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 初めて家に誘った日。  織田は結構ふらふらしてて。  オレは、それを軽く支えながら帰ってきた。  そもそも、オレは酔っぱらいが好きではない。  好きではないというか、理解できないし、むしろ、嫌い。  酒臭い、うるさい、みっともない、面倒くさい。  自分の中の「酔っぱらい」を敢えて言葉で表現するのであればそんな感じ。  自分が酒に強くて、なかなか酔わないって事もあって、気持ちが分からない。弱いなら、飲まなきゃいいのに、と思う。  ずっとそう思ってきたから、酔っぱらいを介抱した事なんかなかった。  大体そういうのは、進んで介抱役を引き受ける奴がどこにでも居るから、完全に任せてきた。それなのに。  マンションのエレベーターに乗り込んで、ボタンを押して織田を振り返ると。 「――――……たかせ……」 「……ん?」  ぼんやりした顔で、オレを見上げてくる。  なんだかこのままだと倒れるんじゃないかと思って、寄り添って支えた。 「――――……急に、きちゃって、大丈夫だった?」 「大丈夫じゃなきゃ、誘ってない」 「……ごめんね、オレがふらついてたからだよね」 「――――……」 「……ごめん、さっき、上に乗っちゃって」 「あ、覚えてるのか」  思わずクスクス笑ってしまうと、織田は、うん、と頷いた。 「――――……その前に話してた事も、ちゃんと覚えてるよ」 「……ん。そか」 「……高瀬が良い奴だって話」 「――――……そんな話じゃないって」 「……そんな話、だよ」  クスクス笑って。織田が見上げてくる。 「――――……」  何も返せないまま、エレベーターが部屋の階についた。織田を連れて、部屋まで歩く。鍵を開けて、ドアを開けて中に招き入れると、とりあえず玄関に座らせた。  その目の前に、しゃがんで、織田を見つめる。 「……気分は?」 「――――……ん、すっごい良いよ?」  フワフワ笑う。 「ふらふらして何言ってんだよ」  そんな風に言いながら、けれど織田が可愛くて、笑ってしまう。 「……ごめんね、迷惑かけて」 「――――……かけらも迷惑って思ってないから平気」 「……ありがと」  ふふ、と織田がまた笑う。  そう。  なんでだか、これっぽっちも迷惑だと思ってない。  ……マジで、酔っぱらい、嫌いなんだけど。オレ。  織田の酔い方は、オレの嫌いな酔い方では、無い気はするけれど。  幸せそうだし、ずっと笑ってて、別に気持ち悪くなってるわけでもないし。  ただひたすらに――――……可愛い感じ。  ……に見えてるのは、オレが、織田のことが好きだから、なんだろうか。  織田がオレを見つめる視線は。  多分、恋愛感情込みの、好き。  ただ、友達で、終わろうと思ってるんだろうとは、分かる。  それでも、毎日毎日、大好きだっていう視線と言葉が向かってくる。  今までは、付き合ってる相手ですら、好意を持たれ過ぎると、途端に冷めて、面倒になり、関係を続けられなかった。  それが親があんなだったから、もともと自分もそうなのかと、考えたりする事もあって。なぜ思われる程に冷めてしまうのかは分からなかったけれど、とにかく、冷めるものは冷める。  執着され始めると、急に冷めていく気持ちをどうする事もできず。  もとからあまり人に執着しないのは自分で分かってたし、その冷めていく自分を、どうにかしなければとも、思わなかった。  冷めた相手と別れても、また別の相手が現れる。  必要以上にモテる人生だったせいで、余計に、その時の相手への執着も薄かった。  ずっとそんな感じで生きてきたのに。  そういう意味でいったら、織田の視線なんて。  しかもそもそも、男だし。  ……絶対、あり得ない位に不快なはずなのに。  織田に対して感じる気持ちに、嫌だと感じるものが極端に少ない事。  それはもう、分かってる。  少ないというか、ほとんどない、んだと思う。  今まで嫌だと思っていたことすら、織田がしてるとかけらも嫌じゃなくて。  しかも、もしかしたら今までも、そこまで嫌じゃなかったのかもしれない、なんて。 今までの自分の気持ちすら、とらえ方が変わってきて。  なんだか、自分という人間が、  織田に関わってると、変わっていくような。  ……不思議な感覚。  きわめつけが、さっきの――――…… 親の話。  あれはほんとに、人生で一番いやな記憶で。  両親の不倫話なんて、信用もできない奴には話せないし。  ――――……多分このまま、誰にも話さずに生きていくんだと、思ってて。  自分の中だけで処理しきれずに、捨て去っていくものだと思っていたのに。  ――――…… 話せた事が、まず、そもそも、ありえないレベル。  話した結果、返ってきた言葉も、予想もしなかったような言葉で。  それに対して、オレが感じた事も――――……。  全部、予想を飛び越えてて。  だけど、それが――――…… 嫌じゃなくて。    「……織田」  目の前の、織田の柔らかい髪を、くしゃ、と撫でる。 「明日土曜日なんか予定ある?」 「……ううん、明日入れてない」 「……じゃ、今日泊まって、明日ゆっくりしてけよ」 「――――……うん」  オレを見て、織田は、ふわ、と笑った。 「ありがと、高瀬」  そう言って、オレを見つめてくる織田に。  心の奥の方で、何か暖かくて。  オレは、それが何かを、もうほぼ、自覚していた。  それでも――――…… 恋愛関係に進む気は、なかった。  結婚して子供が欲しいって言ってたし。  ――――……今だけ、だ、きっと。  オレが想うのも。織田が、オレを想うのも、今だけ。  心の中で想いながら、こんな想いが薄れるのを待ちながら、  仲の良い同僚として、大事に付き合っていこうと、思っていた。

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