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◇
「ほら、水飲んで、織田」
「ん、ありがと」
こくこく水を飲んでる織田に、ふ、と息をつきつつ。
織田の目の前に結構空いたグラスがあって、まあ全部が織田じゃないにしろ、どんだけ飲んだんだろと、赤い顔を眺めていると。
その時、1人の女子が、ねえねえ、と声を上げた。
結婚願望ってある人ー?という問いかけに、酔っぱらった皆が、なぜだか異様に盛り上がった。
考えてない、すぐにでもしたい、いつかはしたい、したくない、
挙手で分かれた後、皆それぞれに好きな事を言って、騒がしく、収集がつかなくなっていく。
「――――……織田は結婚願望、あるんだな」
周りは騒がしくなって、なんだか急に織田と2人、隣同士で取り残されて。
オレは、水に入ってた氷を口に入れてる織田に、そう聞いた。
さっき、「いつかはしたい」に、織田がはーいと手をあげてるのを見たから。
「ん? あー……うん。 あるよー?」
酔ってる感じ。なんか声が間延びしてるというのか。
……なんか少し、甘えてるっぽいというのか。
「うちの両親さ、超仲良くて。オレ、5人兄妹の真ん中なんだけど……。兄ちゃんと姉ちゃんと、弟と妹が居るんだけど」
「……なかなか居ないな、5人って」
「だよね。あ、でもたまーに居るんだよ、5人兄弟も」
5人の真ん中。なんかすげーな。
……でも何となく、だからこんな感じなのかと、分かる気がする。
仲の良い両親と、上から可愛がられて、下を可愛がって生きてきたら、こういう風になるのかな、と。
納得していると、織田がふ、と微笑む。
「なんとなくあんな感じの家庭を作って、5人は無理でも、3人位は子供欲しいなーって思って……だから、結婚はいつかしたいなあて思ってた」
「……そうなんだな」
可愛い奥さんと、可愛い子供に囲まれて、楽しそうに笑ってる姿が、なんとなく、見える気がする。
ああ、すごく、似合うな。
想像して、オレは少し微笑んだ。
――――……何となく、心に引っかかる部分があるのは、ひたすら無視する。
「……高瀬は?」
「ん?」
「結婚願望。 ……さっき手、あげてなかったでしょ?」
「――――……」
何ならぽけっとして見えるのに、ちゃんと周り見えてて、よく気づく。
――――……だからこそ、皆が織田を可愛がるんだろうけど。
でも特に今は、こんなぽわぽわ酔ってんのに、よく見てたな……。
「……高瀬は、あんまりないの?」
オレの返事が一瞬遅れると、織田がそう聞いてきた。
「……全く無い」
言ってしまってから、自分でも少し嫌な言い方だったなと思って、少し黙る。 織田は、きょとん、として。首をかしげた。
「……高瀬?」
「……お前の両親とはだいぶ違う感じ。結婚に憧れはないかな……」
「……話聞く? 聞かない方がいい?」
じ、と見つめられて。
「別に……もう、昔のことだから」
「――――……じゃ、聞こうか? 高瀬のこと、知りたいし」
そんな風に、言う織田に。
周りがうるさすぎて、誰も聞いてないのを良い事に、オレは、話す事に決めた。
それこそ、この話を誰かにするのは、人生初。
どうして急に話す気になったのか、自分でも少し、不思議に思いながら、ゆっくり、口を開く。
「親父もお袋も――――……オレが高校生の頃、どっちもが浮気しててさ」
「――――……あー……うん……そっか」
じ、と織田が目を逸らさずに、オレを見つめてくる。
あまりにまっすぐな視線に、むしろオレの方が目線を外してしまい、盛り上がってる周囲を見ながら、言葉を続けた。
「――――……でも、結局2人とも相手とは別れて、元に戻って。そこからは表面上は仲いいけど…… 多分、気づいてたのはオレだけで……戻られても、なんか嘘くさいって、ずっと思ってるんだよ、な……」
「……そうなんだ……」
「……あんなの見てるから、夫婦てなんだって思うし。だから、家族って形に、こだわりはない。結婚はしなくてもいいと思う。結婚しなければ、愛情がなくなったら、離れれば良いし。縛り付けられることも、ないし」
「……ふーん……そっか……」
織田は、珍しく、すぐには何も言わず。
そんなふうに相槌を打ったまま、瞬きを繰り返している。
――――……言わなきゃよかったか?
結婚願望ありまくりの織田には、嫌な話、だったかな。
思った瞬間。
「……でもさあ」
声の調子が変わったので、織田の顔を改めて見ると。
アルコールでほんのり赤くなってて。
ちょっと眠そうに、目が潤んでて。
そんな顔で、オレをじっ、と見つめてきた。
「……お前、ねむい?いーよ、寝ても」
くす、と笑って、なんとなく、その頭を撫でてしまう。
すると、その手を、織田に掴まれた。
「……眠くはないよ、ちゃんと聞いてるし。考えてるし。
……ちょっとふらふらするから、酔ってるかもだけど……」
最後、苦笑いを浮かべてそう言った後。
「……高瀬、オレね、思うんだけどさ」
掴まれた手は、そのまま、ぎゅ、と握られた。
まっすぐな瞳から、なんだか、今度は目が離せない。
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