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◇絵奈ちゃん*圭 3

「えっと……絵奈ちゃん、て呼んでいい?」 「もちろん」 「何か飲む? って、高瀬の冷蔵庫だけど。 さっき好きに飲んでいいって言ってくれてたから」  オレがそう言うと、絵奈ちゃんは、じっとオレを見つめて。  ん?と首を傾げたオレに、ぽそ、と一言。 「――――……謎すぎです」 「え?」  ……謎すぎ???  さらに、ん?と不思議に思っていると。  絵奈ちゃんがじっとオレを見つめたまま、続けた。 「お兄ちゃんて、私にはなんだかんだ優しいけど……」 「うん??」 「何て言うのかな…… んーと、人をね、自分の領域に入れない人なんですよ、ほんとに」 「――――……そう、なの?」 「謎すぎます。よっぽど仲いいのかなと思ったけど……会社の同期って事は、まだ半年くらいですよね?」 「……ていうか、でも、高瀬、会った頃から、そんなに変わらないよ?」 「え、もうほんと謎です」  興味深そうに見てくる絵奈ちゃんに、ぷ、と笑ってしまう。 「高瀬、ほんとに最初から優しかったよ」 「――――……織田さんだから、なのかな」 「……さあ……どうだろ。 絵奈ちゃん、何か飲む? 中に、アイスティーと麦茶なら、ペットボトルあるけど」 「アイスティーください」  絵奈ちゃんにペットボトルを渡すと、スマホを置いたテーブルの椅子に腰かけた。真正面は避けて、斜め前に何となく座る。    謎って。今このシチュエーションの方が謎すぎるけど。  何してんだろ、オレ……。  ちょっと面白くなってきてしまう。  目の前に、大好きな人の妹が、座ってる。 「……高瀬に何か相談?」 「え?」 「一人暮らしのお兄ちゃんを急に訪ねる用事って何かなーと思って。 顔見にきただけ?」 「……ちょっと、男友達の事で聞いてほしくて」 「そっか。……高瀬の事、頼りにしてるんだね」  まあ。 すごく分かるけど。  頼りにしたくなる気持ち。  そんな風に思ってると、絵奈ちゃんは、うーん?と笑った。 「……お兄ちゃんて、すごくドライというか、冷静というか。私がかーってなって何か言っても、めちゃくちゃ冷めたまま聞いてて、ものすごい客観的に言ってくれるので……」 「……」  聞いてて少し、違和感。  ……ドライ、冷静、冷めてる……絵奈ちゃんの、高瀬のイメージって……。  なんか、パッと見の、高瀬のイメージのままなんだなあ。  中身もそうだって、思ってるのかな。  笑い出すと止まらなくなったり。  ……キスしたい、とか。 我慢できない、とか。  余裕のない、顔してる高瀬も、いっぱい見てると――――……。  高瀬って、すごく。  ――――……熱っぽい、人なんだけどな。  絵奈ちゃんの前では、ずーっと、クールでカッコイイお兄ちゃんでいたって事なのかな……? 「……そうだ。 織田さんに聞いてもらおうかなあ……」 「ん?」 「……お兄ちゃん以外の、男の人の意見も聞いてみたくて。 織田さんがよかったら」  そんな風に言うので、オレは、ふ、と笑った。 「聞いていいなら、聞くけど。いいの?」  そう言うと、絵奈ちゃんは嬉しそうな表情を見せる。  ふふ。可愛い。  ――――……高瀬の妹だと思うと、余計、可愛く見える。  そんなこんなで。  出会ったばかりの、絵奈ちゃんからの、相談タイムが始まった。

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