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◇勝てない*圭3

 食事を食べ終えてすぐだったので、温泉の前に寄り道して旅館の庭を散歩した。控えめにライトアップされた庭は、とてもキレイで、織田は嬉しそうに歩いて行く。 「すっごい綺麗な写真が撮れそう」  そんな事を言って、さっきからスマホで連写してる。 「良い写真撮れた?」 「うん、すっごい綺麗」  ほんと、笑った顔、可愛い。 「織田も入れて撮る?」 「ううん。 一緒に撮ろ? 高瀬、撮って?」 「ん」  さっきと同じように、スマホを受け取って、背景入れつつ、2人で撮ってみる。その写真を確認して、嬉しそうに笑う。 「高瀬上手―」 「これで2回目」 「じゃ才能あるんだね」 「自撮りの?」 「うん」  クスクスと笑いながら、織田が先を歩いてく。 「……あ。俊兄からだ――――…… 楽しんで来いよー、だって。 婚約解消するとか入れんなって、美久姉に突っ込み入れてるよ」  可笑しそうに笑って、つっこみのスタンプを、見せてくる。 「あー良かった……」 「ん?」 「俊兄が止めてくれて」 「……あ、まだそれ言ってたのか」 「だって、美久姉って…… なんかほんとすごいから。結構美人なんだけどねー……だから余計すごいんだよなー。多分オレ、一生勝てない」  そんな事をいって、苦笑いの織田。 「……ていうかさ、織田」 「うん?」 「オレの意志が絡むんだからさ。そうなる訳ないじゃんか」  言うと、振り返った織田が、ふわ、と嬉しそうに笑った。 「そうなんだけどね…… でもなー、美久姉なー……」 「姉さん、怖いの?」 「怖くはないんだよ、優しいんだけど。ただね――――…… いつか、会えば分かるよ。昔からイケメン大好きっていうか」  織田がそんな事言いながら、クスクス笑う。 「高瀬の事とか、きっともう、ほんとに大好きだと思うなあ」 「そうなの?」 「うん。いつか会ったら、納得すると思う。婚約者の人も、結構なイケメンさんだよ」  にっこり笑って、そんな事言ってる。 「あ、高瀬、そろそろ温泉いく? もうお腹落ち着いた?」 「ん、行こうか」 「うん」  温泉に向かって、2人でゆっくり歩き出す。 「ここ、ほんとに良いね。 廊下歩いてるだけでもなんか落ち着く。内装とか、絵とか、キレイだし」 「――――……織田が気に入ってくれて、良かったよ」  言うと、めちゃくちゃにっこり、笑いながら。 「連れてきてくれて、ほんとありがと」 「……ん」  ……可愛い。  ――――……素直なとこ。 すげえ、好きかも。  ――――……不思議だな。  オレは、素直なんかとは、真逆で生きてきたのに。  そこがものすごく、愛しいとか。  自分が持ってない部分に、めちゃくちゃ惹かれてるんだろうか。 「あ、そうだ。高瀬、オレ、まだ何もお金出してないんだけど」 「え? ああ。別に――――……」 「別にじゃないよ、ちゃんと半分出すからね」 「――――……ほんとに、いいんだけど」 「やだ、半分出す」 「オレが勝手に、織田を連れてきたんだし」 「でも」 「出してもらうつもりなら、先に聞いたし……」 「――――……でも、全部出してもらうの、やだし」  あー……。そうか。  ……お互い、男だとこうなるのか。  彼氏に出してもらおうとか、そういうのじゃねーんだな。  んでも、勝手につれてきて、出してもらうっつーのもなー。 「今回はさ、オレに付き合ってもらってる、ていうんじゃダメ?」 「……」 「オレがお前と来たくて、来てもらったし、しかも場所言わずにつれて来ちゃったしさ。それくらいは出そうかなーと思うんだけど…… 別にそこまでバカ高くないし、ここ」 「――――……でも……なんか全部払ってもらうのも、なんか……」  まだ納得してくれてなさそう。  どうすっかな。 「――――……じゃあさ」 「うん」 「今度、お前が好きなとこに連れてって」 「――――……」 「どっかあるだろ、織田が好きな場所。出かけるだけでも、泊りでもなんでもいいから」 「――――……」  そう言ったら、織田が、色々思い出すようにしばし考えて。 「うん、ある」 「じゃあ、そこに連れてって。今回のは、オレが出したいから」 「んー……分かった」 「ん」  良かった。  やっと、納得してくれた。  ほっとしたところを、腕を引かれて、織田を見下ろすと。 「ありがと、高瀬」 「ん」  素直な礼の言葉に頷くと。 「――――……そしたら、また、今度はオレの好きなとこに、高瀬と行けるんだ。楽しみすぎる……」  ふわふわ嬉しそうに、めちゃくちゃ笑顔で、そう言う。 「――――……」  ……可愛すぎるよな。  なんなの、お前。  でもって、こんな無邪気な笑顔を見て、オレが思うのは。  ――――……めちゃくちゃに抱いて、乱れさせたい、なんていう。  こんな笑顔の織田にはとても言えないような、事で。  さっきからずっと、近くに居て触れそうなのに、触り切れない感じでいるからか。そろそろ、ちゃんと触りたい。  周りを一瞬見回して。人気のない事、確認。 「織田」  ぐい、と肩を組んで、近づける。 「え?」 「――――……温泉入って、早く部屋もどろ」 「え――――……あ、……うん」  最初良く分かってなかったみたいだったけれど、途中で「早く」の意味が分かったみたいで。かあっと赤くなりながら、こくこく、小刻みに頷いてて。  ……可愛い。  一日に何回、可愛いって思うんだろう。オレ。  しかも、男、相手なのに。  でも、今まで見てきた中で、一番、何してても可愛いって。  ……やばいな……。    そんな事を考えてるとは知りもしない織田は。  露天が楽しみとか、楽しそうに話してて。  またそれが可愛くて。  ほんと、困るんだけど。

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