36 / 236

 高瀬といつも、近づくと。  高瀬のつけてる香水が微かに香る。  それ位、近づいたんだって、そう思った瞬間もまた、どき、とする。  勝手に反応する心臓に焦るけど、高瀬に気づかれないように。 「ここらへん……」 「うん。あ、これ、焼き鳥屋の人に撮ってもらったやつか」 「うん、そう」  頷くと、高瀬が、ふ、と微笑む。 「ああいうの頼むの、織田、得意だよな」 「ん? 得意?かな?」 「頼むのも得意だけど、頼まなくても向こうから撮ろうかって話しかけられるとか。もう、特技だよな」 「え。そう?なのかな??」  そんな特技ってある?と、正直、良く分からないけど、高瀬がクスクス笑ってて、楽しそうだから。  まあ、いっか。と流してると。 「そういうのオレは出来ないし――――……すごい好きなんだよね」 「――――……」  …………ん?  ……すごい、好き? て、言った? 「全部送っといて?」 「え、あ。 うん。全部――――……オレの1人のも??」  高瀬はマジマジと、オレを見つめて。  ぷ、と笑う。 「ん。織田のも。送って?」 「――――……っ」  赤面。  しないなんて、無理。  ――――……好きとか言うし。  もう。高瀬って。ほんとに。 「……送るけど、落書きとかしないでね」  なんだかとっても照れくさいので、ふざけてそう言ったら。  面白そうにクスッと笑って。 「しないよ。――――……あ、でも。壁紙にしていい?」 「……………」  ブルブルブルブル。  言葉が出せず、ブルブル首を振ると。  高瀬はもう可笑しくてたまらない、という感じで笑う。  からかってばっかり、高瀬……。ほんとに。  もう、なんて返したらいいのやら。黙っていると。 「怒んないで、織田?」  クスクス笑いながら、高瀬が隣から覗いてくる。 「……怒ってる訳じゃないけど。……高瀬って、オレからかうの好きだよね」  写真を全部選択して、送信ボタンを押す。 「送ったよ?」 「ん」  高瀬がスマホを出して、確認してる。 「織田、楽しそう」 「うん。楽しかった。ていうか、高瀬も楽しそうでしょ?」 「――――……ん。そうだな」  ふ、と笑って。  オレに視線を向けてくる。 「――――……??」  見つめられて、内心めちゃくちゃドキドキしていると。 「………織田と居ると、ほんと、楽しいから」 「――――……」  …………だから、ほんとに。  何て答えたら……。 「あと、オレ、からかってる訳じゃないよ。まあ……壁紙は、やったら怖いだろうからしないけど」 「……やっても怖くなかったら、やるの?」  なんかもう。  ドキドキしすぎて、茶化すしかできないオレに。 「織田が怖くないなら、織田が壁紙に居てもいいけど?」  おかしそうに、クスクス笑う高瀬に。  ――――……なんかもう。  …………もう無理だ。  コーヒーを飲んで誤魔化していると。 「んー……なんか、仕事する気、しないなー?」 「え?」 「なんかまだ祭りの余韻、ない?」 「……すっごい、ある」 「だよなー?」  クスクス笑いながら、高瀬が背伸びした。 「――――……まあしょーがねえか。仕事するか……」 「うん」  立ち上がった高瀬に頷いて、オレはコーヒーを飲み終えて、紙コップを捨てる。 「なんか美味いランチ、行こっか?」 「うん、行く行く」 「それ楽しみに、仕事しよ」  高瀬が言ってくれた言葉に、嬉しくなって頷きながら、高瀬の隣に並ぶ。  なんか、いっつも、隣に高瀬が居て。   いっつも、優しくて。  居てくれるだけで、なんか、頑張ろうって思えて。  こうして居られるの。  いつまでかなあ。  まあ。職場だけなら、異動が無い限り、居られるかも。  社外でも、今みたいに、ずーっと、一緒にとか。  …………無理だとは分かってるんだけど。  やっぱり、少しでも長く、居れたらいいな。  最近色々考えていると。  結局たどり着くのは、いっつもいっつも、同じ事、だなあ……。  ぼんやり考えながら。  隣の、大好きな人を、見つめてしまうと。  ふ、と笑われて。  すぐ嬉しくなって。  うーん。  もう、意志の力じゃ、どうしようもないな、これ。  なんて、思った。

ともだちにシェアしよう!