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◇絵奈ちゃん*圭 4
絵奈ちゃんの話はこうだった。
少し前に、彼氏に浮気されて別れた。
そしたら、大学のサークルの先輩に告白された。
カッコよくて、人気者の先輩。でも、ちょっと軽い。
とりあえず付き合ってみてもいいかなあと思っていたらしい。
そしたら、思わぬところから、告白された。
高1の時から仲の良い男友達。|淳《じゅん》くんというらしい。
絵奈ちゃんが言うには、容姿はいたって普通。優しいのが取りえ。
いつも、絵奈ちゃんの恋の悩みを聞いてくれてた。今回の浮気も、散々愚痴った。
先輩の告白の事も話した。
そしたら突然、告白されて。
けれど、その告白のされ方が納得できないらしい。
どうせ、誰と付き合ったって顔ばっかの奴で、絵奈は別れて、泣くか怒るかなんだから、もう、オレにしとけ。
そう言われたらしい。
……でも、カッコ良くは、ないらしい。超普通、と、この話の中で、何度も何度も言ってる……。
貴重な、愚痴を聞いてくれる男友達。
付き合っていつか失うなら、このまま友達でいたい。
――――……色んな感情抜きにして、整理すると、大体こんな感じ。
「……んー……なるほどー……」
「普通にいったら、先輩と絶対付き合うんですけど……」
「――――……」
「先輩と付き合ったら、もう、淳とは友達でもいれないのかなとか…… でも、淳と付き合うなんて、考えた事もなかったし……」
「んー……」
「織田さんなら、どっちと付き合いますか?」
「……オレなら?て言われると困るけど……」
笑ってしまう。
こんな質問、高瀬にもするのかなあ。
高瀬が冷めて答えてるっていうのが、ちょっと分かる気がする。
「絵奈ちゃんが、何を重視するかなんじゃない?」
「……重視?」
「まだ若いしさ。別に、とりあえず付き合ってみるっていうのは……オレもやってたし。全然否定はしないんだけど」
「――――……」
「……先輩はとりあえず付き合ってみる事は、できるけど…… でもさ、その、淳くん、は…… とりあえず、では、難しいよね……」
「……そうなんですよー……」
「だって、友達として大事なんでしょ? 愚痴聞いてくれる、大事な子なんだよね?」
「はい」
「……絵奈ちゃんの事、好きだって?」
「……好き……とは聞いてないような……」
「……ふーん……」
「オレにしとけば、泣かせないって。……それはちょっと、惹かれたんですけど……」
「……うーん……」
……良い子そう。
絵奈ちゃんの事、泣かせたく、ないんだな。
愚痴ったり泣いたりしてる絵奈ちゃん、見てられなくなったのかなあ……。
「……とりあえず、オレは」
「はい」
「……先輩の事がどうしても好き、じゃないなら、先輩は、今回は無しでいい気が…… 軽い人なんでしょ。絵奈ちゃんが、付き合う前から、オレに、軽いって言っちゃう感じなんでしょ……」
「……はい。色んな女の子と仲良くて。前付き合ってた人とも別れたばっかりで」
……うん。軽い、かな。
どうしても絵奈ちゃんの事が好き、な訳ではなさそう。
「……絵奈ちゃんが最終判断する事だから、オレならっていう話だけど」
「はい」
「……先輩の方はいったん断ってもいいと思う。 絵奈ちゃんの事本気で好きならその後もアプローチしてくるだろうし、そうでもないなら、他に行くかも。他に行ったら、その程度だったて思えばいいし、来てくれるなら、その時、考える……かなあ」
うんうん、と絵奈ちゃんが頷いてる。
「……大事なのは、淳くんの方だよ。 失いたくないなら、よく考えないと。
恋人になるのはどうしても違うなら、それは伝えないとだし。友達で、居たいって事も、断る時に伝えないと。……でも、友達に戻れるかは、分からないって事は覚悟しないとだし」
「……ですよね……」
「……恋人になってもいいって、可能性があるなら…… すぐ本格的に付き合うじゃなくて、でも可能性はある事は、伝えたら……? オレが淳くんなら…… 絵奈ちゃんの事、ほんとに好きなら、ちゃんと返事が出るまで、待つと思う」
「――――……」
あんまりにおっきな目で、じーっと見つめられたまま、とりあえずそこまで言ったけれど、ちょっと恥ずかしくなってきた。
「あー……と、ごめんね、これ、オレなら、って事だからね。その2人を知らないし、オレは、絵奈ちゃんの話でしか想像できないし……」
「ううん。すごく言ってる事、分かります」
「……まあでも…… 好きかどうかって……感覚な気がする」
「感覚?」
「ずっと一緒にいたいなーとか。好きだなーとか、思う人と、一緒に居れたら幸せだよね」
「――――……織田さんて、付き合ってる人、いるんですか?」
「え。あー……うん。居るよ」
絵奈ちゃんのお兄さん……なんて、言える訳がないけど。
「その人と、ずっと居たいって思うんですか?」
「……うん、思う」
高瀬が頭に浮かんできてしまって。
つい、ふ、と笑ってしまった。
「わーいいなー。 なんか、織田さんと付き合う人は、幸せそう」
のぞき込まれて、思わず照れる。
「なんか、あたしが付き合う人って、可愛いとかすごい言い寄ってくるくせに、二股とか三股とかの人も居て……」
「話聞いてると、カッコイイ人が多そうだもんね」
「……カッコイイ人って、モテるから、絶対浮気するんですかね……」
むー、と口をとがらせてる。
……そんな事言ったら、高瀬、絶対浮気する事になっちゃうけど……。
「そんな事は、ないと思うけど……」
……思いたいけど。
「織田さんは? 浮気した事ありますか?」
「……浮気はないよ。続かなかった事とかはよくあったけど」
「それって何で続かないんですか?」
「……とりあえず告白されてて付き合うとかが多かったからかなあ……」
「なるほどー……」
ってオレは、高瀬の妹に何を言ってるんだ。
「……淳は普通だから大丈夫かなあ」
「……普通って言いすぎ……」
クスクス笑ってしまう。
「だって、普通なんですよ、写真見ます? こないだ一緒に撮ったのが……」
まだ見るとも答えてないけど、絵奈ちゃんがスマホを操作し始める。
見て、すんごく普通だったら、何て言ったら良いんだろう、とちょっと困ってしまいながら、待っていると。
「この人……」
2人で仲良さそうに撮ってる写真が、こちらに向けられて。
「――……この子が淳くん?」
「はい」
「……普通にカッコいいと思うんだけど」
「え。……そうですか?」
「――――………??」
なんだろう、これって普通??
「先輩の写真ってある?」
「えーと……あ、この人」
「……なるほど」
――――……先輩は、モデルみたい。
……これに比べると、普通……て事??
「……絵奈ちゃんの、カッコイイのレベルって、すごい高い??」
「……そうですか?」
「うん、だって、淳くんて、普通よりカッコいいと思うけど…… てか、この子もモテるでしょ?」
「あー……うん、たまに、告白されたりしてるのは知ってますけど……なんでだろって……」
言いながら、首を傾げてる。
オレも思わず一緒に首を傾げて ――――……。
不意に、思いついた。
「……もしかして、高瀬が基準なの? 絵奈ちゃんのカッコいいって」
「――――……」
絵奈ちゃんがきょとん、として、さらに首を傾げてる。
「……考えた事、無かったけど……」
「――――……」
「言われてみたら、そうかも……。 だって、あの顔毎日見て育っちゃったから……」
苦笑いを浮かべてる。
うわー……。
可哀想……。
高瀬のレベルで男見てたら、なかなか居ないんじゃないだろうか……。
うーん。でも……。
「……なんか分かる……」
「え?」
「……高瀬を近くで見てたら、そうなっちゃうのも、なんか分かる……」
「――――……」
きょとん、としてオレを見ていた絵奈ちゃんが、ぷっと笑い出して。
口元押さえて、けれど、我慢できないみたいで、ケタケタ笑い出した。
「織田さんって――――……」
「……??」
「……お兄ちゃんの事、カッコイイってすごい思ってます?」
「――――……っ……」
やば。
……つい。
「……まあ、お兄ちゃんて、昔から私の男友達たちにも大人気だったんで。分かりますけど」
クスクス笑ったまま。勝手に納得してくれて、密かにほっとする。
やばいやばい。気をつけろ、オレ……。
高瀬まだかな、と思って時計をみるけど、まだ30分も経ってない。
さすがにまだかな……。
高瀬が帰ってくるまで、バレないようにしないと。
なんて、思ってしまった。
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