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◇研修幸せ*圭

 新入社員研修、3日目。 「ううぅぅー!?」 「……織田、うるさい」  笑う高瀬に、オレは頭を軽く小突かれた。 「……うう。 だって……訳わかんないし」  ……ていうか、頭コツンて、ときめいちゃうから、やめて。 「まあ……全くの初心者にはキツイかもな」  色んな意味で悩んでいるオレの隣で、高瀬は頬杖をつきながら、オレのパソコンを覗き込んでくる。 「……高瀬は専門で勉強してきたんだもんね……これも余裕?」 「んーまあ……つか、お前は何でプログラマー?」 「……うーん。 カッコイイから?」 「――――……」  高瀬の呆れたような苦笑いに、オレは笑いながら続けた。 「嘘。……まあ将来も仕事は無くなんないだろうし、パソコン嫌いじゃないし、手に職ってなるかなあって。しかもここ、給料良かったし」 「プログラマーの給料はピン切りだけどな。この会社は結構良い方だとは思うけど」 「うん。良い方だと思って受けたんだけどさ。 なぜか受かっちゃって。でも、こんな仕事、出来るか不安になってきちゃった」  はあ、とため息付きながら、教材を眺めていると。  高瀬が、ふ、と笑った。 「出来るだろ――――……実地でやったら自然と覚えるって。こんな風に教材見ながらだと却って難しいし」 「そーかなぁ……」 「いつでも教えてやるから。頑張れよ」 「――――……まじで? 高瀬、ほんと良い奴……」  すっごく嬉しくなって、めちゃくちゃ笑顔でそう伝えると。  高瀬は一瞬黙った後。 「……何か、お前って――――……」 「え?」  ぷ、と笑った高瀬は、それきり黙って、続きを口にしない。 「オレって? 何?」 「いや――――……何か面白ぇ、よな」 「……? 面白い??」 「まあ、面白い、とは違うかもしんねえけど……そんな感じ」 「?? 何で?」  オレ、今面白い事、言ったっけ?  首を傾げているオレに、高瀬はふ、と笑った。 「……ま、気にすんなって」  そのままクスクス笑う、超良い男は。  その後、オレが突っ伏して投げ出しかけたプログラムの説明を、とっても分かりやすく話してくれて。  説明を聞きながら、頭の片隅で、ぼんやりオレは思った。  うーん……。  カッコイイし、頭良いし、これなら絶対仕事も出来るし、多々居る経験者の中でも新入社員代表になった位な訳だし。  しかも、他のチームでは経験者がちょっと偉そうにしちゃってたりしてるとこもあるらしいのに、全然そんな事なくて、超優しいし。  ……うう。  なんか、ほんとに、ハマってしまいそう。  ちょっと困るなあ、なんて思いながらも。  隣の超イイ男の説明を聞きながら。  ま。イイや。  高瀬のおかげで、地獄のような研修も、毎日幸せでしょうがないし。  なんて思って。 思わずふふ、と、笑んでしまった。

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