98 / 235

◇旅行*拓哉1

「ほんと、綺麗だったー」  遊覧船を降りて、駐車場まで歩く。  車で旅館に向けて出発すると、織田が嬉しそうにそう言った。 「良かった、喜んでくれて」  前を見つめたまま、オレが答えると。 「そりゃ喜ぶし。非日常ってすっごく楽しいね」 「うん。だな」 「水族館も、あざらしすごい可愛かった。ペンギンも」 「ん」  まあ、オレは、そこらへんを可愛がってる織田の方が、可愛かったけどな。  なんて、言わずに思って、ふ、と笑ってしまう。 「あ。――――……なんか急に思い出した」 「ん?」 「……絵奈ちゃん、どうしたかなあ。淳くん」 「あ、さっき、連絡来てたな……まだちゃんと見てなかった」  船で織田の写真を撮ってた時だったので、そのまま放ってしまっていた。  ちょうど信号が赤で止まったので、スマホの指紋認証だけ開けて、織田に渡す。 「絵奈のメッセージ開いていいよ」 「あ、うん――――……」  少しの間操作して、織田が、あった、と呟く。 「読むね? えーと… 昨日は急にごめんね。淳と付き合う事になったよ。一生大事にするって言ってくれたから、とりあえず信じてみようと思ってるよ。織田さんが、カッコイイって言うから、そう思って見たらそうかもって。だから、織田さんにありがとうって、伝えてね。 お兄ちゃんも、織田さんと仲良くね」  読んでいて、最後の言葉に織田がクスクス笑ってる。 「何でこれわざわざ書くのかな」 「さあ……? オレがお前のこと大好きだと思ってるみたいだから……」 「そう、なんだ……」  クスクス笑いながら、織田がオレに視線を向ける。 「……にしても、無事付き合う事になって、良かったね」 「まあな。あいつ、モテそうなのに、よくもこんな長いこと、絵奈の愚痴につきあってたなーとは思う」 「絶対淳くんてモテると思うよねー? ……うーん、でも、絵奈ちゃんは高瀬がお兄ちゃんだからしょうがないね」  クスクス笑いながら、織田がスマホを伏せて、オレの隣のドリンクホルダーの所に置いた。 「なんか基準が高瀬って、ちょっと可哀想になっちゃうよ。 うちの兄弟、普通で良かった」  なんて、言って、おかしそうに笑ってる織田。 「織田、5人の真ん中って言ってたよな?」 「うん。|俊兄《しゅんにい》、|美久姉《みくねえ》、オレで……|慎吾《しんご》と|加奈《かな》。5人だよ」 「織田に似てる?」 「……似てるかなあ。俊兄はもう結婚しててすっごい頼りになる。美久姉は婚約中。慎吾は高2で……慎吾が一番オレと似てるかも。 加奈は……まだ中1。可愛いよ、まだ幼くて」 「――――……5人ってすごいよな」 「んーまあ、あんまり居ないかな。でも、3家族知ってる。5人兄弟つれて4家族で遊びに行った時は、ものすごい人数でさー」 「そっか」  兄弟や家族の話をする織田が、楽しそうで。  笑顔で返していたのだけれど――――……。  ふと、またよぎってしまった。  ――――……3人子供欲しいなーとか、楽しそうに話してたもんな……。 「――――……」  ――――……オレ、織田のこと、離せそうにないんだけど。  ほんと、どうしようかな。  ……織田が子供欲しかったとか、結婚が、とか。  そこを考えるときだけ、少し、迷う。  「……高瀬??」 「え?  ああ、何?」 「なんか急に無言で。変な顔してるから」 「――――……いや、別に……」  変な顔してたか、オレ。やば……。  気を取り直して、会話を戻す。 「今も兄弟ってよく会うのか?」 「んー。ううん。実家帰ると弟たちはいるけど、俊兄は結婚してるから違うとこ住んでるし。っても、実家のすぐ近くなんだけどさ。 で、美久姉は、仕事が忙しい人だから、夜中に帰ってくるから、なかなか会えない。そもそもオレが就職してからそんなに帰ってないし」 「そうなんだな……」 「オレ、絵奈ちゃんに会ったしさ。ほんと、いつか高瀬にも、オレの兄弟たち、会ってほしいなー」  嬉しそうな顔をして、そんな風にしみじみ言ってる。  なんでこんなに可愛いんだろ。 「……いつか、会ってみたいよ」  クスクス笑いながら言うと、「うん。揃うとすっげーうるさいけど、引かないでね?」と笑う織田に、ぷ、と笑ってしまいながら、頷いた。

ともだちにシェアしよう!