ぽん太くん、よろしく」  ふと横に視線を向けると、銀縁のフレームをかけた青年がぽん太に優しく微笑みかけていた。 「よ、よろしく……」  人間だ。なんだか、優しそう。  ぽん太はほっと胸を撫で下ろし、初めて座る椅子に腰掛ける。  擬態もバレてない。よかった……。  発情期を前にしたぽん太は隣で銀縁のフレームがきらりと光ったのに気づかなかった。

ともだちにシェアしよう!