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◇新入社員研修*圭

 入社式の翌日。  配られた書類を見ながら、指定された席に近付いた。  オレが、今から座ろうとしている席の隣に居たのは。  居るかな、会えるかな、話せるかな、と、昨日からずっとワクワクしていたその人、だった。 「あ」  オレは思わず声を出してしまい、そのまま固まる。  何と言っても、一目惚れの相手。  一目惚れ自体、人生初めて。 しかも、男相手。   常識とか全部すっ飛ばして、強烈に、ときめかされてしまった相手な訳で。  ……ああ、なんか、今日のスーツ姿もすっごいカッコイイなあ、なんて。  とても一昨日までの自分には信じられないであろう事を、  しみじみ思ってしまっていると。 「あ――――……織田?」  高瀬が、オレを見て、そう言ってくれた。    あ、覚えててくれた。なんか嬉しい。  心の中で小躍りしながら。 「うん。席、また隣だね。織田 圭だよ、よろしく」 「オレは、高瀬 拓哉」 「うん、覚えてるよ」  オレがそう言うと、高瀬が口角を上げて、ふ、と笑う。   その様が、感心する位カッコよく見えて、オレは一瞬言葉を失う。  カチコチ固まりながら、高瀬の隣に座った。  その後始まった説明で、1ヶ月の集合研修は、今のこの席の周囲5~6人でチームを作って作業していくという事を知って。  プログラミング初心者のオレにとって、かなり憂鬱だった研修も、一瞬で、超ご機嫌な期間に変わった。  だって。  ……すっげー、オレ、ラッキーじゃねえ?  1カ月の研修期間、高瀬とずっと一緒、なんて。  まあ、さ……。  男に一目ぼれなんて、誰にも言えないけどさ。  でも、してしまったものはどうしようもないし。  男を好きだと思ってしまった事を、暗く悩んでても仕方ないし。  昨日も考えて思ったけど、やっぱり、付き合いたいなんては思わないから、悩む必要もない。  物凄く好み過ぎる、超カッコイイ奴の近くで、楽しく、密かな片想い生活を、しばらく送ったって良い、と思う。  だって、ほんとに、見惚れる位、超カッコイイし。  こんな風にドキドキすんのって、きっとすっげえ体にいいぞ。うん。  肌とかピチピチになっちゃったりして?  なんて、自分で考えた事に密かに ぷぷ、と笑いながら。  オレのご機嫌の研修生活が、始まった。

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