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「ほら、水飲んで、織田」 「ん、ありがと」  こくこく水を飲んでる織田に、ふ、と息をつきつつ。  織田の目の前に結構空いたグラスがあって、まあ全部が織田じゃないにしろ、どんだけ飲んだんだろと、赤い顔を眺めていると。    その時、1人の女子が、ねえねえ、と声を上げた。  結婚願望ってある人ー?という問いかけに、酔っぱらった皆が、なぜだか異様に盛り上がった。  考えてない、すぐにでもしたい、いつかはしたい、したくない、  挙手で分かれた後、皆それぞれに好きな事を言って、騒がしく、収集がつかなくなっていく。 「――――……織田は結婚願望、あるんだな」  周りは騒がしくなって、なんだか急に織田と2人、隣同士で取り残されて。  オレは、水に入ってた氷を口に入れてる織田に、そう聞いた。  さっき、「いつかはしたい」に、織田がはーいと手をあげてるのを見たから。 「ん? あー……うん。 あるよー?」  酔ってる感じ。なんか声が間延びしてるというのか。  ……なんか少し、甘えてるっぽいというのか。 「うちの両親さ、超仲良くて。オレ、5人兄妹の真ん中なんだけど……。兄ちゃんと姉ちゃんと、弟と妹が居るんだけど」 「……なかなか居ないな、5人って」 「だよね。あ、でもたまーに居るんだよ、5人兄弟も」  5人の真ん中。なんかすげーな。  ……でも何となく、だからこんな感じなのかと、分かる気がする。  仲の良い両親と、上から可愛がられて、下を可愛がって生きてきたら、こういう風になるのかな、と。  納得していると、織田がふ、と微笑む。 「なんとなくあんな感じの家庭を作って、5人は無理でも、3人位は子供欲しいなーって思って……だから、結婚はいつかしたいなあて思ってた」 「……そうなんだな」  可愛い奥さんと、可愛い子供に囲まれて、楽しそうに笑ってる姿が、なんとなく、見える気がする。  ああ、すごく、似合うな。  想像して、オレは少し微笑んだ。  ――――……何となく、心に引っかかる部分があるのは、ひたすら無視する。 「……高瀬は?」 「ん?」 「結婚願望。 ……さっき手、あげてなかったでしょ?」 「――――……」  何ならぽけっとして見えるのに、ちゃんと周り見えてて、よく気づく。  ――――……だからこそ、皆が織田を可愛がるんだろうけど。  でも特に今は、こんなぽわぽわ酔ってんのに、よく見てたな……。 「……高瀬は、あんまりないの?」  オレの返事が一瞬遅れると、織田がそう聞いてきた。 「……全く無い」  言ってしまってから、自分でも少し嫌な言い方だったなと思って、少し黙る。 織田は、きょとん、として。首をかしげた。 「……高瀬?」 「……お前の両親とはだいぶ違う感じ。結婚に憧れはないかな……」 「……話聞く? 聞かない方がいい?」  じ、と見つめられて。 「別に……もう、昔のことだから」 「――――……じゃ、聞こうか? 高瀬のこと、知りたいし」  そんな風に、言う織田に。  周りがうるさすぎて、誰も聞いてないのを良い事に、オレは、話す事に決めた。  それこそ、この話を誰かにするのは、人生初。  どうして急に話す気になったのか、自分でも少し、不思議に思いながら、ゆっくり、口を開く。 「親父もお袋も――――……オレが高校生の頃、どっちもが浮気しててさ」 「――――……あー……うん……そっか」  じ、と織田が目を逸らさずに、オレを見つめてくる。  あまりにまっすぐな視線に、むしろオレの方が目線を外してしまい、盛り上がってる周囲を見ながら、言葉を続けた。 「――――……でも、結局2人とも相手とは別れて、元に戻って。そこからは表面上は仲いいけど…… 多分、気づいてたのはオレだけで……戻られても、なんか嘘くさいって、ずっと思ってるんだよ、な……」 「……そうなんだ……」 「……あんなの見てるから、夫婦てなんだって思うし。だから、家族って形に、こだわりはない。結婚はしなくてもいいと思う。結婚しなければ、愛情がなくなったら、離れれば良いし。縛り付けられることも、ないし」 「……ふーん……そっか……」  織田は、珍しく、すぐには何も言わず。   そんなふうに相槌を打ったまま、瞬きを繰り返している。  ――――……言わなきゃよかったか?  結婚願望ありまくりの織田には、嫌な話、だったかな。  思った瞬間。 「……でもさあ」  声の調子が変わったので、織田の顔を改めて見ると。  アルコールでほんのり赤くなってて。  ちょっと眠そうに、目が潤んでて。  そんな顔で、オレをじっ、と見つめてきた。 「……お前、ねむい?いーよ、寝ても」  くす、と笑って、なんとなく、その頭を撫でてしまう。  すると、その手を、織田に掴まれた。 「……眠くはないよ、ちゃんと聞いてるし。考えてるし。  ……ちょっとふらふらするから、酔ってるかもだけど……」  最後、苦笑いを浮かべてそう言った後。 「……高瀬、オレね、思うんだけどさ」  掴まれた手は、そのまま、ぎゅ、と握られた。  まっすぐな瞳から、なんだか、今度は目が離せない。

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