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◇やばい*拓哉

 研修の途中で部長から、本社に残る旨がひっそりと言い渡されて。  その時、織田をどう思うか聞かれた。多分いつも一緒にやってて、一生懸命なのが目についたんだろう。もちろん、色々な点で超お薦めしておいた。  決定権なんかないけれど、意見は通ったらしい。  研修後、織田も本社勤務となり、配属先のチームも一緒になった。  ――――……すごく喜んだ顔をしてる織田を見て。  やっぱり、可愛く感じて。  喜んでる織田以上に、オレ自身が嬉しかった。 ◇ ◇ ◇ ◇  約1カ月の研修が終わり、各自配属場所に勤務した週の金曜。  チームの歓迎会があって、一緒に出席した。  オレ達新人が主役の飲み会で、1人ずつ挨拶に回って、結構飲まされた。もう途中から真っ赤だった織田には、途中でオレんちに来るか確認しといたので、とりあえず、そのまま別で飲みながら少し放っといたら、帰りにはかなりご機嫌にできあがっていた。  織田は、あんまり酒に強くはない、と思う。  ただ、ぐだぐだに酔う訳じゃないから、めちゃくちゃ弱いって訳でもない。  テンションが上がるのが早い、というのか。  楽しいと、ぱーっと飲んで、ご機嫌になる。  いつでも、楽しそうに笑ってる。今日も楽しそうだった。 「楽しかったねー、高瀬」 「……そうだな」  あははー、と笑ってる。    ――――……結局、今日も連れて帰ってきてしまった。  なんか最近、飲み会のたびに、織田を連れ帰ってきている。  こんなご機嫌の、警戒心のない織田を、電車で一人で帰すのが嫌で。  ついつい、オレんちに誘うと、いつも、うん、と嬉しそうに笑うので。  毎回、連れ帰ってきてしまう。 「ほら。またよろけてる。つかまれよ」 「……んー、ありがと」  エレベーターから降りようとして、少しふらつく織田をなんとなく支える。  今日は良いけど。  オレが居ない時も、こんななのかな、と思うと、ちょっと心配になる。 「……お前さ、少し飲むのセーブしたら?」 「……うーん?……だって楽しくて……」  えへへー、と笑う織田を、とりあえず部屋に入れて、玄関に座らせた。  ぼんやりと、見上げてくる織田の前にしゃがんで、真正面から、まっすぐ見つめる。 「オレが居る時はいいけどさ」 「――――……」 「……お前、オレが居ない飲み会の時、どーやって帰ってんの?」  むしろ、それが心配。  ――――……って、もう、22才の男に、同じ男がする心配じゃないとは、思うんだけど。  そう言ったら、織田は、んー?と少し考えて。  それから、にっこり笑った。 「……高瀬居ないときは、セーブしてるかも……」 「――――……ん?」  織田のセリフに、首をかしげる。 「居ない時は、セーブしてるのか?」 「……うん」  ぽわん、と笑ってる織田が、可愛い。  ――――……とか思うオレは、ほんと、何なんだろうか。  じ、と見つめてると、 少し息をのむのが分かる。  ……見つめると、いつもそう。  こういうのを見てると、 オレの事が好きなんだろうなと、感じて。  普通なら、男にこんな風にされたら、退くと思うんだけれど……。 「……なんかね……高瀬がいる時は連れて帰ってくれるし、いーかなあって。……ていうか、連れて帰って欲しいっていうか……」 「――――……」 「……迷惑だったら、言ってね。高瀬が居てもセーブする……」 「――――……」 「……なんか……高瀬が居るから、すごい楽しくて、飲んじゃうし……今日は、飲まされた、けど……」  あはは、と苦笑い。  連れて帰って欲しいとか。  ……オレが居るから楽しい、とか。  男にこんな風に言われても。普通、退くだけだと……思うんだけど。  なんか……。  ――――……ほんとに、織田が可愛くて。 「あー…… オレなんか恥ずかしい事言ってる……?」  ぽわぽわした顔で笑う織田の頬に、そっと手を触れさせる。 「――――……た、かせ……?」 「――――……」  ――――……このまま、キスしたい、なんて。  ……この衝動は、間違ってる、んだろうか。  勘違い、なのかな――――……。  分かんねえ。  女だったら、間違いなく、キスしてるけど。  ――――……織田にそれをしてはいけない気がする。  そのまま、触れてた指で、すり、と首筋をなぞると、織田が、ぴく、と小さく震えた。 「く、すぐったいんだけど……」  くすくす笑って、首をすくめてる。  ――――……やっぱり、可愛い。 「――――……オレが居る時だけに、しとけよな?」  ぷに、と頬をつまんで、そう言うと、 織田は、にっこり笑う。 「うん」  立ち上がって靴を脱いで。座ったままの織田の髪をくしゃと、撫でる。 「シャワー、先に浴びれる?」 「……うん」  素直に頷いて、ゆっくりと靴を脱いでる後ろ姿すら、なんだか可愛く見えて。 ――――……視線を外して、バスルームを準備しに移動した。  少し前、連れて帰ってきた織田と、一緒に買い物をしていた時。  つい、一緒に住むか?なんて言ってしまった。  織田とずっと一緒に居たら、楽しいだろうな、なんて思って。    でも――――……今、ずっと一緒に居たら。  ……触れてしまいそう。な、気が、してきた。  ……なんか、オレ……やばいな……。  自分の髪を掻き上げて、はあ、とため息をついた。

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