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◇心の叫び*圭

 うん。  ヤバい。  これは、絶対ヤバいやつだな……。  ◇ ◇ ◇ ◇  先週の月曜が入社式、火曜から研修、金曜に花見に行った。  土日遊んで、また今週から、研修。月曜から金曜まで、ずっと高瀬と隣同士。  途中から、やばくねーかな、オレ。  とは、ずっと思ってた。  高瀬が優しすぎて。  頭良すぎて。仕事出来すぎて。  で、オレ、出来なさ過ぎて。  なるべく頑張りはしたけど、どうしても分からないと聞きまくって。  迷惑ばっかりかけてるとしか思えないのに、  高瀬は、そういう時こそ、ほんとに優しくて。  ……どうしよう。  好き過ぎるかも。  オレ、一緒でラッキーとか言ってる場合なのかな。  ラッキーどころか、こんなにこんなに好きになってしまうとか、  叶うはずないんだし、こんなの、むしろアンラッキーだったんじゃないか。  こんなに想いが募ってしまったら、  「今だけときめき片思い期間」とか。  言ってられなくなるんじゃないのかな……?  何でこんなに優しいんだ。  何でこんなに良い奴なんだろう。  ……ていうか、オレだよオレ!  男が、カッコよくて、優しくて、良い奴で、頭良くて仕事が出来て。  ……だからって、何でそういう意味で惚れるんだよー!  友達で良いじゃん!!  しっかりしろよー。オレ―。  高瀬は絶対そんな意味でオレを見てくれないんだから、  オレのこれがばれたら、終わりなんだからー!  しっかりしろ、マジで。  人生で今が一番、失敗できない時だと思おう。  男にさっきの条件が全部くっついてたって、  そんなの、  いーなー、モテそうで、とか。  良い奴と同期で良かった、とか。  そう言ってりゃいいじゃん、オレ!  何で、「好き」とか思って、ドキドキしちゃう訳。  どーして?  見つめられると、ほんとに、心臓がやばい。  分かってる、  高瀬には何の意味もなくて、オレを見て会話してるだけ、なのに、 「見つめられる」と思っちゃって、もう心臓がバクバクしちゃって。  どぎまぎしちゃうし。  ……何で?  どうして、オレ、  高瀬と友達で居られないのかな。  友達でいたい。  良い同期でいたい。  万一、知られたら、会社の中でも、同期の中でも、終わりだ……。  絶対嫌悪されて――――……。  ていうか、会社なんて最悪やめればいいけど、  高瀬に嫌われるのは、嫌だ。  やばすぎると思って、とりあえず、合コン話をしてる同期に、オレも行きたいと頼んだりもした。彼女が出来てしまえば、そっちに目を向けられるかもしれないと思って。  ――――……でも正直、彼女に興味を持てるのかが、不安すぎるし。 「織田……?」 「――――……?」 「……寝てた?」  少し遅い、16時過ぎの休憩時間。  コーヒーを目の前のテーブルに置いて、ぼーーーっと考えていたオレは、違うテーブルで、他の同期と話してたはずの高瀬が目の前に居て、思わず引いた。 「……あ、すげー、ぼーっと、してた………」  オレがそう言うと、高瀬は、くす、と目を細めて笑って、見下ろしてくる。 「今日この後、飲みに行こうだって。織田行くか?」 「――――……あー、どうしよう、かな……」 「ん? 疲れてンの?」 「……うん。そう、かな」 「? 元気ないな。大丈夫か?」  オレの向かい側の椅子を引いて、高瀬がそこに座った。 「元気だよ、大丈夫」 「――――……疲れてんなら、今日はやめとけば?」 「……高瀬は、行くの?」  あ。また聞いちゃった。  この、高瀬次第みたいな回答の仕方も……そろそろ本気でやめた方がいいよな。きっと、バレる……。  そんな風に少し落ち込んでいると。 「オレも、織田が行かないなら、いいや。帰る」 「――――……」  え。  オレは思わずきょとん、として、高瀬を見つめた。 「……オレ、行かないと、高瀬も行かないの?」 「ん?――――……あー……変か? まあでも、そう、だな。そんな気分」  くす、と笑って、高瀬がそんな風に言う。 「オレが行くなら、高瀬も行くの?」  そう言うと。  高瀬は、片手で口元を一瞬隠して。  んー……と言った後。 「織田が行くなら行こうかな」 「――――……っ」  ……もう。  何それ。  高瀬、オレの事、結構気に入ってくれてるのかな。  もう、  ……なんかすごい、嬉しすぎるんだけど。  ぱああ、と、目の前が明るくなっていくような気分。  まあオレの好き、みたいな意味はないんだろうけど。  完全に友達なんだろうけど。  高瀬がオレと居たいって思ってくれてるなら……。  ――――……せいいっぱい、仲良く。同期として。友達として。  密かに恋、してしまいながらではあるけど……。  ――――……しばらくは、このまま。いっても、いいかなあ……?  集合研修が終わって、離れたら――――……。  少しは、気持ちも、変わるだろうし。  この研修の間位。恋心を隠したまま、  友情、深めても、いいかなあ……。  少し切ないけど。  日々大好きな人と、居られる事を、幸せだと、思おう。 「じゃあ、行く」  オレが言うと、高瀬がふ、と笑った。 「OK、参加で伝えてくる」  そう言うと、立ち上がって、オレの前から離れて行った。 「――――……」  勤務先が離れて、少しずつ薄れていくまで。  絶対ばらさず。    この期間だけでもめいっぱい、高瀬と仲良くできれば、本望。  そう、決めよう。  絶対、そう、思って、この研修、楽しく仲良く、乗り切ろう。  入社式の後にもそんな風に思っていたけれど、  なんかあの時よりももっともっと、高瀬の事が好き過ぎて、  軽く今だけーとか、簡単に言えなくなってはきているのだけれど。  でも、この研修が終わって、離れれば、少しずつ薄れては行くはず。  ――――……この、期間だけ。  めいっぱい仲良くして。  楽しもう。  改めて、そんな風に思いながら、  オレは、残っていたコーヒーを飲み干した。

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