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◇お泊り*圭

「そういや、織田、スキキライはあるのか?」 「んー…… 納豆、嫌い」 「納豆? 食えねえの?」 「うん、無理」 「へえ…… 旨いのに」  高瀬の言葉に苦笑い。  ――――……会社の飲みの後、また高瀬のマンションに泊めて貰う事になった。明日の朝食を何か買おうという事で、高瀬のマンション近くのスーパーに入った。 「他にはある?」 「んーと…… ブロッコリーとかカリフラワーとか…… なめことか……」 「……あとは?」 「んー……結構スキキライ多いかも……言い切れない」 「は。ガキんちょかよ?」  クスクス笑う高瀬に、あっかんべーをしてみせて。 「じゃ高瀬は? 無いのかよ?」 「んー…… コレと言ってねえかな」 「……そん位食わないと、こんなに大きくなんねえのかな?」 「さあ? どうだかな?」  見上げたオレを、軽く見下ろして、高瀬はふ、と笑う。  ドキ、と反応する心臓。  いつもいつも、同じ事思うんだけど。  ……ただでさえカッコイイんだから、ほんとにマジで流し目みたいなのやめてくんないかな。  何か、この気持ちが、どこらへんで落ち着いてくれるか、もう真剣に、不安になるんだけど……。でも、一緒には居たいし……。  そんな事を思いながら視線を逸らして、買い物を続けた。  店を出て、歩きながら、もう見えてきた高瀬のマンションに、しみじみと。 「いいなー、高瀬のマンション、会社から近くて」 「ん?」 「オレも会社の近くに引っ越そうかなぁ……結構残業多いし……」 「――――……ここ、来る?」 「……え???」 「いいぜ、越してきても」 「え? ……高瀬のとこに???」 「部屋、余ってるし。……お前が良ければ、だけど」  そんなの、すごく嬉しいけど。  ――――……でも、こんな、一目惚れの相手と、一緒に暮らしたりなんかしてしまったら。冷めてくれればいいけど、ますます好きになってしまったりしたら、困るし。 「……悪いから良い」 「だから――――……オレは、良くなきゃ言わねえって。いつも言ってるだろ?」 「……そうだけど……」  ……じゃ、オレの心臓に悪いから、良い。  遠慮しとく。  うんうん、と、自分の考えに納得しながら。  辿り着いたマンションのエレベーターのボタンを高瀬が押すのをぼんやり見ていた。  エレベーターが動き出し、動いて行く階数表示を見ながら。 「……高瀬、オレの事まだ何も知らねえじゃん」 「ん?」 「まだ知り合ってそんな経ってないのに、一緒に暮らすとかしちゃって、オレがすっげえ変な奴だったらどーすんの?」 「……すっげえ変な奴は そんな事自分で言わねえと思うけど」  高瀬はおかしそうにクックッと笑って。 「オレ、お前の事何にも知らないの?」 「……」  何だかやけに近づかれて、覗き込まれて。  思わず、言葉を飲んだ。 「――――……何にもって事はねえと思うけど?」  何も答えられないで居るオレにクスクス笑うと、少し離れていった。  ていうか。  ……ほんとに、心臓に良くない……。  絶対この手で、女の子 落としてきたに違いない。  ……こんな風に見つめられて、落ちない訳がない。  ……ていうか、何でオレは男なのに、そんなのに、反応してるんだ……。  しかも、高瀬の方にはそんな気ないだろうに…… はーーー……。 「――――……んじゃ、もっと知ってからまた誘うか」 「え?」 「こーして2人で買い物すんのとか、楽しくねえ?」 「――――……」  そりゃ楽しいけど……。  ……楽しいけど、でも……。  高瀬は何も考えずに言ってるんだろうけど。  こっちは、大変なんだっつーの。  ほんとに、もっと好きになっちゃったら困るんだって。  ……マジで、困るんだからな。  楽しそうに笑いながら鍵を開け、「どーぞ」とドアを開いた高瀬。  オレは、中に招き入れて貰いながら。  一緒に暮らしたら、楽しいんだろうなあ、なんて、思ってしまった自分に。  ――――……ひとつ。ため息をついた。

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