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 男同士で手、握って、至近距離で、何してんだと思うけれど。   視線を逸らせず。  周りは酔っ払いばかりで、誰も見ていない。  織田も絶対酔っぱらってるだろうし、まあ、いいか、と思って、そのまま続きの言葉を待っていると。 「――――……高瀬が我慢してたから、家族は保てたって事だろ? 表面上はって言ってたけど……どっちも別の人とは別れて、家族でいる事選んだんだから、親の事はそれでいいんじゃない?……ってそんな簡単じゃないかも、知れないけどさ……」 「――――……」 「やっぱり、結婚を続けるかどうかは、親同士の人生だしさ。家族を選んで、今も続いてるなら、もうそこは……それでいいんじゃないかな……。  ――――……ていうか、そっちじゃなくてさー……」  織田は、ふ、と笑って。  掴んでたオレの手を、さらにぎゅ、と握った。 「……よく我慢したよな、親、責めずにさ。絶対、嬉しい事ではないじゃん、そんなの。高瀬が我慢したから、お父さんとお母さんにも、戻るっていう選択肢があったんだろうしさ」 「――――……」  そんな風に言われて。  目の前の、まっすぐな瞳を、ただ、見つめ返す。 「我慢……?」 「――――……気づいたのが高瀬だけって言ってたから…… 誰にも言わずに我慢してたって事でしょ? 責めなかったんでしょ?」 「――――……」  ――――……そんな風に、思った事は、なかった。  どっちの親にも心底諦めて、もう、何も言わなかった、だけ。  そう思ってた。  ……我慢――――……してたのか。  戻ってほしくて、黙ってたのか……?  そう言われたら――――……。  そうなんだろう、か。  色々どうでもよくなって、モデルも受けたし、金も入ったから、遊んだ。  色んな女と付き合ったのも、その頃。あまり家に帰らず遊んでいた。 「――――……高瀬は、昔から強いんだな。優しいし」 「……別に、オレは……何もしてない」  ……別にオレは、強かったわけでもない。  ただ腹を立てて。……何もできずに、ただ、遊びまわってた。  遊びまわっていたけれど、楽しかった訳ではなくて。  満たされないものがあるのは分かっていたけれど、それが家族の何かだなんて、思うのも嫌で。色んな感情を無視し続けた。  ……逃げてただけ、だったのかもしれない。 「何もしてないなんて、きっと、そんな事ないと思うよ」 「――――……」 「……辛い事もあったから、高瀬って、今すっごく優しいんだろーな……」  にこ、と微笑まれて。  返す言葉を、失う。  ……ほんとに、なんだろ、こいつ。  何なら、人生で初めて人に話せた、自分の中でも暗かった部分。    それに対して返してくる言葉が、そんなんで。  相も変わらず、きらきらした目で見つめてくる。  オレは……そんなんじゃない、のに。  ――――……そんな良いもんでは、ないのに。  あの頃のオレは、ただ荒れてただけ。  ……その後だって、割り切れずに、ずっと来て。  ――――……結婚なんかしたくない、と、思い続けてきただけ。  そんな、優しさとか、強さとか……。  絶対、そんなんじゃなかった。  けれど。  ――――……そう言って、笑ってくれる織田の言葉に。  なんだか、すごく、楽になった、というのか。 「――――……織田……」  なんと返すべきか分からないでいると、握っていた手を離された。 「でも当時は子供だしさ……相当嫌だったろうなー……と思うから……うーん……」  首を傾げて考えていた織田は、あ、と思いついたように、にっこり笑った。 「高校生の頃の高瀬のかわりに、今の高瀬を、イイコイイコしてあげよう」 「……は?」  これは絶対酔っぱらってるが故のセリフだな……。  織田は、にこにこしながら立膝で立ちあがり。  イイコイイコ~、なんて言いながら、オレの頭を撫でてきた。 「……っ……」  頭をくしゃくしゃにされた数秒後、立膝で背伸びをしてオレを撫でようとする、おかしな体勢を自分で支えられずに、織田はふらついて、どさっとオレの上に降ってきた。   咄嗟に支えると、何を思ったのか、そのまま、ぎゅーと抱き付いてきた。 「えっ、織田、倒れた?」 「高瀬、大丈夫?」 「なになに、織田、酔っぱらっちゃったの?」 「さっきから顔やばかっもんなー」  さすがに周りが気づいて、あれやこれやと、声をかけてくる。  そんな中。 「――――……高瀬、イイコ……」  耳元で、寝ぼけてるみたいな声で、囁かれる。 「……っ」  不意に、どく、と鼓動が跳ね上がった。  どっどっ、と、音を立てて。  それは、急な、衝撃で。  自分でも驚いた。 「ありゃりゃー、織田、起き上がれないの?」 「おわー、この酔っぱらいはー……」  どんどん皆が気づいてきて、一気に騒がしくなる。 「高瀬、大丈夫か? とりあえず起こそっか」  1人が、織田の腕を掴み、ぐい、と引こうとした。 「……あ、大丈夫、だ」  引き離されそうになったのを、オレは咄嗟に遮った。  一瞬不思議そうな顔をされて、内心焦る。 「すげえ足ふらついてたから、しばらくこのままで我慢する」  咄嗟についた嘘。 「高瀬君、やさしい~」  女子の声が飛んでくる。  苦笑いしつつ。  織田の体勢を少し変えさせて、自分に寄りかからせるような形で支え直す。すぐ下で、目を擦ってる姿を、見下ろす。 「……なんかさー、たかせさー……」 「……ん?」 「いまさー、我慢て言った?」 「ん? ……ああ、 我慢……  いや。言ってないよ」  本気で言ったわけじゃないし。  ふ、と笑ってそう言って返すと。 「オレのこと我慢するってさー、いわなかった?」 「……空耳じゃないか?」  クスクス笑って、あくまでそう返すと。 「……そっかー……じゃあ……いいけどさー……」  織田も少し笑ってる。    ……細いな……体。  でも、女の子のそれとは違う。 柔らかい訳では、ない。  ――――……けれど。  なぜだか。 「……織田、何か、香水つけてる?」 「……んー……? ……つけてないよ……」    なんとなく、いい匂い、すんだけど。  ――――……もっと、近づいてみたい位。  なぜだか、このまま、抱きしめてしまいたいという気持ちが湧き上がる。 「……高瀬はつけてるでしょ…… いつも良い匂いするもんなー」 「――――……」 「何、つけてんのか、今度教えて……」 「今度?」 「今名前聞いても、忘れそう……」  クスクス笑う、眠そうな、その顔に。  どんどん収集がつかなくなっていく、色々な、気持ち。 「……織田」 「……う、ん……? なに?」 「……お前酔っぱらってるし」 「……うん ……?」 「……オレんち、来る? こっから近い」 「――――……え? ……いいの?」  オレの提案にしばらく固まった後。織田は急に、ぱち、と目を開けて。  下からまっすぐ見つめてくる。 「そんな大勢で来られたくねーから、他の奴には内緒。 ……できる?」 「……できる……」 「……立てるようになったら、抜けようぜ」 「……うん。ありがと」  嬉しそうに、素直に笑む唇。  ――――……真下にあって、近すぎるからか……。  不意に、ものすごく、意識して。  キスしたい衝動に駆られるけれど、何とか抑える。  ――――…… 初めて、家に誘ったのは、そんな夜だった。  いつでも、キラキラした瞳でオレを見つめ続けてくる織田を。  ……なんだかもっと、特別に、知りたくなってしまったから。  ただの同僚以上に、関係を持ちたいと、思った、から。

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