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◇現金*拓哉
結局朝、渡から早めに行こうと連絡が来て、織田には連絡できなかった。
この仕事って、恋人関係保つのってきっと中々難しいよな……。
夕方になって、ふと、息をついた時。
渡先輩が、オレを振り返って、笑った。
「ちょっと休憩してきていいよ、高瀬。疲れた顔してっから」
「――――……はい」
確かにちょっと疲れた。素直に頷いて、休憩所に入る。
コーヒーを買って、椅子に腰かけて。
電話――――……してみるかな……。
仕事中だから、無理かな……。
呼び出し音。
3回。4回。そろそろ切ろうかなと思った瞬間。
『高瀬?』
織田の、明るい声が、聞こえてきた。
一瞬で、ふわりと、気持ちが上向く。
――――……マジで、現金だな、オレ。
「――――……織田」
『今、休憩所行くから、待っててくれる?』
「ん」
少しして、織田が「高瀬元気?」と嬉しそうな声で言ってくる。
『今ちょうど一息ついたとこでさ、太一先輩に電話してきますって出てきた』
「オレもやっと1人の休憩。……なかなか連絡できなくてごめんな」
『大丈夫。オレも、高瀬がいつ寝てるか分かんなくて送れなかったりしてるし。明日? 明後日まで? 終わるまでは、我慢するから』
「今の感じだと、明日で終わるかも。あとは担当に任せて帰れるんじゃないかって」
『明日、帰ってくる?』
「遅かったら泊って、明後日帰るかな……」
『そっか。――――……土曜、会える?』
「会える」
『……即答だね』
笑みを含んだ声が聞こえてきて、こちらも自然と微笑む。
『行っていい時、高瀬んちに行くね?』
「何時かはまだ分かんないから、帰れる時、連絡する」
『うん』
「――――……もすこし、話せる?」
『うん」
「……元気? 織田」
『……寂しいけど。元気』
「……寂しいのはこっちもだから」
『――――……ほんとに?』
「ん?」
『ほんとに、寂しい?』
「当たり前」
『やった』
嬉しそうな声。
――――……ふ、と笑ってしまう。
……可愛いな。ほんと。
『高瀬、加藤からの連絡見た?』
「ああ、明日の飲み?」
『オレ、早く帰れたら、行ってくるね』
「ああ」
『高瀬は、無理そう……だよね?』
「んー そうだな……。もし早く終わったら、行くけど……今回は無理そうかな」
『うん。期待はしないで、待ってる』
「ん」
『……何かオレ達さ、知り合ってから初だよね、離れて仕事すんの』
「……そうだな」
『……どんだけ気持ち的に頼ってるのかさ、思い知ったかも』
「――――……」
『もうちょっと、自立しないとって思っちゃった』
そんな台詞を聞くと。
自立なんかしなくていいのにと思ってしまうオレは、中々にどうしようもないなーと思いつつ。……それは、織田には言わないけれど。
「――――……つか、オレもさ」
『うん?』
「お前に、メンタルすげえ支えられてるなーって思い知ってる」
『――――……ん? オレに? 高瀬が?』
「ん、そう」
『そうなの?……なんか、よく分かんないけど、でも嬉しいな』
「――――……なんか、声聞いてたら、会いたくなってきた」
『……オレも』
「……電話じゃ触れないからなー…… 声聞くとますます触りたくなる」
こっちに誰も居ないのをいいことに、そんな風に言うと。
たぶん照れてる織田は、しばし返答がなく。
『……帰ってくんの、すっごい待ってるから』
ゆっくりそう言った織田が可愛く思えて、ふ、と笑う。
「――――……織田」
『え?』
「もしさ、ひとりでする時あったら」
『何を?』
「――――……オレとのこと、想像して」
『………え、 それ……て……』
「うん。――――……そういうこと」
『…………っ ば、ばかなの、たかせっ」
「――――……なんでだよ。いいじゃん」
『……っむりむりむりっ!』
げほげほ。
何やら向こうで、むせてる。
『……むり、だから、しない……から…… あの……』
「――――……ん?」
『……帰ったら――――……あの……』
「――――……」
「……帰ったら、しようね」
「――――……」
……やば。
……危うく、反応する……っつーの。やばいわ。
『き……きこえてる?? 返事ないとめっちゃ、恥ずいんだけど……』
「ん、聞こえてる。 任せといて」
『……っっ……っ任せといて、っていう返事も、おかしいから……』
自分が言ったくせに、また思い切り狼狽えまくりの織田に、ぷっと笑ってしまう。
「なんかこのままずっと電話してたいけど――――……」
『……戻らないとだよね。あと少し、頑張ろうねっ』
「ああ。がんばろうな」
『うん、またね』
織田の明るい声を最後に、電話を切って、手に持ってたコーヒーを飲み終えて立ち上がると。
かなり軽くなった気持ちとともに。職場に戻った。
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