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 高瀬といつも、近づくと。  高瀬のつけてる香水が微かに香る。  それ位、近づいたんだって、そう思った瞬間もまた、どき、とする。  勝手に反応する心臓に焦るけど、高瀬に気づかれないように。 「ここらへん……」 「うん。あ、これ、焼き鳥屋の人に撮ってもらったやつか」 「うん、そう」  頷くと、高瀬が、ふ、と微笑む。 「ああいうの頼むの、織田、得意だよな」 「ん? 得意?かな?」 「頼むのも得意だけど、頼まなくても向こうから撮ろうかって話しかけられるとか。もう、特技だよな」 「え。そう?なのかな??」  そんな特技ってある?と、正直、良く分からないけど、高瀬がクスクス笑ってて、楽しそうだから。  まあ、いっか。と流してると。 「そういうのオレは出来ないし――――……すごい好きなんだよね」 「――――……」  …………ん?  ……すごい、好き? て、言った? 「全部送っといて?」 「え、あ。 うん。全部――――……オレの1人のも??」  高瀬はマジマジと、オレを見つめて。  ぷ、と笑う。 「ん。織田のも。送って?」 「――――……っ」  赤面。  しないなんて、無理。  ――――……好きとか言うし。  もう。高瀬って。ほんとに。 「……送るけど、落書きとかしないでね」  なんだかとっても照れくさいので、ふざけてそう言ったら。  面白そうにクスッと笑って。 「しないよ。――――……あ、でも。壁紙にしていい?」 「……………」  ブルブルブルブル。  言葉が出せず、ブルブル首を振ると。  高瀬はもう可笑しくてたまらない、という感じで笑う。  からかってばっかり、高瀬……。ほんとに。  もう、なんて返したらいいのやら。黙っていると。 「怒んないで、織田?」  クスクス笑いながら、高瀬が隣から覗いてくる。 「……怒ってる訳じゃないけど。……高瀬って、オレからかうの好きだよね」  写真を全部選択して、送信ボタンを押す。 「送ったよ?」 「ん」  高瀬がスマホを出して、確認してる。 「織田、楽しそう」 「うん。楽しかった。ていうか、高瀬も楽しそうでしょ?」 「――――……ん。そうだな」  ふ、と笑って。  オレに視線を向けてくる。 「――――……??」  見つめられて、内心めちゃくちゃドキドキしていると。 「………織田と居ると、ほんと、楽しいから」 「――――……」  …………だから、ほんとに。  何て答えたら……。 「あと、オレ、からかってる訳じゃないよ。まあ……壁紙は、やったら怖いだろうからしないけど」 「……やっても怖くなかったら、やるの?」  なんかもう。  ドキドキしすぎて、茶化すしかできないオレに。 「織田が怖くないなら、織田が壁紙に居てもいいけど?」  おかしそうに、クスクス笑う高瀬に。  ――――……なんかもう。  …………もう無理だ。  コーヒーを飲んで誤魔化していると。 「んー……なんか、仕事する気、しないなー?」 「え?」 「なんかまだ祭りの余韻、ない?」 「……すっごい、ある」 「だよなー?」  クスクス笑いながら、高瀬が背伸びした。 「――――……まあしょーがねえか。仕事するか……」 「うん」  立ち上がった高瀬に頷いて、オレはコーヒーを飲み終えて、紙コップを捨てる。 「なんか美味いランチ、行こっか?」 「うん、行く行く」 「それ楽しみに、仕事しよ」  高瀬が言ってくれた言葉に、嬉しくなって頷きながら、高瀬の隣に並ぶ。  なんか、いっつも、隣に高瀬が居て。   いっつも、優しくて。  居てくれるだけで、なんか、頑張ろうって思えて。  こうして居られるの。  いつまでかなあ。  まあ。職場だけなら、異動が無い限り、居られるかも。  社外でも、今みたいに、ずーっと、一緒にとか。  …………無理だとは分かってるんだけど。  やっぱり、少しでも長く、居れたらいいな。  最近色々考えていると。  結局たどり着くのは、いっつもいっつも、同じ事、だなあ……。  ぼんやり考えながら。  隣の、大好きな人を、見つめてしまうと。  ふ、と笑われて。  すぐ嬉しくなって。  うーん。  もう、意志の力じゃ、どうしようもないな、これ。  なんて、思った。

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