102 / 235
◇勝てない*圭1
目の前の高瀬が、ビールの栓を抜いて差し出してくれるので、コップを持って入れてもらう。
「ありがと。……入れるよ?」
「ん」
瓶を受け取って、高瀬のコップにもビールを注いで。
2人でコップを合わせた。
一口、飲む。
――――……ドキドキドキドキ。
弾んだ心臓が、戻らない。
なんで、高瀬、あんな風に、急にキスするかな……
もう ――――…… 無理。
なんかもう……キツイ。
……なんでだろ、もう、どうしてあんなにキスうまいかな。
受けるだけで精一杯って、情けないけど。
――――…… もー……。
あやうく、反応するとこだった。
……もうギリギリ。 キスされただけで、なんて。もう。
でも、オレがわるいんじゃない……。
高瀬のキスがエロイからいけないんだー!
心の中は色々叫んでる。
でも、なるべく普通に、箸を進める。
美味しいけど。 すごく美味しいけど、
――――……もう、体熱いし……顔もまだ熱いし。
「――――……焼き鳥うまい?」
「え…… あ、うん、すごく美味しい」
「たれと塩、どっちが好きなんだっけ?」
「どっちも好きだけど……塩の方が好きかな……」
何とか答えられてる。はず。
……もう。……高瀬のバカ―!
もうもう、オレ、なんか、背筋が、ゾワゾワするし。
落ち着け。――――……早く、ご飯、食べて……風呂いけるかな……温泉入りたい……。
せっかくのご飯に集中できなくて辛いので、なんとか意識を体から背けようとしてみる。
「高瀬、後で露天いこ? さっき行かなかった方」
「ん、いーよ」
「星、見えるかな」
「たぶん見れるよ。船でも割と見えてたし。さっきよりもっと暗くなってきたし」
「……オレ、星見るの好き」
「ふうん。そうなんだ」
くす、と笑う高瀬。
「プラネタリウムとか、好きでさ。よく行ってた」
星の話をしていたら、やっと、体から意識を離せて。ほっとする。
……てか。
高瀬は、あんな風にキスしといて、全然平気な顔って。
……ずるい……。
「――――……織田、これ食べた?」
「え?」
「その緑のお皿」
「まだ。なに?」
「鶏肉。うまいよ。織田好きそう」
ふ、と優しく笑う高瀬に、どき、と弾む胸。
こんな事言ったらおかしいから言わないけど……。
今……オレの事、まっすぐ、見ないでほしい。
なんかオレ。
――――……見られるだけでドキドキすんの、ほんとやばい。
「あ。ほんとだ。美味しい」
すっごい、美味しい。
口に入れた料理が、思ったよりももっと美味しくて、もぐもぐ味わってたら。高瀬がふ、と笑った。
「プラネタリウム、今度連れてって」
「――――……え、あ。 プラネタリウム?」
「ん。オレ行った事ないから」
「――――……ん、いいよ。連れてく」
なんか、なんか。
……連れてってって。
……可愛い、高瀬。
連れてく連れてく。絶対連れてく。
「来週いこう、来週」
乗り出して誘ったら、高瀬が「いいよ」と、楽しそうに笑う。
楽しいな。
――――……なんかもう。ほんとに、高瀬が大好きすぎだよな、オレ。
「織田、酒頼む?」
「……ううん。もういいや」
酔っぱらうと、ろくな事がない気がする。
「――――……高瀬、飲みたかったら飲んでもいいよ、頼む?」
「んー……オレもいいや。 眠くなりたくないし」
「うん?」
……て。眠くなりたくないって。
……眠らずに、何するか……。
…… っ。
わー、もう何も考えるな、オレ。
高瀬ってば、完全に普通なのに。
ぐるぐる色々考えていたら――――……。
高瀬が、ぷ、と笑った。
「ごめん、わざと言ったけど――――……そんな、混乱されると」
「――――……」
「……そっち行きたくなるから、やめて」
「――――……」
クスクス笑われて、もう、何も言い返せない。
――――……く……っ。高瀬、ひどい……。
オレで遊ぶのやめて欲しい。
まだ笑ってるし。
…………だめだな、この笑ってくれてるのだけでも好きとか。
からかわれて笑われてんのに、好きとか。
ヤバいよね、オレ。
ヤバいの分かってても、好き過ぎて。
「織田のそういうほんと素直ーな反応が、オレすっごい好きなんだけど」
「――――…………」
そんな事言って、優しく笑ってるし……。
……勝てる訳ない……。
ともだちにシェアしよう!