21 / 234

◇織田の居ない飲み会*拓哉

 夕方、織田と話して、自分の言葉で実感した。 『なんか、オレ、織田が居ない飲み会が久しぶりかも』  その言葉通り。  飲み会は必ずお互い一緒で。居ない事がない。  新人研修からこっち、会社の飲み会ばかりが入ってて、学生時代の飲みが久しぶりだったので、織田が居ない飲み会が久しぶり。  織田の方も、会社の飲みが入ってないこの日に、飲み会を入れていたらしく、珍しく、別の飲み会に参加する為に、新宿駅で、別れた。  久しぶりに会うゼミのメンバー。男女6人ずつで今日は12人集まっていた。いろんな課題を一緒にやったメンバーなので、わりと関係は深くて、居心地は悪くない。  皆それぞれ就職した会社の話になって、盛り上がってる。  酔いが進むにつれて、キレイな先輩が居るとか、上司がカッコイイだの騒いでいて。 「高瀬くんは、やっぱりモテてる? 同期、女子いるんでしょ?」 「女子は少ないかな。男のが断然多い」 「女子一人占めとか?」  クスクス笑われて。 「そんな事はないよ」 「付き合ってる人、今いないの?」 「今居ない」  周りの奴らがへー、と首を傾げてる。 「恋人が居ない期間なんてあるんだ?」 「珍しくない?」 「……オレ、居ない時もあるけど」 「いやいや、ないでしょ。 別れたってなったら、すぐ告白されて、だったじゃん」 「そうだよ、ないだろ」  ……いったいどんなイメージなんだ。 「……ちょっと気になる奴が居るから。しばらくこのままでいい」  言った瞬間。  周りが一斉に同じ反応。  え゛え゛え゛ー!!  だの。  うそだー!  だの。 「お前らうるさい」  冷たく払うと、周り中、苦笑い。 「あー、なんか、拓哉って感じ」 「この冷たい感じ……」 「久しぶりで、もう割と気持ちいい位だよな」 「分かる分かるー」  好き勝手言ってる奴らに、視線を流しつつ、酒を飲む。  いつも、こういう飲み会の時、織田が居るから。  なんとなく目で、居場所を確認するくせがついてて。  ――――……今日は、どんなに見回しても、居ないのは分かっているのに。 「――――……高瀬ってさ、職場でもそういう感じでいるの?」 「そういう感じて?」 「ぱっと見もだけど、喋り方、抑揚ないじゃん? オレ最初お前怖かったもんなー。その冷めた目で見たら、先輩に目ぇつけられそうだなーと思って」 「なんだそれ。怖かったのか?」 「怖かったよ。 顔すげー整ってるから、余計。なあ?」 「うん。怖かった」  あはは、と周りが笑う。 「超カッコよかったよ、会ったときから。 入学した最初から噂だったもん、超カッコイイ人がいるって」 「女子はなー、そうだったかもしんねーけど」  一通り好き勝手に言われながら、特に突っ込みも入れず過ごしていたら。 「だからー、お前、職場もそれで通してンの?」 「……どうだろ」  違うかも。  ――――……織田がいっつも、隣に居るから。  オレの言葉が足りないかなと思って、でも面倒くさいからそのままでいいか、と思う時に、織田が自然と追加して話すから、場の雰囲気はすごく和む。  ――――……あと、いつも織田が可愛いから、なんか、今までにない位、オレの機嫌が良くて、モチベーションがずっと高いというか。  普段の織田を思い浮かべたら、思わず、ふ、と笑んでしまった。 「――――……」  オレの返事を待って、オレを見ていたらしい周りが。特に女子が、一斉に騒ぎだした。 「なになに、今高瀬くんて、何を思い出したの?」 「そんな風に笑うの、初めて見たしー!」  きゃあきゃあ言い出した女子を「お前らうるさい」と、押しのけながら、男子たちが乗り出してくる。 「なになに、イイ女でも居るの?」 「聞かせろー」  肩を組まれて、相当うざい。 「別にイイ女なんて居ないから。チームに女居ないし」 「じゃあ何だよー、何思い出したー」 「いや、別に……」 「うそつくなー!」    あー……うるさい。  詳しく話す気もないので、軽く流す。  ――――……そんな言われるような顔で、オレ、笑った?  と、少し、首を傾げつつ。  織田、今頃どうしてるかな。  あんまり飲みすぎてないと良いけど。  なんて、すぐ、思い出してしまう。  ここに居ない事が、切なく感じる位、  ――――……そばに居たいと、思っている自分が不思議だった。

ともだちにシェアしよう!